7マス戻る(2)
「マリ!起きなさいよ!」
私は息を大きく吸い込んでハッと目を覚ました。また異世界のこの部屋。そして初日に戻っている。胸に手を当てて傷がないか確認するけれど、やはり何ともない。安心する気持ちと同時に悔しさみたいなものが込み上げてくる。
「やられた!」
「は?」
またやられてしまった!それに顔も見てないし、何の手がかりもなかった。だいたい、あんたはやる気があるの?とか何やら小言を言うお母さんを尻目に考えてみる。最初は間違いなく犯人は部屋にいた。でも次は納屋まで私を追って来ていた。つまり最初のときも部屋で待ち伏せていたわけじゃなくて、私を追って部屋に来ていたという事。
彼は近くにいる。
少なくとも私が見える距離にいる。
そして恐らく当日はお店の中にいる。部屋に向かう私。お店から出る私。それらを把握できる程に近くにいる。けれどこの異世界でこの1週間を2回経験しても全く気付かなかった。もしや相手は素人ではなくプロなのかな。プロの殺し屋。プロし屋なのかな。
頭が混乱してきたところで私はハッとする。きっと私はまた1週間後に殺されて、たぶんこの日に戻ってくる。それはタイムリープというよりタイムループだ。私はそのメビウスの輪の中にいる。
(もしかして私、永遠に抜け出せない?)
そう思うとゾッとした。こうなったら何が何でもフラグ回避してこの無限ループから脱出してやらねば!負けてたまるか!私は強く拳を握り締めるて言い放つ。
「やってやるぞ!」
「え、やる気すご」
それからの私は色々試してみた。
殺し屋が現れた!
ピッ
→たたかう
にげる
せっとくする
「ククク……この果物ナイフが火を吹く(?)ぜ」
真里は果物ナイフで戦った!
残念。麻里は力尽きた。
殺し屋が現れた!
ピッ
たたかう
→にげる
せっとくする
「お助けえぇぇぇ」
真里は全力で逃げ出した!
残念。麻里は力尽きた。
殺し屋が現れた!
ピッ
たたかう
にげる
→せっとくする
「話し合いましょう!そこにお座りなさい!」
残念。真里は力尽きた。
私はいつもの様にベットで目を覚ます。何度やっても上手くいかないフラグ回避に私は心が折れそうだった。ちくしょー。どうあっても1週間後の私は死ぬ運命にあるのかよぉ。あいつ殺意高すぎじゃんかよぉ。結局私はどうしてもフラグ回避出来ないんだ。死ぬしかないんだ。いったい「マリ」は何をしたんだろう?よほど恨みをかってるのか、何か理由があるのかな。ほんと1週間の命って蝉じゃないんだから。蝉だって最後の1週間までに色々と……。
ハッ!
1週間……?
そうだ!
1週間あるじゃない!
私はバカだ。何でこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。ましてや蝉に気付かされるなんて。蝉よ!ありがとう!蝉に感謝する日がくるなんて思ってなかった!せーみ!せーみ!せーみ!いやいや何言ってるんだ私。蝉はとりあえず置いておいて。落ち着いて考えるのだ私。今まで当日を何とかしようとばかり考えてたけれど、よくよく考えてみたらそれまでに6日間の執行猶予があるじゃない!
く……くくく……
私は不敵に笑う。
そうだ。この6日間の間に何とかすればいいんだ。何ていうの?フラグ回避というかフラグを折っちゃえばいいんだ!何かしらの対策を考えるのだ!例えば腹筋バキバキのつよつよになるとか。いっそ6日かけて国外へ逃亡しちゃうとか。守ってくれる人を探すとか。時間があると色々出来る事がある気がする。
……勝った!
このロジックに気付いた時点で私は勝ちを確信した。そして私はお母さんに言った。
「私、お城で働く!」
「は?」
お城で働けば衛兵さん達がいっぱいいるから、簡単には侵入出来ないし、兵士さんは強い人だらけだから何とかなりそう。何やら叫んでるお母さんを乗り越えて私はお城へ駆け出した。
私の住んでいる国。この国はチョコリート王国というらしくて、ゴディバ王という王様がお城にいる。さすがゴディバ。王様なんだ。そこで住み込みで働けたら何とか7日目を生き延びられそう。という事で兵士の宿舎に頼み込むと意外にもすんなり受け入れられた。
「おお。マリちゃん」
「居酒屋はいいのかい?」
「全然歓迎しちゃうよ!」
とまぁ。「マリ」の日頃の行いが良かったおかげだったんだけれど、とりあえずこれで安心して7日目を迎えられそうだ。お城の仕事は単純な雑用なんだけれど、とにかく仕事量が多くて大変だった。しかしそんな事はどうでも良くて。今の私に大切なのは7日目を生き延びられるか。ただそれだけだった。
そして問題の7日目。