心霊スポットへ行きたーい
1
私の心霊スポットの思い出はさ
・小学校で肝試し後に撮った写真に1人で増えてて
みんな知ってる顔なのに誰も名前が出てこなくて大騒ぎになった
・父親の転勤で着いていった中学校では
夏休みの度胸試しの山で1人消えて大騒ぎになったし
(今だに行方不明だよ、どこ行っちゃったんだろうね)
・高校では交換留学先で
肝試し的なのに誘われて喜んでたら
まぁ要はさ
余所者いじめだったらしくて
日本とは全く違う
ひたすら広く深い森の奥に置いてきぼりにされた
私
馬鹿だけど記憶力だけはあるから普通に帰ってきたよね
外は若干暗くはなってたし親には泣かれたけど
そしたらさ
3日後位にリーダー格の子じゃなくて
大人しい腰巾着みたいな立場に見えてた子が
あの辺りではわりと珍しい野良犬に襲われてさ
私は全然気づかなかったけど
腰巾着みたいな子が実は発案者でリーダーだったらしい
能ある鷹は爪を隠すみたいな感じ?
違うか
それでさ
私は私で
森から1人で生還したし
これで仲間として認められるかと思ったのに
逆に露骨に避けられるようになって寂しかった
2
心霊スポットへ行こうよと大学の友人のSを誘った時
「やだよ」
とすげなく一蹴されたんだけど
私が心霊スポット(?)の思い出話をしたら
「……なんか不憫で可哀想になってきた
大学の思い出の1つとして心霊スポット行って
楽しい思い出作ろうか」
と言ってくれた
持つべきものは友
3
大学では
私はどこにも所属していないのだけれど
Sがサークルの夏のイベントの企画を任されていたみたいで
その1つで心霊スポット巡りすることにしたから
それにおまけとして参加させてもらえることになった
都会田舎問わず心霊スポットってわりとどこでもあるけど
街中からほどほどに近く
尚且つアクセスしやすい場所はヤンキーの溜まり場だったり
ホームレスの寝床になっていたりするらしい
それで
人の多い夏場は特に
心霊スポットに来た人間の車を狙う車上荒らしもちょこちょこ紛れて来るから注意が必要だとか
なるほどね
勉強になる
我が大学は
ほどほどに山が見え
到底花の都とは言えない場所にあるんだ
駅からもバスだし
移動は当然車になるから
私みたいなおまけでも1人多いと
それだけで座席1つ分使ってしまうなと申し訳なく思ったけれど
心霊スポット行きは
友達のサークルでは人気のイベントではないらしい
まぁそれもそうか
行き先は
山と山を繋ぐちょっと有名な橋を越えた先の
何とかトンネル
もう使っていないトンネルで
廃墟ではないからホームレスやヤンキーが常駐もしておらず
車上荒らし対策も
運転もしてくれるサークルのO部長が
車に残ってくれると聞き
万が一の対策もバッチリだった
いざ当日の夕方
車2台に分かれてのなかなかの大所帯
女子の参加は若干少なめだけど
元々女子が多いから参加比率は女子が6男子が4
1人イケメンな先輩がいて
女子は皆
その先輩目当ての子が多いらしい
そのイケメン先輩は今は助手席に座り
心霊スポット先での留守番も買って出てくれたO先輩と楽しそうに話している
部外者の私がそのサークルのイベントに快く参加できたのは
どうやら私がそのイケメン先輩目当てではないと
Sが女子に断言してくれたかららしい
老け専なのが功を成したね
それから
それでも1時間弱は走ったかな
今走ってる道より遥かに高い位置に例の橋が見えてきてさ
友人曰く
有名って言っても橋を散歩できるわけでもなく車で通りすぎるだけ
景色は良いけれど
この時間はもう車も通らないただの田舎橋
確かに
暗い山のシルエットの中
昼間はちゃんと赤く見えるんだろうけど
夕陽が落ちる直前の
妙に赤黒く見えた橋は想像より全然短くて
何だか拍子抜けした
他の皆も同じことを考えたのか
少し車内のテンションが下がったな
その時だったよ
橋の真ん中から
何かが羽ばたく様に落ちたの
鳥かな
ううん
鳥にしては随分大きいなと思ったけどね
直後に
橋からロープ?か何かでぶら下がるように揺れてすぐに止まったのは
とてもか細くて長細いシルエットだった
「え?え?」
「何?今の」
「何あれ?」
「人?」
橋を見ていたのは私だけではない
私が乗る車ともう一台だけでなく
たまたま後から来ていた見知らぬ軽トラもノロノロ路肩に停まると
軽トラから降りて
お爺さんが大声出してどこかに電話かけてた
多分警察だろうね
隣にいたSには
「あんた、とうとう心霊スポットに辿り付くことすらできなくなったか」
と呆れ顔で言われ
私は心底憮然とした
4
うん
憮然とはしたんだけどね
話はこれだけで終わらなかった
それから
とりあえず警察来るの待ってさ
橋もしばらくは渡れないだろうし
例え渡れたとしても
さすがに心霊スポット巡りは不謹慎過ぎる
そもそも
女子だけでなく数人の男子も
橋からの首吊りバンジーを見せられて
もうそれどころじゃなさそうでイベントは即中止
警察の人たくさん来たし大騒ぎだったけど
サークルの中でも
一番動揺して
もう動揺どころじゃないか
動けなくなったのは
運転手の先輩
O先輩で
大柄な先輩だから
運転席から下ろすのも大変な位に固まってしまっていた
それで
目撃情報からしても
事故や他殺でなく明らかな自殺だし
私たちの身元もみんなはっきりしてるから一度解放されたんだ
それでさ
帰るにしても
O先輩の代わりに誰か運転しなきゃってなったけど
イケメン先輩は免許持ってなくて(使えねぇなと悪態と舌打ちは内心に留めた)
免許持ってて尚且つバンタイプの車を運転ができるのはもう1台の方の運転してる男子と私とSしかいなくて
結局Sが運転して大学まで戻った
リアタイの生首吊りを見せられて運転できなくなったO先輩は
助手席でも地蔵のように固まり
私の隣にはSの代わりに例のイケメン先輩が座った
このイケメン先輩
話すものほぼ初めてだったんだけど
アホだった
自分で言うのもなんだけど
よくここの大学入れたなと思ったら
「半分コネだよ」
と隠しもせず悪びれもせずに教えてくれた
聞く私も私だけどさ
あと
半分ではなく100%金の力だろ裏口野郎が
失礼
話を戻そう
そのアホだけど
間違えたイケメン先輩だけどさ
年相応のね
ごく自然な有り余る性欲と
「コネは半分」
とか言っちゃう辺りから窺えるプライドだけは
人並み
いやそれ以上は高いみたいでね
このほんの短時間の会話でもそれは有り余る程度には察した
きっと
それらの要素全部が
マイナスの方向へ進んでたんだと思う
先輩だけのせいでは決してないけどね
5
私は次の日に知ったけど
あの橋から首吊りバンジーを決行したのは
うちの大学の1つ上の先輩だった
それで
元はあのSのいるサークルにいたらしい
あの日
私達
よくあの場で解放されたよね
それで
本人は元でも
現サークルの1人と連絡は取り合ってたみたいで
その人は
もう一台の車に乗っていた
バンジー先輩は
その人経由で
何日の何時ごろに
心霊トンネルに行くと聞いて知っていたんだって
ただの世間話だと思ったし
教えたその人は
その時は何も思わなかったって
そりゃそうだよね
あの橋には
靴が揃えられてて
隣には双眼鏡も置いてあったってさ
そう
何もかも用意周到だった
あのサークルで
O先輩もあのトンネルへ行くと知ってから決めたのだろうね
あの橋からあの距離であの時間であのタイミング
よく車の判別が付いたなと感心するけど
そもそも車も通らないし
相当優秀な双眼鏡で見てたんだろう
一世一代
そして
人生最後の見せ場だものね
抜かりはないよね
そしてバンジー先輩は
橋の上からO先輩の運転する車を確認すると
時間的にも
もう先にね
首にロープを巻いて橋にも結っていたらしい
夕方だし
元々人が歩ける歩幅はほぼなく
路肩に停められた車から太いロープが垂れていても隠れて見えない
そもそもの大前提で車が通らない
薄暗くなってきて
首にロープ巻いたまま車の外に出て
双眼鏡で確認しつつ
スマホでも
「今はどの辺?」
と車に乗る友人に聞いていたらしい
てっきり家から送って来ているのだろうと思った友人は
何の気なしに
「もうすぐ○○だよ~」
と道の駅で返信していた
返信しなきゃよかったと言ってたらしいけど
返信してなかったら
きっと
橋を走ってきた私たちに向かって
大手を振ってから
こちらに存在を気付かせてから
飛び降りたと思うよ
どっちにしろ
未来は変わらない
車の中に
遺書もちゃんとあったって
O先輩となんやかんやとか
その後のこととか色々
あのサークル
女子のほとんどは
初めはみんなイケメン先輩目当てで入るんだけど
イケメン先輩
ほらアホでしょ
なのにプライドだけは一丁前だから
「遊びじゃないよああ本当は遊びかも
ちゃんと君は本命だよううんやっぱり本命でない」
みたいなね
イケメン面に物言わせて適当にも程があるだろってくらい
節操なしに来るもの拒まずでサークル内外で女子を食いまくってた
それを近くで見ていたO先輩は
それを嗜めるどころか
「俺はあいつと仲いいから色々知ってるし相談乗るよ」
って善人面しては
ハイエナも真っ青なレベルで食い散らかし
なんなら
ただアホなイケメン先輩よりも
食い散らかしたあとは他の奴に回すだの何だのとやっていたらしい
そこら辺はもう胸糞過ぎて聞かなかった
ただ
たださ
人間が一人
自らの人生を華々しく終わらせる瞬間を見せつける程度には
酷いことをしていたんだよ
6
遺書はあってあれだけはっきりした自殺だし
彼女の両親は
これ以上娘を辱しめたくないからって
それで終わり
ただ
サークルは解散になった
イケメン先輩は普通に大学に通ってる
アホは無敵だな
O先輩は見てないし知らない
あぁ
そうだ
O先輩にもね
生前
死ぬ前にあのバンジー先輩から
メッセージが来ていたらしいんだよ
O先輩本人は勿論気にもせず
返事なんかしなかったみたいだけど
もし
もし返事をしていたら
未来はまた違っていたかもしれないのにね
別の地獄にさ
7
あぁそうだ
そう言えば
私の友人Sは
なぜ
あんな毒薬を煮詰めた鍋の中身みたいなサークルにいるのかと思ったら
「先輩が好きだったのよ」
あのアホが好きだったらしい
ははっ
男の趣味は私の圧勝だな
今の私の最推しは大学でも最高年齢の教授だからな
しかし
Sはよくアホ先輩に手を出されずに済んだものだと思ったら
さすがに自称本命女子たちの牽制が凄かったらしい
そしてもちろん
そんな事になっていることすらも知らなかったと
それ
ただの蚊帳の外
いや蚊帳の外にも程があるな
屋外だよもう
まぁ
友人がSがそれら諸々に巻き込まれなくて済んだのはよかったけど
数少ない友人だしね
8
それら一連の騒ぎで
なんとなく学校だけじゃなくて
さすがに私自身も落ち着かなかったんだ
さすがにね
それで
数日後の休日
部屋でだらだらスマホ弄ってた時に
ふと
とん……
って感じ
頭にね
何かが降りてきたように思い出した
そうだ
あの日
心霊スポットへ行く日
大学で待ち合わせをしていた日
私は
「皆さんの写真撮りますよ」
って言ったんだ
部外者だしせめてカメラマンになろうと思ってさ
集まった皆を
デジカメで写真を撮ったんだ
車に乗り込む前にね
その写真がデジカメに残ってるはずだと思い出してさ
デジカメ放り込んだままだった鞄を漁って確かめたんだけどね
「……」
うん
ちゃんといたよ
皆に混じってね
時間的には
もう遺書を積んでロープも積んで
1人で車に乗って橋に向かっていたか
もう橋には着いていたかもしれないはずの彼女がさ
ピースして
皆と一緒に笑顔で写ってた
楽しそうに笑ってたよ
Oさんの隣でね