最終話
それからさらに月日が流れ。
私はジェフと結婚した。
慣れない妃教育を受けつつ、毎日ジェフの隣で公務に励んでいる。
妹のステファニーはと言うと。
婚約パーティーでボロが出まくり、手紙を書いたのが私だとバレたうえ、レオナルド様にも愛想をつかされてその場で婚約破棄されてしまったらしい。
父も母も恥をかかされたと大激怒。
いつものように甘やかすことなく、どこに出しても恥ずかしくないよう教育中だという。
いい気味だと思いつつも、ちょっと可哀想だなという気持ちもある。
ステファニーは育て方を間違えられただけで、ちゃんと教育されていれば立派な令嬢になっていたかもしれない。
もともと頭の良い子なのだ。
いまさら元には戻れないけど、願わくば少しはマシになって欲しい。
ベッドの中でそう思っていると、隣で眠るジェフが問いかけてきた。
「メアリー、考え事かい?」
「うん、妹のことをちょっと……」
「メアリーが誰にでも優しいのは知っているけど、今は僕だけのことを考えて欲しいな」
そう言って頬にキスをしてくる。
こういう時だけ軽快なジェフじゃないから卑怯だ。
ジェフは何度か私にキスをしたあと、言った。
「ねえ、メアリー。ひとつお願いがあるんだけど」
「なあに?」
「君の肖像画を描かせて欲しいんだ」
「私の肖像画?」
「うん。お母様のような肖像画を描きたいんだよ」
その言葉に、美術館で飾られていた女性の絵を思い出す。
あれは本当に素敵な絵だった。
今は王宮の一番奥に飾られている。
毎晩、国王陛下がその絵の前で語りかけてるんだそうだ。
そんな絵を私にも描いてくれるなんて。
「いいの?」
「僕が描きたいんだよ」
「それは願ってもないことだわ。ぜひ描いて」
私が言うと、ジェフは嬉しそうに笑った。
「よかった!」
「でも何故私に断るの? ひとこと描かせてって言えばいいじゃない」
「実はあの絵、描くのに10時間かかるんだ」
「へ?」
「さすがのお母様も10時間あの体勢をしていたから、次の日、体中が固まって大変だったって言ってたからさ」
「ちょっと待って、10時間!? 10時間もじっとしていなきゃいけないの!?」
「大丈夫大丈夫、あの頃より上手くなってるはずだから。8時間くらいには短縮出来るはずだよ」
「それは大丈夫とは言わないわよ!」
相変わらずのジェフの軽口に、私は本気で彼の胸板を叩く。
「いくら私が我慢強いといっても、限界があるんだから!」
お姉ちゃんなんだから我慢しなさい。
それはもう過去の話だ。
おしまい
最後までお読みいただきありがとうございました。
先日、インターネットで「お姉ちゃんなんだから我慢しなさいという言葉が謎すぎる」というのを目にして、確かにそうだなと思ってこの話を書きました。
世の中の長女や長兄って、割と我慢を強いられることが多い気がします。
自分自身、4つ上の兄がいるんですが、損な役割をいつもさせてたなと思い出しました。
妹や弟もそれなりに大変だけど、このお話を通してお兄さんやお姉さんに少しでも感謝できればいいなと思います。
最後まで本当にありがとうございました。




