21.冷徹なる計算機と、99歳の包容力
咲良のマシュマロ配信がトレンドを席巻する中、VTuber界に彗星のごとく現れたのが、**『黒金アイラ』**でした。
「最新鋭AIと超天才数学者のハイブリッド」を自称する彼女は、配信で「感情による悩み相談は非効率。
人生はすべて最適解で導き出せる」と豪語し、暗に咲良のスタイルを「非科学的な精神論」と一蹴したのです。
咲良の反応:業界を愛する者の余裕
ある日の雑談配信中、視聴者から心配そうなマシュマロが届きました。
【マシュマロ】
「咲良ちゃん、新人VTuberの黒金アイラさんが、咲良ちゃんの相談を『非論理的で時間の無駄』って言ってるのを見ました。喧嘩を売られてるみたいで心配です。大丈夫ですか?」
それを見た咲良は、怒るどころか、どこか嬉しそうに目を細めました。
「ふふ、大丈夫ですよ。教えてくれてありがとう。アイラさんの配信、私も少し拝見しましたけれど、素晴らしいわね。あの若さで(設定上は)あれだけの情報処理能力と、一切の妥協を許さない論理的思考。今のVTuber界に、あんなにエッジの効いた才能が現れたなんて、本当に喜ばしいことだわ」
視聴者コメント
「えっ、まさかの高評価!?」
「喧嘩買わないどころか褒め殺しw」
「咲良ちゃんの余裕が異次元すぎる」
「彼女は敵ではなく、共にこの業界を高めていく**『大切な仲間』**よ。私のような古いタイプの人間と、彼女のような最先端の知性がぶつかり合うことで、視聴者の皆様に新しい視点を提供できるんですもの。いつかお話しできたら嬉しいわね」
アイラからの意外な打診
咲良のこの発言はすぐにアイラの耳にも届きました。
その数日後、咲良のもとに一通のDMが届きます。
『咲良氏へ。あなたの「論理を無視した解答」が、なぜこれほど支持されるのか、私の計算式では導き出せません。直接の対話を要請します。――黒金アイラ』
これを受け、次回の配信で**「知性の頂上決戦」**と銘打ったコラボ回が決定しました
コラボ配信は、凄まじい盛り上がりを見せました。
アイラの精密なデータ分析と、咲良の経験に裏打ちされた深い洞察。
二人のやり取りは火花を散らすようでありながら、どこか高次元のチェスを見ているような美しさがありました。
しかし、配信終了のボタンを押した直後。
ボイスチャットに残ったアイラの声から、先ほどまでの冷徹さが消えていました。
「……はぁ。……疲れました。咲良さん、まだ繋がっていますか?」
「ええ、お疲れ様。アイラさん、素晴らしい配信だったわよ」
「……本当は、怖かったんです。私、『超天才でAIの心を持つ』っていう設定を守るために、一言もしゃべり間違えられない、感情を出してはいけないって、ずっと自分を押し殺していて……。でも、今日の咲良さんの言葉を聞いていたら、何だか……苦しくなってしまって」
アイラは、若手クリエイターが企業から背負わされた**「完璧という名の重圧」**に、一人で耐えていたのでした。
「アイラさん、聞きなさい。鉄は熱いうちに打たねばなりませんが、冷やし続けたら脆くなって割れてしまうわ。あなたが背負っているのは『設定』かもしれないけれど、それを出力しているのは血の通った『あなた』なのよ」
咲良は優しく、しかし諭すように続けます。
「完璧な計算機になりたいなら、それこそ本物のAIに任せればいい。視聴者があなたに惹かれているのは、その完璧さの裏にある**『必死な努力』や『人間らしい震え』が見えるからよ。たまにはシステムエラーを起こして、笑ったり泣いたりしなさい。それが、長く愛されるための本当の『最適解』**だわ」
「システムエラーを……わざと起こすんですか?」
「ええ。あなたの『天才』という盾を、少しだけ下ろしてみなさい。そうすれば、もっと多くの温かい言葉が、あなたの胸に届くようになるわ」
翌日のアイラの配信では、初めて彼女が視聴者のボケに「ふふっ」と小さく笑う姿が見られました。
その瞬間、彼女の同接数は過去最高を記録。咲良はそれを裏で見て、満足げに紅茶を啜るのでした。
(私を頼ってくれる子がまた一人増えたわ。世界一への道は、こうして**『仲間を救いながら』**進むのが一番楽しいわね)




