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第2話 休符のあいだに

第2話です!今回より、この話のテーマであり根幹となる部分が少しずつ明かされていきます。それでは、色々推理しながらお楽しみください。


普通のピアノ弾きだった少女「エレナ」が異能力に覚醒し、蔓延る妖魔を倒す「妖魔スレイヤー」に転身!ピアニストへの夢を追いながらも、友人である時を操る能力者「ナユタ」らとともに、妖魔退治の依頼をこなしていく救世ファンタジーです。

三つ目の妖魔との戦いから、五日が過ぎた土曜日の午後三時。


英エレナ(はなぶさ・えれな)は黒須ナユタ(くろす・なゆた)の屋敷に居た。


ナユタが中学入学の際に「通学のため」という名目で、国内外に精密時計を供給する巨大企業『クロスカンパニー』会長である父親から与えられたこの屋敷は、一般的な大金持ちが暮らす邸宅と比べても明らかに過剰な規模で、屋敷内を端から端まで歩くだけで軽い散策になるほどの広さがあった。


本邸のほかに来客用の離れや使用人区画を含んでおり、それでもなお、日常的に使われることのない部屋がいくつも存在している。大きな特色としては、大きな図書室と防音設備完備の音楽室があることだろう。


エレナは、そのうちの音楽室で、ナユタのヴァイオリンに合わせてピアノを弾いていた。


室内には、ピアノとヴァイオリンが織りなす優雅な音色が満ちている。


曲が終わると同時に、ナユタが弓を下ろして微笑む。


「エレナ、最近ますますピアノの腕前が上達してますわね」


ナユタに褒められたのが嬉しかったのか、エレナが笑顔で返す。


「ナユタが、いい先生を紹介してくれたおかげだよ!ただ、リザイヤの訓練と学校の宿題で練習時間はすっかり減っちゃったけどね……」


「学校の宿題なら、いつもわたくしが手伝っていますのによく言いますわ……とはいえ、学校に訓練にピアノの練習では、エレナも大変ですわね…」


ナユタは少し呆れながらも、今エレナが置かれている状況に軽く同情した。


「コンコン」


軽やかなノック音が鳴って、防音室の外から女性の声がした。


「ナユタさん、コーヒーをお持ちしました」


ナユタがエレナに視線を向ける。

「エレナ、少し休憩しながら話しませんこと?」


「うん、了解!そうしよう!」


ナユタが入室を許すと、栗色の長い三つ編みを胸の前に垂らした少女が、静かにトレイを抱えて入室してきた。あどけなさの残る大きな瞳は、柔らかく微笑んでいる。


天夜いのり(あまや・いのり)。


ナユタとは同い年で、この屋敷に仕える六人のメイドの中でも、彼女の身の回りの世話を任されるほど信頼を置かれている少女だ。


いのりは、二人の前に丁寧にカップを置いていく。


いのりの所作には一切の無駄がなく、それは個人の性格というより、長年染みついた教育の成果のように見えた。


「それでは、失礼致します」


いのりが退室しようとしたところを、ナユタが呼び止めた。


「いのり、これからリザイヤでの今後について話しますの。あなたの知識も借りたいので、会話に参加してくださいな。……もちろん、このことは他のメイドには内緒ですわ」


彼女はメイドとして奉仕する傍ら、屋敷の一万冊以上の書物を管理し、その多くの内容を記憶している生き字引でもある。


いのりは、数秒の間沈黙すると、


「……わかりました」


と深く頷き、ナユタの頼みを承諾した。


「わー、いのりっちの淹れてくれたコーヒー美味しいー!」


「まあ!うれしいです、エレナさん。『コーデリー州』で採れた厳選したコーヒー豆を使用しているんですよ」


「そうなんだ!コーデリー州は昔、ピアノの発表会で行ったことあってさ。少し街を離れると田園風景が広がってて、いいところだよね!」


「そうなんですね。機会があればぜひ行ってみたいです」


エレナといのりの雑談が盛り上がってる最中、ナユタは、無意識のうちに左手首に視線を落とした。


そこに在るはずの重みは、もう無い。

——すぐに気づき、何事もなかったかのように視線を戻す。


二人の雑談が終わったところで、ナユタが次の話題を切り出した。


「ところでエレナ。五日前、若宮先輩が倒したあの妖魔……死に際に“転売”がどうとか言ってましたわね?」


「言ってた!なんだか後悔しているように見えたけど……」


エレナの感想に頷きながら、ナユタが推理を進めるように続ける。


「子供向けの玩具を買い占めては、フリマサイト『ウルカリ』で転売行為していた悪質な出品者がいるのですが、一か月前から消息不明らしいですわ」


「もしかして……あの妖魔が、転売ヤーと交流を持ってた……とか?」


エレナの推測に、ナユタは顎に手を当て、いったん考えてから続けた。


「女性の連続失踪事件が起き始めたのも一か月前……何かしら関連はありそうですわ」


「んー…………わかんない!」


エレナは少し投げやりに返すと、話題を変えた。


「それよりさ!三つ目倒した時の若宮先輩、痺れるほどカッコよかったぁ!わたし達も、もっと実戦経験積めば先輩みたいに成れるのかな?」


「きっと、成れると思いますよ!お二人なら」


エレナの問いに答えたのは、ナユタではなく――いのりだった。


「何か、知ってそうですわね、いのり……話してみなさいな」


ナユタが促すと、いのりは姿勢を正した。


「では……順を追って説明します。まずは私達、現代人の能力の根源についてです」


壮大なテーマに、エレナとナユタは自然と姿勢を正し、耳を傾ける。


「かつて人類は、妖魔への抵抗手段をほとんど持っておらず、妖魔の脅威に怯えていました。そんな絶望的状況の中、召喚士『タクト』という人物が精霊界との繋がりを開き、精霊達の協力を得たのです」


「精霊……!?おとぎ話では聞いたことあるけど、本当に存在してたんだ…」


エレナが息を呑む。


「タクトは科学者達と協力し、精霊の力を人類のDNAに組み込む術を確立しました。その結果、特殊能力に目覚める者が続々と現れ、人類は妖魔を駆逐するに至ったのです」


「てことは……わたし達のDNAにも、精霊の力が?」


驚きを隠せない様子のエレナ。


「はい。さらにタクトは、特殊能力の中でも戦闘能力に特化した者達を集め、対妖魔組織リザイヤを結成。さらに後世のために政府に働きかけ、遺伝子能力検査で有望な妖魔スレイヤーの発掘する仕組みを作ったのです」


「つまり、遺伝子能力検査の適正判定…あれは、主に戦闘に関する潜在能力を示す…と」


ナユタが、鋭く核心に迫った。


「はい、おそらくは。…ですので先ほどは、A級適正のあるお二人なら大丈夫という意味での発言でした」


すると、ナユタが持論を述べた。


「あくまで潜在能力は上限…それを、上手く引き出せなければ無きに等しいですし、誰がどう使うかも重要ですわね」


「仰るとおり。その潜在能力をより上手く引き出すには媒介…これが鍵を握っていると書物には書かれていました。ですが…」


「それが何なのかまでは、書かれてない…と」


いのりが言わんとしている事を表情から察し、ナユタが先読みして言った。


「はい……」


一同、しばらく沈黙。


「リザイヤの人達なら、何か知ってるんじゃないかな?」


沈黙を破ったのはエレナだった。


「そうですわね。機会を伺って聞いてみましょうか。いのり、あなたが居てくれて、この先どうすれば良いか、少し見えてきた気がしますわ」


ナユタが微笑むと、いのりも微笑み返し、


「お役に立てたのなら光栄です。では、私これで…」


と、一礼してから退出するいのり。


その背中を見送りながら、ナユタはふと考えた。


(いのりは……あの装いに、よく似合う在り方をしていますわね)


すぐに考えを切り上げ、ナユタは微笑んだ。


「よし!休憩終わりっ、合奏の続きしよっ!」


いのり退室後、再び室内は二人の奏でる音色で満たされた。


翌日のリザイヤからの招集のことも忘れ、エレナはピアノの演奏に没頭した。

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