死神ギルド
途中、どの駅にも伯爵の仲間らしき胡散臭い風体が見えた。汽車の吐く石炭臭い煙に隠れていた。イシグロだけなら派手に暴れてもいいが、何とか穏便に話し合いで済ませられないかと考えてみた。
「ないわな」
イシグロは通路で煙草に火をつけた。
「どうかしましたか?」
「前の客車はいっぱいなのか?」
「この支線はバカンスのとき以外はいっぱいになることは。街を嫌う貴族様のお屋敷があるので走らせているようなものです」
「どうしてブレンディア伯爵は街には住まないんだろうな」
「ブレンディア様と御縁が?」
「薔薇の種をね。馬泥棒の騒ぎで話どころではなくて、街へ戻るところだ」
「どちらかと言えば奥様がお好きだとか」
「アマランタ・ブレンディアだ」
「後妻様ですな。前妻のマーガレット様がお好きなようでした。前々妻かな」
「マーガレット・ウォルターハウスだ」
「よくご存知で」
「あんたもな」
車掌が銃を抜こうとした瞬間、イシグロは短く分厚い首をねじ曲げた。そして二人の死体のいる個室に放り込んだ。
車掌の服から持ち物を剥ぎ取ると、札入れの紙幣を盗んだ。ポケットには銃口の短い五発式の回転式拳銃も拝借した。
「出てこい。ずっと隠れてる気か」
「あぁ……」
溜息がして、ロベルトと雑木林で話した死神の紳士が個室から姿を現した。懐に手を入れたので、イシグロは車掌の拳銃をかすかに動かした。紳士はそっと手で制しつつ名刺を差し出してきた。
「私は西区ギルドの回収人ブライアン・ルーフィールドです。ブライアンと」
「名刺がない」
「失礼して」
ブライアンは万年筆を開けて自分の名刺の裏に何やら記した。何と書いたのだと聞くと、薔薇のロベルトの弟子。鍵を持つもの。天使殺しと書いてあると答えた。
「どういう意味だ」
「ロベルト様は死神界でも、なかなかの武闘派でしてね。天使ですら避けると言われるほどの方です。お弟子様となれば」
「弟子にされたんだ。しかし誰かに自己紹介することはあるのか?」
「街には各ギルドがございます」
「縄張りか」
「そうですね。ちなみに西区は路地裏の治安の悪いところでして。南区は銀行会館の二階の一室に常駐の職員がいます。お話は通しておきます。早いうちに。西区の区長は道ばたでカードで遊んでるかと」
ブライアンは車掌の体から十個の魂の玉を取り出した後、どれも似たようなものだなと呟きながら、いいものを三つを渡してくれた。
「なぜ死神は天使と対立する?俺にはどちらも同じことをしてるとしか思えん」
「奪い合いですね」
死神は善悪を区別しない。しかし天使は善悪を区別する。善の魂のみで澄んだ世界を創ろうとする。善き行いをしたものは善き来世が与えられ、悪しき行いをしたものの魂は砕かれ、天界へと続く道に敷き詰める材料となるらしい。
「善悪は誰が判断する」
「天使では高位の天使です。各貴族の守護天使などですね。下級の天使は彼らの命令に従わなければなりません」




