12.個人VTuberとのおえかきの森
大手事務所とのコラボで一躍トップクラスの注目を集めた咲良ちゃんだが、次に彼女が選んだのは、意外な企画だった。
彼女のチャンネルで始まったのは、『咲良ちゃんと個人VTuber10名と遊ぼう!まったり絵しりとり大会』。
画面には、咲良ちゃんのアバターを中心に、9名の個人VTuberのアバターが並び、圧巻の光景を呈していた。
参加者の中には、登録者数2,000人ほどの新人個人勢、**『ひなた あおい』**ちゃんも含まれていた。
「ふふ、今日は総勢10名での大規模な企画。こんなにもたくさんの方々が参加してくださって、感謝いたします。いろんな方とお話がしたいという私のわがままに付き合ってくださってありがとうね」
「は、はい! 咲良さんのチャンネルに出られるなんて光栄です! みんな頑張ろうね!」(あおい)
咲良は優しく全体の進行をリードする。
「ルールは簡単。しりとりを絵で描いて繋いでいくだけ。楽しんでいきましょう。では、最初の起点は私からね」
誰も予測できない最初の絵
咲良はタブレットを持ち、サラサラとペンを走らせた。数秒後、画面に提示された絵を見て、参加者一同と視聴者は一斉に固まった。
咲良が描いた最初の絵は、『エッフェル塔』。
その絵は、精密なデッサン力と、複雑な機構を正確に捉える観察力に裏打ちされていた。
羅針盤の針の材質感、文字盤のフォント、枠の真鍮の光沢まで、驚くほどリアルに描かれている。
視聴者コメント
「え? リアルすぎるだろ」
「絵のスキルまでプロレベルなの!?」
「デッサンの正確さが異常。美術の教科書じゃん」
「10人目の人まで繋がるのかこれw」
「咲良ちゃんの教養の深さから逃げられない!」
「では、次の人お願いします。順番は、画面の左上のあおいちゃんからね」
「え、は、**『う』**ですか……」(あおい)
しりとりは和やかに進行し、時折、咲良ちゃんの選ぶ**『ニュートンのリンゴ』や『火星』**といった予想外の教養的な絵に、参加者が戸惑いながらも繋いでいく。
咲良ちゃんは、10名分の声のバランスを調整しながら、楽しそうに現代の若者の文化を学んでいた。
そして、しりとりが7人目のVTuberに回ったとき、突如として、咲良の配信画面が真っ暗になった。
「ピーッ!」という、ハウリングのような甲高いノイズ音が数秒間響き、咲良のマイクの接続も途切れた。
視聴者コメント
「え、何事!?」
「画面が消えたぞ!」
「ノイズ音やばい! 10人コラボでサーバー落ちたか?」
「咲良ちゃん、音信不通!」
他の9名のVTuberたちは一斉に騒ぎ出し、「咲良さん!?」「音が!」「どうしよう!」とパニックになる。
配信が一瞬で収集のつかない状態に陥った。
しかし、約10秒後。画面は真っ暗なままだったが、咲良の声だけが、極めて冷静で落ち着いた、わずかに低音になったトーンで、響き渡った。
「皆様、大丈夫ですよ。落ち着いてください。あおいちゃん、そして参加者の皆様。音声は私のサブ回線に切り替えたわ」
「画面は今、**『セキュリティの緊急遮断装置』**が作動しているだけです。おそらく、外部の不安定な信号を拾ってしまったのね」
咲良は、自宅の個人配信にもかかわらず、まるでプロの放送局の指揮官のように落ち着いていた。
「視聴者の皆様、ごめんなさいね。技術的な問題ですが、ご心配なく。30秒以内にはメイン回線を復旧させます」
「その間、進行は止めてはいけません。あおいちゃん、次に描くはずだった絵は何ですか? それを言葉で説明して、8人目のVTuberさんに口頭で繋いでください。私が司会として音声を統率します」
咲良は、ノイズの原因分析、サブ回線への切り替え、視聴者への現状報告、そして9名の参加者へのタスクと指示を、わずか数秒で完遂させ、混乱した配信を即座に制御下に置いた。
視聴者コメント
「え、リカバリー早すぎ!?」
「9人パニックの中、たった一人で指揮してる…」
「『サブ回線』!? 個人勢でサブ回線持ってるの!?」
「『セキュリティの緊急遮断装置』って何者なんだよ…」
「この統率力と冷静さ、企業役員でも無理だろ」
宣言通り、25秒後。画面はパッと明るくなり、咲良のアバターが再び現れた。
「復旧いたしました。皆様、ご協力ありがとう。では、8人目のVTuberさん、あおいちゃんからの『口頭伝達』の絵を描いて、しりとりを続けましょう」
咲良は、何事もなかったかのように、企画を再開した。その異常なほどの経験値と危機対応能力は、視聴者に強烈な印象を残した。
新しいつながりと咲良の喜び
最終的に、しりとりは**『けしごむ』**の『む』で終わってしまったが、全員がトラブルを乗り越えて協力し合ったことで、配信は成功裏に終わった。
「みんな、ありがとう! とても楽しかったわ。また遊んでね」
咲良は、配信を締めくくりながら、心の中で思った。
(緊急事態が発生したときの対応力は、長年の経験がものをいうわ。でも、こうした新しい配信技術や、あおいちゃんのような若い方々との交流は、**私にとって大切な『学び』**になる)
咲良ちゃんは、その圧倒的な知性と経験をもって、VTuberという「器」を通して、新しい時代との接続を楽しんでいた。
咲良ちゃんのチャンネルで行われた**『個人VTuber10名との絵しりとり大会』**は、咲良の教養と、緊急時の完璧なリカバリーがあいまって、歴史的な神回として拡散された。
その結果、咲良ちゃんが意図した通り、コラボに参加した他の9名の個人VTuberたちにも、大きな波及効果が生まれた。
救われた個人勢たち
配信の翌日。参加者のチャンネルには、まるで嵐が過ぎ去ったような激変が起きていた。
ひなた あおい(登録者数2,000人→1.8万人)の配信部屋。
あおいちゃんは、泣きながら視聴者にお礼を言っていた。
「うわああ、みんな! 信じられないよ! 昨日のコラボ後、一晩でチャンネル登録者が8倍に増えました!」
彼女の元々のリスナーは、彼女が一生懸命描いた**『こいぬ』**の絵が、「どう見ても犬ではない」と評判になり、咲良ファンの流入を促した。
「もはや逆にプロw」
「咲良師匠に選ばれた子だから応援する」
というコメントで溢れかえり、あおいちゃんは一気に個人勢の注目株となった。
カガミ ユウ(登録者数1万人→3.5万人)の配信。
彼は、ボケでちょくちょく『ゴリラ』を挟むという、教養とは真逆の絵を描いて笑いを取ったVTuberだ。
「昨日の咲良さんとのコラボ、本当にありがとうございました! 僕のチャンネルがこんなに伸びるなんて……」
彼が伸びた理由は、放送事故の際の、咲良ちゃんの迅速な指示にあった。
「あの時、咲良さんが『あおいちゃん、次に描く絵を言葉で伝えて』って指示を出したでしょ? あの混乱の中で、次に進む道を示せる人が、どれだけ貴重かって、改めて実感したよ」
咲良ちゃんの**「統率力」と「危機管理能力」**が、他の参加者を引き立てる形になったのだ。
タチバナ サクラ(登録者数5,000人→2万人)の配信。
彼女は、咲良ちゃんのサブ回線切り替え直後、**
「咲良さんの声が低くなって、逆に安心感がある」**とコメントした、冷静な参加者だった。
「咲良さんが私たちにコラボを打診してくれたのは、『もっと色々な人と話したい』という理由だったけれど、私には分かります。咲良さんは、私たちに『チャンス』を与えてくれたんだと思います」
「だって、あの騒動の中で、私たちは**『自分一人ではない』と実感できた。そして、『プロの対応』**というものを間近で見せてもらった。おかげで、私たち個々人のチャンネルに、注目が集まったんです」
彼女は、咲良の行動が単なる「遊び」ではなく、**「経験豊富な指導者による、若手育成のための計画的な支援」**だったのではないかと推測した。
咲良ちゃんの思惑
咲良ちゃんは、自宅の配信環境で、参加者たちのチャンネル登録者数が伸びているのを見て、静かに微笑んだ。
(ふふ、よかったわ。私一人で知恵を配信するよりも、こうして多くの若者が注目を浴びて、自分の才能や居場所を見つける手助けができる方が、ずっと有意義なことだもの)
彼女の目的は、単に麻雀に勝つことでも、話題を集めることでもない。99年の人生で培った知恵と影響力を、現代の若者たちが抱える**「孤独」や「目標喪失」**という問題解決のために活用することだった。
「人生は、誰かと**『牌を繋ぐ』**ことで、新しい役が完成するものよ」
咲良ちゃんは、次のコラボ相手を探すため、PCの検索窓に「悩める個人VTuber」と打ち込んだ。
その瞳には、深い慈愛と、次の人生の難局を見通す確かな光が宿っていた。




