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アマランタの朝

 街に来た翌朝、アマランタは伯爵の訪問で目が覚めた後、不愉快な気持ちを流そうと風呂でくつろぐことにした。今は緊張した体をほぐすことくらいしかできない。

 十日後の舞踏会まで、部屋にいるように命じられたが、娘のことが気になる。同じ街にいるのに生きているのかもわからない。イシグロがいるから心配もしなくていい。彼はレベッカに撃たれて寸前のところで瀕死で逃れた。しかしマリアは絶対にイシグロは生きているという気持ちは揺らがない。どんな困難なときでも、彼は余裕さえ見せるように自分を守ってくれた。


「ね、あなたも街にいるのよね?」


 ☆☆☆

 十年前、マリアはベッドで目覚めた。羽衣のような天蓋が見え、隣には淡いブルネットを後ろで束ねた召使いの背中が見えたので、何となしに尋ねた。


「ここは?」

「奥様……」


 召使いが慌てて紐を引いた。梁を伝い、どこかに繋がっているらしく、何人かのベテランの召使いが駆け付けた。どうやらイシグロに救われて、娼婦の館から逃げたことは嘘ではないのだろうと思った。

 次に浮かんできたのは、日本で隠れているときのことだ。世界を転々とし、偽の旅券を手に入れ、偽名で日本に来た。

 幸せだった。

 妊娠もした。


「わたしの赤ちゃん!」

「アマランタ様が目覚められました」

「レベッカ、あなたは旦那様に」


 命じられた召使いは、スカートの裾を跳ねさせながら部屋を出た後、すぐに青く冷たい肌をしたブレンディア伯爵が現れた。


「アマランタ、倒れたときは心配したぞ。今医者を呼びに行かせた」

「わたしはどうしたの?」

「おまえが部屋で倒れているところをレベッカが発見したんだよ。ここでおまえに万が一のことがあれば戦地の息子に申し訳が立たん」


 子ども……

 

 マリアはシーツの下で自分の腹をそっと撫でて確かめた。見たこともない屋敷、見たこともない召使い。しかし自分はイシグロとの子を妊娠している。コミカライズ無料版のところにアマランタ、レメディオスがいたことを思い出した。レベッカは天使で死神の庭師も登場していた。


「レメディオス……」


 無料の十話で、娘のレメディオスが突然の病で倒れたことを思い出した。マリアはアマランタとして転生したことを受け入れるのに時間はかからなかった。レメディオスを守るために状況に合わせていれば、自然とそうなってきた。ただイシグロのことを思うと、今でもギュッと胸が搾られる。

 十年、イシグロを待ち侘びた。来るか来ないかわからないが、信じた。この世界での夫のライアンには申し訳ないが、マリアはライアンのことは知らない。ようやく現れてくれたイシグロは、以前と変わることはなかった。マリアは気付いた。彼も死んでしまったのだ。十年、何をしていたの?

 ☆☆☆


 アマランタはガウンに着替えた。建設ラッシュの新市街地を望める窓、青空が眩しくて目を細めた。ノックがして、二人の給仕がブランチを運んできた。ブルネットの髪をした給仕が立ち、もう一人の青い瞳のブロンドがテーブルを整える間、アマランタはそっと扉に行き、錠を降ろした。

 給仕の後ろから、そのまま首ごと体を薙ぎ倒した。忌まわしい首をへし折ってやろうかと考えたが、みぞおちに拳を食い込ませて頭突きを食らわせた。

 もう一人も動いた。

 彼女はソファの背もたれを転がるように越え、間合いを空けると、右手に短い拳銃を抜いていた。瞬間、アマランタは倒れたレベッカを盾にし、昨夜のうちに隠しておいた花瓶の後ろの拳銃を手にした。


「この卑怯者が」


 レベッカの首に噛みつくように言った。


「申し訳ございいません」

「謝るために来たの。この人殺しが」

「彼は生きています」


 レベッカが答えた。もう一人の給仕が構えていた銃をソファの座面に置いて敵意がないと見せた。

 はらわたの煮えたアマランタは、どうしてやろうかと腕に力を込めた。首の骨が軋ませた召使いは愛するイシグロを撃ち、愛する娘、レメディオスを奪った。


「わたしはマーガレット・ウォルターハウスに仕えるミランというものです」

「クソババアにルームサービスを頼んだ覚えはないわ。レメディオスは?」


 アマランタは、レベッカの両手を床につかせて、スカートの下からスティレットをまさぐるように抜いた。うなじに押しつけながら、銃口はミランに向けた。


「撃ち殺すわよ」

「わたしは天使です。そんなものでは撃ち殺せません」

「聖文字の記されたスティレットでは?」


 アマランタはレベッカのうなじに添えた、冷たくて無骨なスティレットに力を込めた。このまま突き刺してもいい。すべてこいつのせいだ。この世では誰からもアマランタのものは奪わせない。

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