表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/246

第121話:【生放送】本当の声で、こんにちは。――デジタルな「自分」を脱ぐ夜



公園での「対話」から数日。HALの部屋には、再び明かりが灯っていました。


しかし、その景色は以前とは少し違います。メインモニター以外は電源が落とされ、部屋には窓から入る月明かりが差し込んでいました。


配信タイトルは、あえて飾らない言葉。 『【テスト】地声で、少しだけ。』


通知が行った瞬間、リスナーたちはざわつきました。  コメント:「え、地声!?」「HALくん、ボイチェン(声を変える機械)忘れたの?」「何が始まるんだ……」


配信開始のボタンを押してから、10秒間。スピーカーからは、HALの少し荒い呼吸の音だけが聞こえていました。 いつもなら、完璧なBGMと、加工されたカッコいい合成音声がすぐさま場を支配するはずです。


「……あ、……えっと」


ようやく聞こえてきたのは、細くて、今にも消えそうな、十代の少年の生身の声でした。


「……こんばんは。HALです。……驚かせて、ごめんなさい。今日は、機械フィルターを通さずに……僕の、本当の声で話をさせてください」


チャット欄のスピードが跳ね上がります。  

コメント:「えっ、これHALくん!?」

     「思ってたより可愛い声……」

     「めちゃくちゃ震えてるじゃん」


「僕は……ずっと怖かったんです。学校で上手くいかなくなって、誰かと直接向き合うのが怖くて。……だから、ネットの中に『完璧な自分』を作って、そこに引きこもっていました」



HALは、公園で感じた砂利の感触や、子供の笑顔を思い出しながら、たどたどしく言葉を繋ぎました。


「でも、ある人に言われました。このままだと、僕は30年後、本当のひとりぼっちになるって。……画面の中のログじゃなくて、誰かの体温を感じられるようになれって。……正直、今も怖くて逃げ出したいです。でも……」


HALは、マイクを握りしめました。


「『完璧な僕』じゃなくても、この震えてる僕のままでも……みんなと繋がれるか、確かめてみたいんです。……不格好で、全然王様じゃない僕だけど……今日から、やり直させてください」


 コメント:「HALくん、勇気出したね」

「声、震えてるけどすごく綺麗だよ」

「今の声の方が、ずっと近くに感じる」


荒らしや冷やかしのコメントも少しありましたが、それ以上に、HALの「弱さ」を受け入れる温かい言葉が画面を埋め尽くしました。


HALは、モニターに映るその文字を見て、初めて「回線」の向こう側にいるのが血の通った人間であることを、心から実感しました。



配信を終え、HALはヘッドセットを外しました。


耳に残るのは、静寂。でも、それは以前の「拒絶の静寂」ではなく、明日へと続く「休息の静寂」でした。


そこへ、スマホにメッセージが届きます。


『お疲れ様。マイク越しでも、あなたの「体温」はしっかり届いていましたわ。……これでようやく、あなたはネットの中に捨てていた「臓器」を、自分の中に取り戻せましたわね。』


HALは小さく笑い、自分の胸に手を当てました。 そこには、激しく打ち鳴らされる心臓の鼓動がありました。データには残らない、彼が生きている証拠です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ