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14.夏のホラーゲーム実況:おばけは怖い

個人勢との大規模コラボで一段と注目度を上げた咲良ちゃんが、夏の企画として選んだのは、人気ホラーゲーム**『怨霊ノ館』**の実況だった。


配信画面に映る咲良ちゃんのアバターは、いつものように涼しげだが、背景には不気味な廃墟が映し出されている。


「皆様、こんばんは。今日は、日本の夏には欠かせない、**『ヒヤッとする体験』**をお届けします。

ホラーゲームは初めてですが、どうぞお付き合いくださいね」


ゲームがスタートし、主人公が暗い廊下を進み始める。


視聴者コメント

「咲良ちゃんのホラゲー! 意外すぎる!」

「科学と理性の塊が、ホラーをどう捌くのか見もの」

「まさか叫び声が聞けるのか…?」


咲良はゲーム内の不気味な現象に対し、冷静な解説を始めた。


廊下の電灯がチカチカと点滅する。


「あら、これは定番の演出ですわね。電灯の寿命末期や、配電盤の接触不良、あるいは電圧の急激な変動が原因でしょう。心霊現象として演出されることの多い現象ですが、科学的には全く説明がつきます」


視聴者コメント

「解説が理系すぎるw」

「論理で恐怖を打ち消そうとする咲良ちゃん」

「心霊現象がただの配線不良に」


しかし、薄暗い部屋で、突然椅子がガタッと音を立てた。


咲良は一瞬動きを止め、冷静に分析する。


「今の音は、ゲームエンジンの演出でしょうけれど、現実なら**『熱膨張による建材の収縮音』か、あるいは『微風による振動』**。目に見えない存在によるものだと考えるのは、最も非論理的な結論です」


だが、彼女の口調は冷静でも、マイクの向こうで**「ヒッ」**という小さな息を呑む音が混じっていた。



主人公が古いタンスを開けると、中に日本人形が入っていた。その人形の目が、ギョロリと動く。


「あら、人形が動いたわね。これは映像の錯覚か、あるいは視線の誘導を利用した演出でしょう。人間の脳は、暗闇の中で動きを補完しようとしますから。お化けなんて、科学的に証明されていませんからね、大丈夫」


咲良はそう言い聞かせるように論理を並べたが、その言葉の途中で、急に声が高くなった。


「あ、ちょっと、タンスを閉めて! なんで、こんな不確実性の高いものを、わざわざアップで見る必要があるの!?」


キーボードを叩く音がわずかに乱れ、咲良ちゃんのアバターが、無関係な方向に顔を背けた。


「ふふ、まあ、**『備えあれば憂いなし』**というもので。不必要なリスクは排除すべき。これは人生の教訓ですよ」


視聴者コメント

「論理武装が崩壊してるww」

「完全に怖がってるやんけ!」

「『お化けは科学的に存在しない』って言いながら、タンスから目を逸らすなw」

「科学で説明できないからこそ怖いんだよ!」


そして、ゲームはクライマックスを迎える。薄暗い階段を上った瞬間、画面いっぱいに、顔が焼け爛れた女性の霊が突然現れ、大音量の絶叫が響き渡った。


「キャ、アアアアアアアア!!」


咲良の口から、今までの落ち着いた声からは想像もつかない、甲高く、可憐な、若い女性の悲鳴が上がった。


その悲鳴は一瞬でかき消え、彼女はヘッドセットのマイクを反射的にOFFにした。


「……ッ、はぁ……はぁ……。な、なんで、あんなものが……」


数秒後、マイクをONに戻したが、咲良の声は震えていた。


「し、視聴者の皆様、大変失礼いたしました。反射的な生理現象です。ええと、これは、映像と聴覚による強烈な刺激が、脳の**扁桃体へんとうたい**を強く刺激した結果であり、決して、その存在に恐怖を感じたわけではありません」


彼女は論理で恐怖を打ち消そうとするが、手が震えているのが声からも伝わってくる。


「私は、**『不確実性』と『予測不能な事態』**が苦手なの。お化けなんて、麻雀の確率計算のように予測も立たなければ、交渉のように論理も通用しない。私の知識が、全く役に立たない領域ですもの」


咲良ちゃんの**「知識では制御できないもの」**に対する、本能的な弱点が露呈した瞬間だった。視聴者はその意外なギャップに熱狂した。


視聴者コメント

「まさかの純粋な悲鳴www」

「理論武装が崩れた瞬間きたー!」

「お化けなんていないけど、大絶叫はする咲良ちゃん」

「あの知識の塊が、知識で通用しないものに恐怖を感じるのか…萌える」

「結論:咲良ちゃんは科学者であって、霊能力者ではない」



最終的にゲームはクリアできなかったものの、咲良ちゃんの**「論理と恐怖のギャップ」**は、この夏の配信で最大の話題となった。

次回は掲示板回です。

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