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ハイスクール

 イシグロは足もとに倒れている伯爵の手下であるフィリップ・アロウに、ゴワゴワの小説を読み聞かせてやった。


 ☆☆☆ ☆☆☆

 暗黒街の伯爵に仕える忠実なる下僕、誰をも悪に染める教師、フィリップ・アロウは空き家を根城に善良な市民、貴族らと悪の交渉を繰り返していた。平日は私立ウエスト高校の校長にして、生徒たちには模範的な祖父ではあるが、夜な夜な伯爵のために犯罪の計算を立てている。ちなみにこのウエスト高校は高貴な家柄の子どもたちを集め、いずれ伯爵のためになるかどうか品定めしている。今ここに何も知らずにいる一人クルーナ伯爵の次男ハルトの命運はいかに。薔薇を愛し、正義を愛し、レメディオスを愛しつつあるハルトに悪魔のような伯爵たちが触手を伸ばそうとしていた。

 ☆☆☆ ☆☆☆


「少々長かったな。おまえがクルーナ伯爵の子どもハルトをブレンディア伯爵の屋敷に行くように仕向けたんだな」

「何のことだ」

「とぼけるな。おまえは機を見てソフィア嬢とハルトを繋げたんだ」


 イシグロは起こさなくてもいい撃鉄を起こしてフィリップの耳もとで囁いた。


「交換条件だ。悪くないぞ。レメディオスを探したければ、天使を探すんだ。召使いのレベッカ・イースト。これで使えない手下ではなくなる。名誉の負傷だ」

「ソフィア嬢は前妻の娘で」

「そんな話は飛ばせ」

「前妻のマーガレットは、今のアマランタとレメディオスを恨んでいる」

「なぜだ」

「遺産の他に何がある?」


 フィリップはニヤニヤした。イシグロも違う意味でニヤニヤした。


「まあまあだな」

「どういう意味だ」

「俺が興味があるのは遺産の中身だ」


 イシグロは拳銃を仕舞うと、クロノス三番街を探せと伝えた。フィリップは約束が違うと叫んだが、イシグロは笑い捨てた。


「俺がお前と約束したのは、今回は命は見逃してやるということだけだ」


 イシグロは空き家に死体と生きた敵を捨てて出てきた。おそらく彼らは上に連絡をするか、下に命令をする。動いてくれればこちらで何とでもできる自信はある。


「ひとまず街でも探るか」


 はじめての街に来たとき、前世では頭の中に地図を叩き込んでいた。長く滞在する訳ではないが、どこから逃げられるか考えたものだ。テロリストはキメラのようにいくつもの頭を持っていて、どこまでも追いかけてきたものだ。

 

「今じゃ逆だ」


 川沿いから生臭い臭いが流れてきた。遊歩道から見える対岸の街は、あちらこちらで立派な建物が建設され、風に乗って金づちや鉄骨のこすれる音が聞こえた。


「この街は変わりつつあるんだな」

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