第26話 漢の背中
「……うぉぉぉぉ!」
とんでもない悪夢で目を覚ました気がする。あまりの重労働で寝る前の記憶がない。
俺が目を覚ますとそこは会社のソファだった。仮眠室にすらたどり着けなかったらしい。散らばった書類、ファンが鳴りやまないパソコン。朝日が差す前、暗がりに満ちた街並みの中で、俺のいる会社だけが灯りをともしていた。
と、いう感じで文学的に語ってみたが、要約するとブラック企業の業務に付き合わされたってことだ。
後から先輩にこっそり話を聞くと、ある時間を過ぎるとサービス残業だというんだから驚きだ。金が欲しいから働いてるのに金が貰えないって意味不明じゃないか?
「おお、起きてたのか田中君。お疲れ様」
俺と業務を共にした部長が缶コーヒーを奢ってくれた。人間は優しいんだよなぁ。苦っ。
「いつもこんな感じなんですか?」
「そうだねぇ、ぶっちゃけてしまうとその通りだよ」
部長は寂しそうな目をして言った。
「新しく入った人にはあまりこういう話はしないようにって言われてるんだけどねぇ。どうしても可哀想になってしまって」
「どうして部長はずっとここで頑張れるんですか?」
「娘がいるんだ。まだ小さいけどね。こんな業務でも、金は貰える。自分だけじゃない、妻や娘を養うためには致し方ないんだ」
そう言って部長は携帯電話の待ち受けを見せてくれた。そこには楽しそうに綿あめを頬張る少女の姿があった。
「君は若い。これからの可能性は無限大だろう」
部長は間をおいて口を開いた。
「ここがきつかったら辞めても構わない。申し訳ないとかは思わなくていい。氷河期じゃないんだ。探せばもっといい仕事が見つかるさ」
部長は、こんなこと言ったら怒られちゃうな、と言いながら席を立った。髪はぼさぼさ、スーツはボロボロ、それでもその立ち姿は俺にはとてもカッコよく見えた。
まぁ、翌日やめたけどね(^^)
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