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「マリ!早く起きなさい!」



そう怒鳴られて私は飛び起きた。


どこも痛くない。確かに私は胸を刺されて死んだはず。意味が分からず辺りを見回すと、異世界の私の部屋にいた。ぼやけた記憶の中には「すまない」という声も残っていて、間違いなく私は刺されたんだよね。けれど私は生きてここにいる。目の前にはふくよかなおばさんもいる。


……夢?


私はどこからどこまでが夢なのか分からず、頭がクラクラしていくのを感じた。そして気付いた。握りしめた右手。そこに立てられた中指。それこそ胸を刺されたのが現実であることの何よりの証明だった。教えてくれてありがとう中指。


怪訝な顔をして部屋を出ていくお母さんを見送り、私は布団を被った。そして確信する。


(タイムリープした!)


おぉぅ……異世界でタイムリープとは設定重ねてきますね。そしてこの感じは異世界初日に戻った感じで間違いない!という事は1週間後に私は殺されてしまうという事だよね。現実でも異世界でも死んでしまうなんて新しい呪いなのかな。誰かお助けください。


と言っても誰も助けてはくれないので、よくよく考えたまえよ私。とりあえずタイムリープしたものの、何でタイムリープしたのかも分からないから、1週間後にまた死んで、次は戻って来れるかも分からないよね。何とか回避しないと本当に死んじゃうかもしれないよね。


少し思い出す。確かあのとき私は部屋にいた。そして短剣で胸を刺された。フードで顔は見えなかったけれど「すまない」と言ったその声は男の人の声だった。つまりフードを被って短剣を持った男の人なわけだ!そういう人を見かけたら逃げればいいんだ!良かったフラグ回避おめでとう!



……


いやいや待て待てわたし。


そんな見るからに怪しい格好で普段からうろついてるわけないよね。犯行のときにフードを被って短剣を持ってるだけだよね。となると今の私に残された手がかりは声だけになるけれど、声だけで誰なのか聞き分けられるほど、この世界の人と関わっていない。





もうだめだ。



終わった。




いあいあ待て待てわたし!


そんな簡単に諦めるんじゃないよ!そうやってあんた(私)はいつも大事なところで弱気になる。不安になるとすぐ挫けて楽な方に逃げる。進学から逃げて、友達からも逃げたじゃない。それで良かったと思った事なんてなかったでしょ。もう逃げないで本気で抗ってみなさい!そのまんま命懸けなんだからね!



で。とりあえず犯行の現場が私の部屋なわけだ。


私は改めてぐるりと部屋を見回す。中世ヨーロッパを模したような石造りで、特に立派とは言えないけれど頑丈そうだった。よく見るとハーフティンバーというのかな?石と木造の入り交じった造りで職人さんの技術を感じる。


犯人は私の部屋に侵入してた。つまり完全に私を狙ってたわけで突発的だったり事故的なものじゃなかった。住んでる場所を知ってるあたり、もしかして「マリ」の知り合いの可能性がある。というか高い。仮定の話だけど、これだけでかなり絞れそうな気がする。


でもダメだ!


この居酒屋の看板娘「マリ」はお客さんに声かけられるほど人気者だよね。きっと知り合いは多いんだと思うし、「マリ」は知らなくても、相手は知ってる。なんて場合も全然ありえる。それに私自身は誰の事も分からないんだから。


……ダメだ。全然犯人には追いつけそうにない。しかしながら、別に犯人を特定する必要はなくて、兎にも角にも殺されなければいいんだ。1週間後のその日。私が部屋にいなければそれでいい。そう。逃げればいいんだ!


私はなんて賢いのだ!そう。そうだよ。単純に部屋に行かなければいいんだよね。これでフラグ回避だね。対戦ありがとうございました!




1週間後。


私はお店が閉まると駆け出した。薄暗い街をつまづきながら走り抜ける。家の灯りが点々と足元を照らす。街灯のない世界線で生きる事になるなんて思ってもみなかった。はぁはぁと息を切らして街外れの納屋まで逃げてきた。積まれた飼葉はどこか映画で見た事があるような、ないような気がする。


とりあえずここで夜を明かそう。街の外までは行ける気がしないし、ここまで来ればとりあえず安心なはず。私は飼葉にもたれ掛かるように倒れ込んだ。足がじんじんと痛む。こんなに走ったのは久しぶりだった。


チラリと納屋のドアに目をやる。少し気になる。それは納屋だから当然、内鍵なんてものはなく、簡単に開けられちゃうだろうなぁとぼんやり考えていた。その時ガラリと音を立ててドアが空いた。


「はぁ!?」


フードを被った男が納屋の中に飛び込んでくる。私は身体を起こす間もなく口元に布を当てられ、胸に短剣を突き立てられて死んだ。



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