白い結婚宣言を受け前世を思い出しました。観察日記つけます。
誤字報告、有難うございます。
プロローグ
「君とは白い結婚だ」
初対面、開口一番でそう言われた私、サルビア・ローゼンベルクは、にっこりと笑いながら心の中で絶叫した。
──いやテンプレ!?ベタすぎるでしょ!!
乙女ゲームか何かの世界ですか!?私、日本人だった~!!
言ったのは私の夫になった人、アルフォンス・ド・レイノルト侯爵閣下。
ぱっと見は完璧なイケメン。金髪碧眼、長身。見た目だけなら文句なし。
……だが。
「君は夜会にだけ出てくれればいい。夫人としてのお飾りだ。あとは好きにすればいい。金も、まあ……予算内で頼む」
(お約束のセリフ、全部セットで来たよ!?)
私は完璧な令嬢スマイルで答える。
「かしこまりました」
──が、心の中ではもう決めていた。
(暇すぎて死にそうだから……いっそ観察日記つけたろ)
サルビア観察日記
一日目
愛人クラリーチェ嬢、さっそく侯爵邸に出入り。
昼間から宝飾店をハシゴ。支払いは全て「旦那様につけておいて♪」。
(いきなりツケ払い!?どこの漫才師!?)
七日目
召使いに「あなたの歩き方が気に入らないからクビ」発言。召使い号泣。
(人使い荒いなー!ブラック企業の社長かな!?)
十五日目
夫アルフォンス様に「もっと私を大事にして♡」と泣きつく。
直後に別のイケメン貴族に目配せ。
(お前、愛人が愛人持つな!!マトリョーシカか!!)
二十日目
領収書が積み上がりすぎて雪崩が発生。
(火山噴火の前兆みたいになってるぞ)
暇な私は、紅茶片手に観察日記をつける毎日。
夫が愛人にうつつを抜かす横で、私は「観察・記録・保管」。
──完璧なる日本人の「週刊ワイドショー脳」が蘇っていた。
メイドたちも協力的である。
「奥様、クラリーチェ様がまた馬車で大荷物を……」
「ご苦労さま、こちらに領収書を。はい、観察日記の添付資料にいたします」
完全に探偵事務所か家計簿おばさんのノリである。
三ヶ月後のある夜
愛人クラリーチェがドヤ顔で夫に腕を絡めていた。
クラリーチェ「アルフォンス様ぁ、やっぱり私こそが正妻にふさわしいわ♡」
(言ったー!完全に宣戦布告ー!)
アルフォンス「……たしかに、お前の存在は特別だ」
(信じてるのかい、この人!)
そこで私はすっと前に出る。
「旦那様。こちらをご覧くださいませ」
──ドサァッ!!
机に積み上げられた分厚い冊子。
タイトルは『観察日記 第一巻 ~クラリーチェ嬢の華麗なる散財と人災~』。
「な、なんだこれは?」
「証拠です」
夫がぱらぱらとめくる。
そこには細かい日付、店名、領収書の写し。さらには証言メイドの署名まで。
アルフォンス「……愛人に愛人……!? これは……領収書の山は……っ!」
クラリーチェ「ち、違いますのよ!? これは全部、サルビア様が捏造した──」
私、にっこり。
「証人、全員おりますけど?メイドなら今すぐ呼びましょうか?」
クラリーチェ、沈黙。完全敗北。
エピローグ
「……私が愚かだった」
アルフォンスは観察日記を胸に抱きしめ、私を見つめた。
「サルビア、君こそ正妻にふさわしい」
──いや最初からそうしとけよ!!
私は優雅にお辞儀し、令嬢スマイルで答えた。
「かしこまりました」
そして心の中で、そっと付け加える。
(どうしようもない男でも御するのが、妻ってものよね)
こうして「白い結婚」はわずか三ヶ月で終わり、私は侯爵家の実権を握る正妻となったのである。
観察日記、偉大なり。