誘拐未遂〜俺、邪魔した?
「どこに行くの?」
「散歩。夜にしか動けない。しかも今夜は何かざわつくんだ」
イシグロはベッドにいるアマランタの頬にキスをした。寝ぼけ眼でアマランタは静かに眠りに落ちた。これまで寝たことがなかったように思うほど寝息を立てた。
イシグロは庭に出た。
ずっと緊張して生きてきたんだな。
この世界でも……か。
花壇を踏んで窓を開けてレメディオスに侵入しようとする三人の影がいた。イシグロが紙巻き煙草を吸いながら尾行していたのも知らずに、三人は植え込みを越えて一直線にレメディオスのいる部屋に押し込もうとしていた。
三人目のサスペンダーをつかんで花壇へと引き倒して首をへし折ると、仲間のようなマネをして窓から忍び込んだ。
レメディオスがベルに繋がる紐を引こうとしていたが、ベッドから転げ落ちた。
イシグロは麻袋と縄を持った連中に拳銃を突きつけた。ナイフを持った一人は諦めてナイフを床に落として降参した。
「誰に頼まれた」
言葉が通じない。イシグロは震えるレメディオスに視線を落として、犯人たちに窓から逃げるように促した。彼らは窓から水へ飛び込むように植え込みへと逃げた。
「レメディオス、もう平気だ」
イシグロはレメディオスをベッドに寝かしつけた。大丈夫だと顔にかかる銀の髪を指で優しく除いた。誰か屋敷から手引きしたようだ。
「お嬢さん、お怪我は?」
「たんこぶができた。あなた、強いのね。あれは誰?わたしをどうしようとしたの?殺しに来たの?」
「疑問だらけだね」
「放っておいてもわたしは死ぬのに」
「おじさんはママのお友だちなんだ。昔々からのね。君とママを守るために来た」
「守ってくれるの?わたしのせいでママは悪いことしないといけないの。お父様はね、裏で悪いことしてるの。今度の舞踏会でも悪いことしようとしてる。わたしのせいで。だからわたしがいなくなれば」
「そんなこと考えてはいけない。君はママのすべてなんだ。悲しませちゃいけない」
「うん。でもね……」
「俺が調べてやる」
イシグロはレメディオスの頬に軽くキスをした。彼女は驚いて緊張していた。
アマランタに嫉妬された。
☆☆☆
翌朝、アマランタは伯爵に書斎に呼び出された。ベッドにはイシグロが隣にいた跡があるし、肌も心も満ちていた。
「あれから具合はどうだ?」
「よく眠れるようになりました」
「処方が効いているんだな」
あんなもの飲むものかと思いながら意識して儚げな笑みを浮かべた。
伯爵は上目遣いでニヤニヤした。
「ロイロット伯爵夫人を殺せ」
「いつどこで?」
「時間と場所は後で伝える。レメディオスの命が惜しければ刃向かうな」
マリア退室した。アマランタは暗黒街の伯爵に見込まれたようだが、小説版の何巻の話かもわからないし、そもそもマリア自身コミカライズの無料版しか読んでいないので、イシグロに頼るしかない。
「お義母様、おはようございます。チョコレートお嫌いですか?」
「ごめんなさい。気が動転んしていてしていて何も覚えてないの」
「また買ってきますわ。街はいいところですよ。何でも売ってるし、お父様のお友だちもたくさんいて心強いわ」
じゃ、街でずっといろ。
今のところソフィアはコミカライズ無料版でも少し出るくらいだが、確かレメディオスを追いやろうと描かれていた。
コミカライズ無料版すら遠い記憶だ。はたしてこの話のコミカライズ版なのかすら覚えていない。ちゃんと課金して読んでおくべきだったと後悔していた。




