後編 2 せりあがり祭の真実
「お前、『せりあがり祭』がどういう祭りが知ってるか?」
祭りの前の日、いきなり勝男さん家の納屋に呼び出された。勝男さんは中学を卒業して今は家業の漁師をやっている。
「“男”の祭りですよね」
“せりあがり岩”は男性のシンボルの形をしていて……それにまつわる祭りだという事はオレも知っていた。
「富江の言ったとおりだ!! お前!やっぱりガキだな!」と勝男さんは鼻で笑い、教えてくれた。
「『せりあがり祭』は大木様の“お種付け“のお祭りだ!」
「“お種付け“?」
「大木様が“お種付け“した破瓜の血を“せりあがり様”へ奉納するんだ?」
「??」
「生娘をヤるって事だよ! ただ、ご神殿の“せりあがり岩”でヤるのは、宮司であられる大木様だけじゃない!男衆も何名か加わる。どういう事か分かるか?」
オレはただ、首を振った。
「『大木様の次のご当主はオレの種から生まれたのかもしれない』 そう思う事で島の男衆は大木様を終生支えるというわけさ!」
あのお祭りがまさか、こんなものだったとは!!
驚きを隠せないオレに勝男さんは続ける。
「ところで、去年からは勇太様が宮司をお勤めなのは知っているな?」
勇太様は東京の有名な進学高へお進みになられたが、お祭りの日には島に帰ってらっしゃっていた……
「勇太様にはご兄弟が居たのは知ってるか?」
「知らなかったです! 本土に居らっしゃるんですか?」
「違う!出来が悪いから《《間引き》》されたんだ!」
この勝男さんの言葉にオレは更に驚いた。
「間引きって??!!」
「大木様の御指示でな。オレのオヤジも一人《《刈った》》。 オヤジは言ってたよ『他の男の“種”と思えば雑草だから躊躇いなく刈り取れる!』ってな!」
ここまで話して勝男さんは、納屋に何本かある鉈の1本に手を掛けた。
「お前も鉈を……雑草を刈り、枝を払うのに使うよな!」
「はい!」
「オレ達はな! “選ばれ生き残った末に次の当主となられる”勇太様の鉈だ!!」
「はい!!」
「その勇太様がお種付けする今年の“供物”は富江だった。あそこは母一人子一人で、男が居ないからな」
「はい……」
「それをお前のオヤジが“富江親子”や周りを言い包めて……今年の“供物”としてナミちゃんを差し出し、勇太様はそれを了承なされた」
「えっ???!!!」
オレは目の前が真っ暗になった。
「お前のオヤジもお前も……勇太様の前では鉈に過ぎない。お前はナミちゃんが逃げないように目を離すな!!」
勝男さんの言葉に……オレの膝はガクガク震えて止まらない!!
「ちぇっ!! もうヤりてえのか? ガッツキやがって!! お前ん家が! お前とオヤジの二人分だけ“種付け”の確率が上がるのが、オレ達には面白くねえんだ!! ヘタ打つとタマ落すぞ!!この野郎!!」
鉈を振り上げ勝男さんは凄む。
「……いや、オレは……」
と言いつつ言葉が見つからないオレを勝男さんは更にねめつける。
「ナミちゃんと逃げようなんて思うなよ! タバコの煙を浴びなければ、すばしっこいナミちゃんは逃げおおせるかもしんねえ! だが、お前は取っ掴まって、一生、足が不自由になるぜ!」
そう言いながら勝男さんは薪に鉈を振り下ろした。
「しっかし!お前のオヤジもとことんコスイな!! 『ナミちゃんに煙の耐性が付かないようにタバコは外で吸ってる』ってぬかしやがった!! こんなオヤジを持ってお前も幸せだな! この調子じゃ、お前ん家の島での地位は安泰で…… まったくムカつくぜ!!」
そう吐き捨てて勝男さんは薪を割り砕いた。