1.準備~衝撃のデビュー配信
「どんなキャラクターにしようかしら」
咲子は3Dモデリングソフトを開いて考えた。せっかく若返ったのだから、可愛い女の子キャラクターにしよう。
「18歳の設定にしましょう。実際見た目もそのくらいだから合わせやすいでしょう」
キャラクターデザインを練る。髪の色はピンク。大きな瞳。制服姿が可愛らしい。
「名前は...咲良ちゃん。桜の『咲』に『良い』で咲良。春らしくて素敵な名前ね」
完成したアバターを見て、咲子は満足げに微笑んだ。ピンクの髪がふわふわと揺れ、大きな瞳がきらきらと輝いている。制服姿がとても愛らしい。
「可愛くできたわ。でも18歳の設定にしたけど、中身は99歳よね」
そう呟いて苦笑いする。もし視聴者にバレたら大変なことになる。
配信の練習も欠かさなかった。でも練習中、何度も危険な瞬間があった。
「戦時中はね...あ、危ない危ない」
つい戦実体験を話しそうになってしまう。99年分の記憶が頭の中にあるのだから、当然といえば当然だった。
「気をつけなくちゃ。18歳の女の子が戦時中の話なんて知ってるわけがないものね」
みゆちゃんも心配そうに見ている。
みゆ:「咲子ちゃん、たまに本当のことを言いそうになるよね。大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。気をつけるわ」
でも内心、咲子は不安だった。本当に18歳の女の子として通用するだろうか。
ついにデビューの日がやってきた。
「みなさん、はじめまして〜♪」
咲良ちゃんのアバターが画面に現れる。ピンクの髪がふわりと揺れ、制服姿が愛らしい。
「私、咲良です!今日から配信を始めることになりました!」
最初は数人の視聴者しかいなかった。
視聴者コメント(視聴者数:5人):
コメント:「初見です」
コメント:「可愛い」
コメント:「新人VTuberかな?」
だが、咲子が話し始めると、徐々に人数が増えていった。
外交官時代に培った話術が自然に出てしまう。相手の心を掴む話し方、興味を引く話の展開。99年の人生経験から滲み出る深み。
「えっとね、私、趣味は読書なんだけど...」
咲良ちゃんは、外交官時代に培った「聴衆を引き込む話術」を無意識に使っていた。
声のトーン調整は、高すぎず低すぎず、耳に心地よい声で、
間の取り方は適切なポーズで、視聴者の注意を引きつけ、
結論を最後に持ってくる構成で、興味を持続させる
「それでね、最近読んだ本がすっごく面白くて...」
視聴者コメント(視聴者数:50人に増加):
コメント:「なんか話し方上手くない?」
コメント:「18歳なのになんか落ち着いてる」
コメント:「プロっぽい」
コメント:「Toitarでヤバイ新人出たって話題になってるぞw」
コメント欄が賑やかになってきた。
30分ほど雑談をしていると、視聴者から質問が届いた。
視聴者コメント(ユーザー名:恋に悩む19歳): 「咲良ちゃん、彼氏ができないんです。どうしたらいいですか?」
咲良ちゃんは、少し考えてから答えた。
「恋愛相談ね。ありがとう♪ えっとね...」
咲子は反射的に、外交官時代に学んだ「人間関係構築の理論」を展開しようとした。
「恋愛というのはね、まず自分を大切にすることから始まるのよ」
視聴者コメント:
コメント:「うんうん」
コメント:「当たり前だけど、大事だよね」
コメント:「相手に合わせすぎて自分を見失ってしまったら、本当の愛は育たないの」
視聴者コメント:
コメント:「え、めっちゃ深い」
コメント:「18歳の言葉じゃないだろwwww」
コメント:「私も昔...」
(危ない!)
咲子は慌てて言葉を止めた。
(『私も昔、夫と付き合ってた時...』って言いそうになった!)
コメント:「咲良ちゃん18歳だよね?なんでそんなに詳しいの?」
コメント:「恋愛経験豊富すぎない?」
コメント:「どこで学んだの?」
コメントが殺到する。
「私も昔、おばあちゃんから聞いた話なんだけど!」
「おばあちゃんがね、『相手に依存しすぎると、相手も重く感じてしまう』って言ってたの」
視聴者コメント:
コメント:「おばあちゃん、賢いね」
コメント:「なるほど」
「だからね、まず自分が楽しく生きることが大事。そうすれば、自然と魅力的な人になって、相手も惹かれてくるよ♪」
【視聴者の反応 ― さらに深掘りされる】
視聴者コメント:
コメント: 「咲良ちゃん、それって『自己肯定感』と『共依存回避』の理論だよね。どこで学んだの?」
咲子は冷や汗をかいた。
(まずい...心理学要素が多すぎたかな)
「え〜っと、本で読んだの!」
咲良ちゃんは笑顔でごまかした。
「恋愛小説をたくさん読んでるから!ドラマもたくさん見てるしね♪」
視聴者コメント:
コメント:「恋愛小説でそんな深いこと書いてるの?wwww」
コメント:「どんな本読んでるんだよwwww」
コメント:「18歳とは思えないwwww」
配信が盛り上がってきたところで、次の相談が届いた。
視聴者コメント(ユーザー名:社畜25歳): 「咲良ちゃん、職場の上司とうまくいかないんです。どうすればいいですか?」
咲良ちゃんは少し考えてから答えた。
「職場の上司ね。難しいよね」
咲良ちゃんは、外交官時代に何百回も経験した「困難な交渉相手への対処法」を思い出していた。
「まず、上司の立場を理解することが大事だよ」
コメント:「うんうん」
「上司も、上からのプレッシャーを受けてるの。だから、イライラしてることが多い」
コメント:「確かに」
コメント:「でも、それで部下に当たるのはどうかと...」
「そこで、あなたができることは、『上司の負担を減らす提案』をすることなの」
「例えば、上司が困ってる案件があったら、『私がこの部分を調べておきましょうか?』って提案してみて」
「そうすると、上司は『この子は使える』って思うの。そして、あなたへの態度も変わってくる」
視聴者コメント:
コメント:「え、マジで?」
コメント:「それ、効果あるの?」
「私も...おばあちゃんから聞いた話だけど!」
(また危なかった!『私も外交官時代に何度も使った手法だけど』って言いそうになった)
「おばあちゃんが昔、会社で働いてた時に、この方法で上司と仲良くなったって言ってたよ♪」
コメント:これ、ビジネススクールで教える内容じゃん。どこで学んだの?」
咲良ちゃんは慌てた。
「え〜っと、YouTubeで見たの!ビジネス系のチャンネルとか!」
視聴者コメント:
コメント:「YouTubeでそんなこと学べるの?wwww」
コメント:「この子、天才かよwwww」
コメント:「18歳でこのレベルはヤバいwwww」
配信が1時間を超えたところで、さらに深刻な相談が届いた。
視聴者コメント(ユーザー名:家族に悩む22歳): 「咲良ちゃん、親と喧嘩して家を出ようと思ってます。どうすればいいですか?」
咲良ちゃんは、少し真剣な表情になった。
「家族問題...これは難しいね」
「でもね、一つだけ言えることがあるの」
咲良ちゃんは優しい声で語りかけた。
「家族っていうのは、どんなに喧嘩しても、最後まで味方でいてくれる存在なの」
視聴者コメント:
コメント:「そうかな...」
コメント:「でも、今は本当に辛いんです」
「私も...おばあちゃんから聞いた話なんだけど」
(また『おばあちゃん』を使ってしまった)
「おばあちゃんが若い頃、親と大喧嘩して家を出たことがあったんだって」
「でも、数年後に親が病気になった時、おばあちゃんはすごく後悔したらしいの」
咲良ちゃんの声が少し震えた。
「『あの時、もっと話を聞いてあげればよかった』『もっと感謝の言葉を伝えればよかった』って」
視聴者コメント:
コメント:「咲良ちゃん...泣いてる?」
コメント:「声が震えてる」
「だからね、家を出る前に、一度だけでいいから、親と本音で話してみて」
「『なんで怒ってるの?』『私のどこが気に入らないの?』って」
「そうすれば、案外、親も『実は心配してただけなんだ』って気づくかもしれない」
視聴者コメント:
コメント:「咲良ちゃん...泣いた」
コメント:「めちゃくちゃ良いアドバイス」
コメント:「18歳とは思えない深さ」
コメント:「人生経験豊富すぎるだろ」
視聴者コメント(ユーザー名:家族に悩む22歳):
コメント:「咲良ちゃん、ありがとう。もう一度、親と話してみます」
咲良ちゃんは涙を拭った。
「うん、頑張ってね。応援してるよ♪」
2時間の配信が終わった。
「それじゃあ、今日はここまで!みんな、ありがとう♪ またね!」
咲良ちゃんは手を振って、配信を終了した。
【最終的な視聴者数:500人】 【チャンネル登録者数:300人】
配信を終えた咲子は、深く息を吐いた。
「...何とか乗り切ったわ」
だが、コメント欄を見ると、すでに疑惑の声が上がっていた。
コメント:「咲良ちゃん、マジで18歳?」
コメント:「話術がプロすぎる」
コメント:「恋愛、仕事、家族...全部に的確なアドバイスできるのヤバい」
コメント:「どんな人生送ってきたんだよwwww」
コメント:「おばあちゃん、何者だよwwww」
みゆちゃんが駆け寄ってきた。
みゆ:「咲子さん、初配信大成功だよ!でも...」
「でも?」
「みんな、咲子さんの正体に気づき始めてるかも」
咲子は苦笑した。
「そうね...でも、まだ大丈夫よ。『おばあちゃんから聞いた話』で何とか乗り切れるわ」
だが、内心では不安だった。
(99年の人生経験を隠し続けるのは、簡単じゃないわね)




