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第4話 氷と炎の衝突

今回は謎解き要素もありつつ、後半にバトルシーンを盛り込みました。

書きたいものを詰め込んでいったら文字数多めになってしまいましたが、その分読み応えのある話が書けたと思いますので、この熱量を感じ取って頂けたら幸いです。特に、後半の緊迫のバトルシーンは最大の読みどころです!

グランタクト州北部の街『ポルトス』を目指して、若宮一吹わかみや・いぶきの運転する車は、同行する英エレナ(はなぶさ・えれな)と黒須ナユタ(くろす・なゆた)を乗せて、街道を走っていた。


「ポルトスまでは、まだ掛かるだろう。現地に着く前に今回の任務の詳細について、話しておこうと思う」


慣れた手つきでハンドル操作しながら一吹が語りだす。

「まず、少女の捜索だが、一週間ほど前にポルトスの西の森付近で行方不明になったらしい。依頼主は、その少女の友人だ。なんでも親友だったらしい…ちょうど君たちのようにね」


エレナは、隣に座るナユタを一瞬だけ見た。


「そうなんだ…何とか探し出してあげたいなあ。何か、手がかりは無いんですか?」


エレナが食い入るように質問すると、一吹が少し目を細めて答えた。

「残念ながら、赤い宝石が付いたペンダントをいつも首に下げていたくらいしか…ポルトスの街で聞き込めば、他に何か手掛かりが得られるかもしれない」


「少々、難航しそうですわね…そもそも行方不明になったのが、あの深い森林地帯ですし…」


「ナユタは、森の事を知ってるの?」

エレナが質問する。


「ええ、直接行ったわけではありませんが、それは深い森で地元の住人ですら、一度迷ったら無事で戻れる者は少ないと聞きますわ」


しばらく車内に沈黙が流れる。


「心して任務に当たった方が良さそうだな。おそらく妖魔も無数にいることだろう」


一旦、一吹が話を締めくくると、直ぐに次の話題を切り出した。

「次に野盗の捕縛についてだが、こちらも一週間ほど前からポルトス周辺に出没するようになったとリザイヤ本部から情報を受けている」


「少女の失踪のタイミングと同じですわね?何か関連があるのでしょうか…」

ナユタがすぐさま反応した。


「確かにその可能性も考えられるな。本部からはただ捕縛せよとの司令だが、捕縛したあとで事情を聞くとしよう。見た目の特徴については…ひとまず画像を送るから見てくれ」


エレナとナユタの携帯電話に画像が送られてきた。


金髪のポニーテールに小麦色の肌、パッチリとした少し吊り気味の青い瞳、

顔立ちは野盗のイメージの割に幼く、エレナ達と同年代の少女にも見える。

白いノースリーブに赤いスカーフを引っ掛け、

水色のデニムホットパンツの上部のベルトに複数の武器や道具を差していて、

足には茶色のブーツ。


一分ほど間を置いたあと、一吹が続ける。

「そして、三つ目の任務だが…既に少し説明したな?」


「規格外妖魔…ですよね?」


エレナがそう返答すると、一吹が続ける。

「ああ。だが、今回の任務で相手にするのは以前のように一体ではない。既に森で数体目撃したとの情報も入っている。最悪…数体同時に相手にする事態も想定しておかねばならないだろう…」


「ええっ!数体同時!?わたし達に務まるかなあ…」

少し弱気な表情でエレナがつぶやいた。


信号待ちで車が停車すると、一吹が後部座席の二人の方を振り向き真剣な眼差しで言った。

「100%の安全を保証することは出来ない。危なくなったら私に構わず逃げろ。元々、私が引き受けた任務に付き合わせた形だからな」


車内に重い空気が流れる。


しばらくして、一行を乗せた車は目的の街ポルトスに到着した。


* * *


昼の正午をとっくに過ぎた頃、車を止めた一行は徒歩で街を散策していた。


「あー、お腹減ったぁ…もうペコペコだよ…」

エレナが言い出すと、


「わたくしもですわ。朝から訓練でしたからね…」

ナユタも続いた。


「検索で出てきたんだが、このあたりにレストラン・バーがある。マスターへの聞き込みも兼ねて、そこで食事と摂ろう。お腹も空いているようだしな」


「賛成!!」

一吹の提案に、エレナが声を出して賛同、ナユタも静かに頷き、一行はレストラン・バーへと向かった。


レンガ造りの二階建ての建物。

濃い木製の扉の上には、金文字で刻まれた看板が掲げられている。


――レストラン・バー プライム


「……辺境の店にしては、随分立派だな」

一吹が小さく呟く。


昼間だというのに、窓からは柔らかな橙色の灯りが漏れていた。

軒先には香ばしい匂いが漂ってくる。


「わー!いい匂い!」

「美味しそうな匂いがしますわ」

エレナとナユタが鼻をくすぐる香りに反応する。


扉を開けると、温かな空気が一行を包み込んだ。


木目の美しい長いカウンター。

その奥には整然と並ぶ酒瓶と、磨き上げられたグラス。

テーブル席ではカップルや女性客が談笑し、

奥の壁際では家族連れが食事を楽しんでいる。


一行が、カウンター席に座るとウェイターが注文を取りに来た。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」


「わたし、ラザニア!」

「ビーフストロガノフをお願い致しますわ」


即座にウエイターに注文を伝えるエレナとナユタに少し遅れて一吹が言う

「私はそうだな…焼き魚定食を頼む」


「渋っ!でも、ちょっと先輩らしいかも…」

思わずエレナが発した。


「ん?そうか?私は倭州の出身でな。時々、故郷の味が懐かしくなるんだ」


「ええっ?若宮先輩って倭州の出身だったんですね!リザイヤにはいつ入られたんです?わたし、先輩みたいにどうやったら強くなれるかな?って興味があって…」


すると、一吹の普段はお堅い表情が和らぎ、静かに語り始めた。

「あれはちょうど、君たちと同じ年頃で…」


ふと、視界の端に違和感が走る。


言葉が止まる。


(……いる)


カウンターの端。

金髪のポニーテールにパッチリとした少し吊り気味の青い瞳…

そして、小麦色の肌…


「先輩…どうかしましたか?…あっ………」

(顔も服装も画像と一致していますわ…)

エレナとナユタもすぐに気付いたようだ。


すると様子を察した一吹が小声で囁いた。

「三人では警戒される。奴がここを出たらまず私が尾行する。君たちは少し間を置いてここを出てくれ」

一吹の提案に二人は、静かに頷いた。


ウエイターが先ほど一行が注文した料理を運んできた。

「お待たせ致しました。ラザニアのお客様…」


「はーい、わたしです!わー、美味しそう!」

平静を装うようにエレナが言った。


「マスター…ちょっと…」

「はい?何でしょう」


ナユタがマスターに自分の携帯電話を手渡す。

「何かご存知なら、何か情報が欲しいのですけれど」


ナユタの携帯電話の画面を見て、マスターはすぐにピンと来た様子で言った。

「一週間ほど前に西の森で行方不明になり、捜索願が出ている少女ですね。ご存知かも知れませんが、この街の有力政治家・柳田権太の娘さんということで、街中が大騒ぎでして…」


すると、カウンターの端にいる女性が、明らかに聞き耳を立てている様子だった。


(やはり…何か関連が…)


ナユタがしばらく思考を巡らせていると、ポニーテールの女が突然席を立ち、マスターに声を掛ける。


「マスター、お勘定よろっ!」

その口調は明るく、身なりに反して軽やかだった。


(この人、本当に野盗……なのかな?)

食事を進めながら、エレナの胸の奥に言葉にならない違和感が残る。


ポニーテールの女が店を後にすると、少し間を置いて一吹が二人を残し、店を出ていった。


* * *


店から出たポニーテールの女は、プライム近郊の広場を通過しようとしていた。


(…気配……)


女が振り向いた、その瞬間。

乾いた銃声。

石畳に火花が散る。


「……物騒だなあ」


女は肩をすくめるようにして跳躍。

既に抜刀している。


「ガキンッ!」


一吹の刀が、振り下ろされた刃を受け止める。

衝撃が腕を痺れさせる。


(速い……それに、重い)


「尾行、下手だね。ウチと勝負しちゃう?」


女が間近で笑う。

次の瞬間、視界から消える。

背後に女の気配。

咄嗟に振り向き、刃で受け火花が散る。

一歩、押される。


「くっ……!」


一吹は咄嗟に地面を蹴り、距離を取る。

女は楽しげに首を傾げた。


「結構、強いよ?」


女は背後に跳躍。

空中で腕が閃く。

投げナイフの雨が降る。

一吹は地面を蹴り横跳びでかわす。


石畳が砕ける音。

間もなく、女の影が迫る。

刃が落ちる。


「ガキィィン!」


受け止めた刀が軋む。

女が刃を繰り出すと、

一吹が受け止める。

矢継ぎ早に繰り出される刃の応酬。


睨み合い、

鍔迫り合いになる。


「ふぅん、なかなかやるじゃん」


(手荒な真似は、したくなかったんだが…)


一吹は、地面を蹴り距離を取る。


次の瞬間――


刀身を中心に、空気が軋んだ。

白い霜が、石畳を這う。

温度が落ち、吐息が白くなる。

一吹は、目を見開いた。


「氷華一閃!!」


一吹が刀で弧を描くと、

その軌跡が空中に残る。

残った弧が花のように開く。

氷の結晶が爆ぜる。


吹雪ではない。

結晶の嵐。


空間ごと閉じるように

対象を包み込む。


瞬間――


女の笑みが消え、

刃を手放す。


「灼烈波!!」


女が振り払うような仕草をすると

まるで女を守る様に爆炎が上がる。


氷の結晶が蒸発する。

蒸気が弾け、

衝撃が周囲の窓ガラスを震わせ、

石畳がひび割れる。


「ハァ…ハァ………」


一吹は、肩で息をしていた。


「へぇ…水の精霊使いだったんだ…結構、やるじゃん」

女は一吹の様子を眺めながら、一時休戦とばかりに、ゆっくりと捨てた刃を拾った。


「若宮先輩ー!」

エレナ達の声が聞こえる。


「さすがに三対一は、面倒かも…」

女はそうボヤくと、道具袋から玉を取り出し、地面に叩きつける。

あたり一面が煙に覆われ、一吹の視界を奪う。


「じゃね!報酬はウチが貰うから」


視界が晴れた時、女の姿はもう無かった。


エレナ達が心配そうに駆け寄った。


「若宮先輩!無事ですか…!?」


「かすり傷程度だ……私としたことが、少々軽率だったな…」


「良かった!」

一吹の様子を見て、エレナが安堵する。


「あのポニーテールの女性……それと行方不明の少女について、追加情報を得ました。順を追ってわたくしが説明しますわ」

ナユタがそう切り出すと、


「ああ。よろしく頼む」

いつもの冷静な口調で一吹が返答した。


「まず、ポニーテールの女性について。界隈では『風間 ほたる』と名乗っていまして、わたくし達同様、ペンダントの少女を探しているようですわ」


「風間……」

一吹は、その名前にどこか心あたりのある様子だった。


「多分ですけど…わたし、あの人が野盗というのが、どうしても引っかかっていて…」

エレナが胸の内を明かす。


「それと、行方不明の少女について、森の中で目撃したとの情報を得まして。少女は同じ年頃の少年らしき人物と森の奥深くへと進んで行ったとのことですわ」


ナユタから語られた情報を判断材料に

一吹は数秒の間、考える。


そして、二人にこう告げた。


「今から、森へ向かう」


空は、赤く染まりかけていた。

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