後編 1 そしてオレたちは15歳になった
「タバコ吸って来る」
重い腰を上げてオヤジが出て行った後の、テーブル……ビール瓶やコップや皿をササッ!と片付けてナミちゃんはオレを見る。
「今のうちに晩御飯作っちゃう? お父様も帰って来たらちょうど召し上がれるように」
「あんなぐうたらオヤジ! 放っておいていいよ!」
「ダメよ! 今だって私の為にわざわざ外へタバコを吸いに行ってくれたんだから」
そう言いながらナミちゃんはマスクを付けた。
「富江ちゃんがカツオ持って来てくれたからタタキにしよう!」
世界中にパンデミックを引き起こした感染症がようやく下火になっても、この島の観光は壊滅したままだ。
民宿の収入が途絶え、猫の額ほどの畑では生活が立ち行かず、ウチはオフクロが本土へ出稼ぎに行っている。
「田舎女の働ける場所なんて昼はスーパー、夜はスナックと高が知れてる」とオヤジはオフクロの事を蔑むけど、 畑仕事も僕とナミちゃんでほぼこなしている今の状況で……『ひねもすビール飲んでブラブラしてる』オヤジこそがどうしようもない男だ!!だから無言で睨んでやると
「ガキには分かんねえ苦労をオレはしてるんだ!」と空のビール缶を投げ付けられた。
こんな事を考えてしまうオレはもう中三だ。
もちろんナミちゃんも同じ中三で……中身もほぼ島っ子だ。
唯一違うのは、ナミちゃんには喘息の持病があって……煙、特にタバコの煙を浴びると激しい発作に襲われてしまう事だ。
調理の際の煙は、性能の高いマスクを付けていればなんとか大丈夫なくらいまでにはなったけれど……
「大丈夫?」と訊ねると、ナミちゃんはマスクを外してオレの頬にキスをくれる。
こんなナミちゃんとの生活は、オレにとって“幸せそのもの”だった。