羅刹の剣
月さえ見捨てたかのような、暗く昏い夜道だった。
背中で死臭を嗅ぎとった男は、振り向きざま腰の太刀を抜き放ち、迷いなく一閃する。神速おびた刃が、そこにわだかまる闇の塊じみた黒装束を上下に両断した。
──と、そう錯視させる迅さで切っ先をかわした襲撃者は、闇に溶けるよう退きながら、びゅうと風を切って苦無を投擲する。
男の左胸に真っ直ぐ飛ぶそれを、返す刀があっさり弾き跳ばす。されど本命は別にあり。三指で投じた苦無と伴に、残る二指が闇に放った細い毒針が、男の喉笛めがけ音もなく飛翔していた。
落ちる沈黙。
決着が気になったのだろうか、ちらりと雲間からのぞいた月の光が、男の精悍な顔を照らす。
男は隻眼だった。そして不敵に笑った口元では、まるで楊枝かなにかのように無造作に、毒の針が白い歯で受け止められていた。
「化け物め」
黒装束が言った。冷め褪めとした女の声で。
「俺は、それが条件と聞いたぞ」
針を毒ごと道端にぷいと吐き捨てて、男は悠然と応じる。
「……しかり。我が望むは悪鬼羅刹のごときつわもの」
「そいつは重畳」
「助太刀の件、改めてお頼み申す」
男は答えるかわりに元の道行きに向き直り、何事もなかったようにすたすたと歩きはじめた。その傍らにゆらりと並び、女は黒頭巾をはずす。
ふたたび隠れる間際の月に、一瞬だけ照らし出された蒼白い美貌の、唇からこぼれる言の葉は。
「いざ、狙うは我が仇──」
「応。獲ってくれよう、天下人が首」