25.老獪なる審美眼 vs 現代の詐欺師
咲良の絶大な影響力に目をつけたのは、誠実な企業だけではありませんでした。
ある日、彼女の元に「次世代の分散型金融(DeFi)プロジェクト」を自称する組織から、数千万円という破格の案件依頼が舞い込みました。
咲良はその依頼文を一読し、ふっと口角を上げました。
(……この言い回し、かつて異国の地で出会った、亡命貴族を装う詐欺師と同じ匂いがしますわね。表向きは完璧な数字を並べているけれど、行間に『良心』が欠けているわ。一度、表に引きずり出してお仕置きが必要ね)
咲良は彼らに一通の返信を送りました。
『興味深いお話です。ただし、私の配信内で直接ご説明いただくことが条件です。ファンの皆様に、私の口から正しく理解していただきたいので』
詐欺師側は「宣伝になるなら願ってもない」と快諾。彼らは、自分たちの「巧妙な資金隠し」が露見するなど、微塵も思っていなかったのです。
配信スタート:甘い誘惑と「謎の知識量」
「皆様、こんばんは。本日は、最新の金融技術を提案してくださる方々をお招きしています。……さあ、どうぞ。私と皆様を納得させてくださるかしら?」
配信画面には、清潔感のあるスーツの男たちが現れ、最新のチャートを駆使して熱弁を振るいました。咲良は、相手の話を遮らずに静かに聞いていましたが、一通りの説明が終わると、ふいに鋭い指摘を始めました。
「素晴らしいプレゼンテーションでしたわ。……ただ、一点だけ。あなたが先ほど『独立した第三者機関』と呼んだ監査法人。その登記住所、**かつて私が……いえ、昔見たことがある、中米の小さなペーパーカンパニーと同じビルにありますわね。**あそこは、犯罪組織の資金洗浄によく使われる場所ですけれど」
男たちの顔が、一瞬で強張りました。
「な、何を仰っているんですか。18歳のあなたがそんな場所を知っているはずが……」
「あら、アイラさん(黒金アイラ)に協力してもらって、あなた方の資金移動ルートを解析させていただいたの。何百もの中継口座を介して、専門家でも追えないほど巧妙に隠されていましたけれど……。この手法、国際的な犯罪組織が使う常套手段と全く同じですわ。」
視聴者の困惑と「咲良のブラフ」
あまりにも詳しすぎる、そして「犯罪組織の常套手段」という言葉の重みに、チャット欄が騒然となります。
視聴者コメント
「咲良ちゃん、何者なんだよ……」
「なんでそんな中米のビルに詳しいの!?」
「昔の任務って言いかけた!? マジで元SPとか外交官なの!?」
詐欺師たちが狼狽して回線を切った後、咲良はカメラに向かって、おどけたように小首を傾げました。
「あら、皆様。そんなに怖い顔をしないで。……『任務』だなんて、ただの言い間違いですよ。交渉を有利に進めるための**ちょっとしたブラフ(はったり)**ですわ。ふふ、私がそんな物騒な場所にいたはずがないでしょう?」
「中米のビル? ……ええ、昔読んだ推理小説の舞台だったかしら? 私、記憶力だけは良いものですから」
明らかにそれだけでは説明のつかない「凄み」を感じさせつつも、彼女はあくまで「18歳のVTuber」として微笑み続けました。
配信終了後:守護神の横顔
「皆様、今日は驚かせてごめんなさいね。でも、世の中には、皆様の『より良い未来を願う心』を利用しようとする者が必ず現れるの。……私が配信で彼らを呼んだのは、その手口を皆様の目に焼き付けてほしかったから。知恵は、自分を守るための最強の防具になるのですから」
配信を終え、咲良は冷めた紅茶を一口飲みました。
「……ふふ。ブラフ、と言っておけば今の若い方は信じてくれるかしら。でも、あの方々の詰め方は、かつてのテロリストよりはずっと甘かったわね」
咲良の「世界一のVTuber」への道。それは、ただの人気者ではなく、悪意を跳ね返し、人々を守り抜く**「正体不明の賢者」**として、さらに神秘性を増していくのでした。




