第119.5話(中編):【連鎖する破滅】平等な死へのカウントダウン
咲子は乾いた布でブラシを何度も、何度もこすりながら、静かに言葉を継ぎました。
「最初の数ヶ月は、まるですべてが奇跡のようにうまくいっているように見えました。村人たちは、わたくしが定めた公平な差配に涙を流して感謝し、村には束の間の安らぎが訪れたのです。……でも、わたくしが目を逸らしていた、あまりにも巨大な落とし穴が足元に広がっていましたの」
その「落とし穴」とは、全員を生存ギリギリの状態に押し込めたことで、村という共同体が持っていたはずの『余力』を根こそぎ奪い去ってしまったという事実でした。どの家も蓄えがなく、ただ今日を生き延びるために全神経を使い果たしている……そんな、糸一本で繋がったような危うい均衡。
「そんな折、一房の稲に小さな病が流行りました。普段の村であれば、なんてことはなかったはずです。余裕のある家が薬を融通し、体力の残っている田んぼが村全体の食い扶持を支え、互いに補い合う……そうして何度も危機を乗り越えてきた歴史があった。けれど、わたくしの『公平』が、その助け合いの余地すら奪い去っていたのです」
一軒の家が病に倒れた瞬間、ドミノ倒しのように悲劇が連鎖しました。
どの家も自力で病を撥ね返す力を持たず、隣人を助ける余裕など、砂粒ほども残っていませんでした。
「病は枯れ野を走る火のように広がり、飢えが追い打ちをかけました。わたくしは慌てて外部から救援を呼び寄せましたが、救援物資が届く頃には……時すでに遅し、でしたわ。わたくしが必死に守り、均等に配り続けた『滴るような水』では、燃え盛る絶望を鎮めることなど、到底できませんでしたのよ」
ある朝、咲子が村の入り口に立ったとき、出迎えたのは歓迎の声ではなく、凍りついたような沈黙でした。
昨日まで自分に感謝の言葉を述べていた幼い子供も、誇りを持って鍬を振るっていた老人も、誰一人として動く者はいませんでした。
咲子が導き出した「究極の公平」は、村を救うどころか、全員を同時に、そして確実に死へと追いやる「平等な死」という最悪の結果を招いてしまったのです。
「個々の家が持っていたはずの、土壇場での踏ん張りや、泥臭い強み……。わたくしの完璧な机上の空論が、それらをすべて、綺麗に削ぎ落としてしまったのですわ」
リビングを流れる空気が、外の雨音よりも冷たく、重く沈んでいきました。




