表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「恋じゃないけど、隣にいてほしいの」

「 風に咲く日」

作者: 七星ぺろり

【おはなしにでてるひと】

瑞木 陽葵みずき・ひより

“母の日”という言葉の響きに、ちょっとだけ背筋が伸びた朝。 でも今日は、会えないからこそ、“言葉じゃない何か”で伝えてみたかった。 ――手紙じゃなくて、風景にして届けたいって思った。


荻野目 おぎのめ・れん

陽葵が描く絵の空気を、なんとなく読むのが得意。 何も言わずに、ただ隣に立って、赤いコスモスの苗を一緒に植える。 ――花って、誰かを思い出すために咲くんだなって、思った。


【こんかいのおはなし】

5月11日。日曜日。母の日。

わたしは今日、お母さんに会えない。

画面の中のお母さんは、知らない町の壁に、大きな絵を描いてた。 笑ってる。手が、カラフルに染まってる。なんかそれだけで、うれしくなった。


「これ、描こ」


いつものスケッチブックじゃなくて、ちょっと厚めの紙をひらいた。 お母さんが描いてた景色を、今度はわたしが描く番。


風にゆれる木、カラフルな空、手を伸ばす子どもたち。 “ありがとう”って、直接は書かない。でも、色に込めた。


できあがったら、小さな封筒を折って入れて、ポストに投函。


「……飛んでけ、風の便り」


午後、蓮と一緒に庭に出た。


「これ、咲かせよう」


彼が持ってきたのは、赤いコスモスの苗。


「ここ、陽がよく当たる」


「うん、絶対きれいに咲く」


ふたりで、しゃがみ込んで、土をならす。 苗を植えるとき、少しだけ指が触れて、でも何も言わずに続けた。

静かで、あったかい時間。


「これで、いいんだよね」


そう呟いた蓮の声が、空にすうっと溶けていった。


数日後、家に帰ってスマホを見たら、通知がひとつ。


《届いたよ。すてきな風景。 こっちでも風が吹いた気がした。 ありがとう、陽葵》


写真が添えられてた。

壁画の隣に、小さなテーブル。 その上に、わたしの描いた絵が、ちいさな額に入って飾られてた。

画面を見て、胸がいっぱいになった。


「……咲いた、かも」


わたしの中の“ありがとう”が、ちゃんと。


【あとがき】

誰かに“伝えたい”って思った時、言葉にしなくても伝わることがある。 陽葵も蓮も、それぞれのやり方で“母の日”を過ごしました。 花を植える。絵を贈る。きっとそれだけで、誰かの心に風が吹くんです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ