表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シン泡姫  作者: 黒楓
2/12

前編 2 せりあがり岩

 『せりあがり祭』のご本尊は沖合に見える“せりあがり岩”だ。


 島民(それも男に限るが)は、このせりあがり岩にはお祭りの時にしか近付かない。

 と言うのは、せりあがり岩周辺の漁業権も大木様の物だからだ。

 しかし大木様ご自身はご自分の会社の船をあんなところへは寄こさない。

 だから、せりあがり岩の周りはイセエビや岩牡蠣などの宝庫だ。

 なぜそんな事を知っているかと言うと、勇太さんが気の向いた時に舎弟達に岩牡蠣を取りに行かせるからだ。


 そんなわけで僕も何度か岩牡蠣を取りに行かされたが、その収穫にありつけるのは『勝男』さんと『隆』さんまでで、僕たちにはお鉢が回ってくる事は無い。


 でも“お祭り”の後の今なら! まだせりあがり岩にしめ縄が張ってある今なら!!


 僕は浜に誰も居ない事を確認して海に入ると、せりあがり岩を目指して一心不乱に抜き手を切った。きっと今日なら水泳大会で優勝できたくらいに!!


 せりあがり岩に縋り付いて息を整えると、すぐに素潜りして、手のひらに余るくらいに大きい岩牡蠣を三つもむしり取った。


 せりあがり岩の反対側、ちょうど浜から見えない方は、大人のおおきなベッドくらいの滑らかで平らな岩肌で、端っこに鳥居みたいなものがすえられている。

 お祭りの儀式の後なのか、その下にはお猪口やお酒の瓶が置かれたままになっていた。


 しめ縄にくっついている紙垂が風でカサカサ揺れる中、僕は岩牡蠣の殻の境目からナイフを入れ、中に向かってグリグリとやって貝柱を切り、殻をこじ開ける。

 殻を開けると、むき出しになった身の下に刃を入れ今度は殻から身を削ぎ取る。

 そうして日に照らさせれて眩しいばかりの()を一気にかぶりつく。


 三個も食べれば十分だろうと思ったが美味し過ぎて()()()が止まらず、僕は再び海へ潜ると……岩礁の陰をゆっくりと這っている見事なアワビを見つけた。


 どうしよう??!!


 海パンの中に隠し持って帰れる大きさじゃない!!


 やっぱりここで食べて証拠隠滅するしかない!!


 迷ったけれど、僕の“食欲”の方が足を前に出させた。

 その瞬間、踏み出した足は激痛に襲われて僕は思わず肺の中の空気を聞こえぬ叫びと共に水中へ吐き出した。


 岩に噛まれた!!


 痛みと苦しみと焦りで()()()()()()()()()足を取られ()()()()()血煙が上がり、不気味な魚が寄って来て、程なく僕の意識は遠ざかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ