死神は神!
ロベルトは死神は人が死を意識したときに死神が生まれたのだから、人が清濁を意識したときに現れた天使など相手ではないと話した。
「下級天使は高位の下働きだぞ。我々は神そのものだ。格が違う。私はうろうろしていた天使を一掃した。文句も言われん」
「お互い仲が悪いのか」
「他は知らんがな。ここにいた連中は私の薔薇を踏み荒らした。前妻が連れてきたらしいが、頭に来て私の一存で一掃した」
「私怨かよ。でも今いたじゃないか」
「一掃した後に来た。前妻のところで雇われているんだな。悟られないようにしているので見逃しているんだが」
「バレてるんだな。しかしなぜじいさんはレメディオスを守るんだ?」
「あの子はウォルターハウスを継ぐにふさわしい魂の持ち主だ。私は美しいものが好きだ」
「結局それか」
話が終わると、ロベルトはイシグロに二つのRが絡まった薄汚れた鍵のペンダントを渡してきた。付ける気にもなれずポケットに入れようとして付けろと叱られた。
「おまえを私の弟子にしてやる」
「いらん」
品行方正な死神になる気もないし、誰かと群れる気もない。アマランタとレメディオスが幸せに暮らしてくれればいい。
不意に喉を鷲掴みにされた。
「私がやさしく頼んでいるうちに言うことを聞いておけ」
結局弟子にされた。だいたい死神として生きていく気はないのに。弟子なら何か教えてくれるのかと尋ねると、ロベルトは漏れなく師匠が付いてくると答えた。
「伯爵とやらは天使に守られてるのか」
「前妻が連れてきた守護天使のおかげで暗黒街で力をつけたが、今ここに守護天使はいない」
「消えたのか」
「しばらく見ていない」
「まさか俺に探せと命じてるのか?」
「おまえは賢い弟子だ。レメディオスとアマランタを守るという気概も気に入った」
「どうも」
「街にいるはずだ。しかし街の裏すべては伯爵の支配下にあると考えろ」
☆☆☆☆
「入りなさい」
レベッカはソフィアに呼ばれた。本来、ソフィアは名門校の寄宿舎にいなければならないのだが、集団生活を嫌い、伯爵のカネと恐怖の力で、いつもは市街地のアパートメントに暮らしていた。
「義理のお母様、我が物顔ではないの?」
「特には」
「わたしはレメディオスと散策くらいできると思ってたのに反対されるなんて」
「レメディオス様も楽しみにしておりましたが、今はこういう状況なので」
「レメディオス中心ね。あなたも?」
「わたしは今もブレンディア様の下で働かせていただいております」
レベッカは病に伏していて動けるはずがないだろうと思いつつも、ソフィアの能天気な話を聞いていた。車椅子でテラスで風に当たるくらいならわかるが、遠出などできるはずもないし、妹はおままごとの人形ではないのだと言ってやりたい。
「今後あなたはわたしと一緒にアパートメントに来なさい。お父様にお願いするわ」
「なぜでしょうか?」
「世話する人がいる。あなたも街で楽しめるわ。わたしはね、あなたに特別な力を感じるの。お父様にはわからないみたいだけどね。あなたはわたしに尽くしなさい」
伯爵の悪銭で食えている小娘が偉そうに言うと、昨夜の失敗や見えない視線も含めてイライラしてくる。
「レベッカ、明日は朝から薔薇を見に行こうと思うのよ。ハルトくんに変なものは見せられないからね。あなたは庭の薔薇見たことは?」
「ありません」
「古いのよね、ロベルトの庭は。お父様に話して新しくしてもらおうかしら」
「そうですか」
薔薇を荒らした天使たちが一掃した話は天使界隈では有名だから、ロベルトの庭に近づきたくないし、潰すことなど考えたくもない。レベッカ自身、いつ殺されるかもしれない不安に怯えて暮らしていた。
「できれば野駆けでもしたいわね」
ソフィアは上の空で聞いていた。
「レベッカ、寝る前にリキュールが飲みたいわ。内緒で持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
肌に染み込ませる化粧水をもらい、ソフィアみずから肌につけてくれて解放された。レベッカは自分の肌がぷにぷにしているのを確かめてからボトルを見て少しうれしくなった。




