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エピローグ 世界最強の”魔法”使い

乾く。飢える。まだ足りない。また足りない。物足りない。満ち足りない。


・・・退屈だ。


「よくもアレイスター様を!」「ここが貴方の墓場となるでしょう。」

 頭上から何か聞こえる。まいったな、今日はこんな事をする為に来たんじゃないのに。

 この時代とも今日でさよならなのだから、今まで足を運んだ事のない神殿にでも行ってみようかと考えてやってきてみれば、何やら知らない魔法使い二人組に目をつけられてしまったようだ。

 声の聞こえる方向、ようするに頭上を見上げてみる。

 魔女帽子を被った少女二人組が箒に乗りながら、俺の頭上で旋回し続けている。雑魚の癖に耳障りな音を立てながら、俺の周りを飛び回るその様子はまるで蚊のようだった。

 空を飛んでるし、魔女帽子を被っているし、アレイスターの名前を出してきたし、まぁ十中八九クロウリー家の魔法使いだろう。

 その蚊達の様子はなんだか自信がありそうな感じだ。まぁ二匹とも魔力量も多いし、あの年にしては魔法の操作が速やかで無駄がないし、クロウリー家ではかなり期待されている二人なのだろうな。

 そんな事を考えている間も、蚊は何やら俺に対して話しかけていたが、生憎俺の耳は蚊の羽音を聞き取るほど徳が高くはない。まぁどうせ喋っていたのも俺に対する恨み辛みの類だろう。

 「「蒼の疾風 黄色の翼 白き鳥」」

 蚊二匹が無駄な努力、即ち詠唱を初めた。

 「「くらえソロモン、『アクセルウィンド』」」

 そう唱え終えた二匹から、巨大な刃のような形をした風が発生し俺に目掛けて飛んできた。

 うまいな。この二匹俺を挟むようにして、魔法を使ってきた。事前に飛び回っていたのはこの事を悟らせない為の策か。

そして、この風の刃のサイズ、一般的な民家の横幅くらいはあるのではないだろうか、そんなサイズを保っていながら速度は一般的な攻撃系風魔法の比にならない程速い。

 流石はクロウリー家、アイツの実家なだけはある。こんな攻撃、普通は回避不可能だろう。

 まぁ”普通は”だけど。

 二つの刃が互いにギロチンのように衝突し合い、辺りに衝撃が響き渡った。

 「やれてない」一人が言った。

 「正解。なかなかやるな貴様ら。センスあるんじゃないか」と耳元で俺が返答する。

 俺にそうされた魔法使いはギョッとし、一瞬の間もなく俺と距離をとった。

 「一体何をした?!」

 「は?」今度は俺がギョッとした。

 「おいおいまさか分からなかったのか、ちょっとは期待したんだけどな。やはり蚊は蚊か」

 「話を逸らすな。今のを一体どうやって防いだ。どんな魔法だ?!」もう一匹がそう言った。

 俺は呆れながら返す。

 「別に防いではいないし、魔法も使ってはおらんよ。俺はただ走って避けただけだ」

 「走っただけだと」と一匹が驚く。俺のした事に相手が驚くのは、もう俺の日常の一コマとなってしまっている。

 「なんならもう一発打ってもよいぞ。今度は避けん、真正面からくらったって傷一つ付かんだろうからな」

 「クズの癖に大した自信だな」

 「自信ではない、事実だ」

 「そのにやけ顔いつまでしてられるかな」と言うと二匹が一箇所に集まり、また何やら詠唱を始めた。

 その間待っているのも暇なので「魔力を練ってすぐ風属性に変換しないほうがいいぞ、ロスが生まれるからな。練るのと変換するのを同時に行った方がいい」とアドバイスをしてみたが、感謝の言葉は返ってこなかった。

 どうやら詠唱が終わったらしい。

 「「死ねソロモン、『ラスト カタストロフ』」」

 今度は極圧縮した風の大砲だった。

 一瞬で俺の鼻の先に到達したそれは、俺に直撃した。

 

 いつからだったか、昔はあんなに楽しかった戦いが魔法がそうじゃなくなってしまったのは。

 確かアイツを殺した後からだ、俺に敵う奴はただの一人もいなくなってしまった。伝説の竜王も、聖剣に選ばれた何某も、俺の師匠も、千年に一人の逸材も、誰も俺には敵わなかった。

 なぁアレイスター。なんで俺について来てくれなかったんだ、なんで俺に置いていかれちまったんだ。最強の俺にいつでも追いついてきてくれたのはお前だけだったのに。

 

 「はぁ、本当に退屈だな貴様らは」

 風の大砲により巻き上がった砂煙が少しずつ晴れて来た、それにより蚊共の絶望感に歪んだ顔がより鮮明に確認できるようになってくる。

 「本当に無傷なのか、完全詠唱だぞ。有り得ない」

 一匹が膝から崩れ落ちた。

 「俺が魔法撃った後、体全体の魔力が薄まってる瞬間にカウンターとして、今のを撃つという手もあったろ、もっと考えてやった方が良いと思うが」

 もうそろそろ終わりにしよう。

 手のひらに魔力を集める、それを火属性に変換する。すると俺の手のひらの上に火球が発生する。

 「あっ、熱い、何て温度だ。あの手のひらに発生したほんの少しの炎だけで、ここら一帯が火山の火口のように熱くなっている」

 「冥土の土産に受け取れ。これが俺の魔法だ」

 俺は手のひらをまるで筆が絵の具でキャンバスを塗り潰すかのように、静かで速やかに右から左へ空を撫でつけた。その手の動きと同時に俺の業火が放たれていく。次の瞬間辺りは爆発が起きたかのように、一瞬だけ閃光に包まれた。

 次の瞬間には辺りは更地へと変わっていた。いつも見る光景、虚しい焼け野原だ。

 間違って神殿まで焼き払ってしまった。天罰が降るのだろうか、神様がいるとしたら、そいつとなら良い戦いができるだろうか、とか考えながら俺は帰る事にした。


 「お早いお帰りですね。もうよいのですか?」

 神殿を後にし、洞窟の中に帰るとゴーレムが出迎えてくれた。

 洞窟の中はまるで神殿のようになっていて、最奥の中心に棺桶がたの魔道具が置かれている。その棺桶の側でそれの調整を行なっているのがゴーレムである。

 全体的に白く所々赤い髪、身長は俺より小さく165cm程、少女のような容姿をしているが、所作や表情一つ一つが少女のそれではなく、何だかチグハグといった印象を受ける。名前は付けていない、だからいつもゴーレムと呼んでいる。

 考えてみればコイツとの付き合いも長い。師匠が身の回りの雑事が一切出来ない俺の為に作ってくれたのだ。もう五百年は前の事だ。

 まぁ、師匠の元を離れてからは俺が修理したり、改造したりして元々のパーツはコイツのコアしか残っていない。師匠が今のゴーレムを見たらあまりの原型のなさに、自分が昔作った物とは分からないだろう。

 師匠がコイツを見る事なんてもう有り得ないが、ついそんな事を考えてしまった。

 「あぁ、もうよい。案の定クロウリーの連中に絡まれた。そして神殿も面白くはなかった」

 「まぁ、なんとなくすぐ戻って来るんだろうなー、とは思ってましたが」

 「なんだお前には分かっていたのか」

 「そりゃ分かりますよ。何年一緒にいたと思っているんですか」

 何年一緒にいた、か。

 「ゴーレム”絶対命令”『俺が眠った後、俺とお前の主従関係を解消し、俺が持つお前の心身に対する自由を譲渡する』」

 最初で最後の絶対命令、マスターからの絶対命令は、ゴーレムに対して絶対に逆らえない命令となる。

 「よいのですか?」少し怪訝そうにゴーレムが言う。

 「あぁ、長い事お前を縛り付けてしまった。すまなかった。これからは自分の意思で足で好きな所へ行けるのだ。お前には無限の動力と自己修復機能を搭載している。これから千年旅を続けても何の問題もないはずだ、試しに前に行きたいと言っていた花の王国に行ってみてはどうだ?」

 「花の王国には私一人でではなく、貴方と行きたかったのです」

 そんな事考えていたのか。

 「それはすまん。だがもう少し早く言ってほしかった。例の魔道具を起動してしまったから、もう一緒には行けん」

 「あぁ、行きたいと言えばついて来てくれたのですね。失敗しました」

 そんな会話をしながら、ゴーレムはテキパキと魔道具の調整をしている。

 「千年後に私がまだ生きていたら一緒に行きましょう。千年後迎えに行きますから」

 そうだな、と言った後に洞窟内が暫く静寂に包まれる。

 俺はこれから千年間の眠りにつく。この時代にはもう俺に敵う奴は居なくなってしまった。だから、千年眠り魔法が発展するまで時間を潰そうというわけだ。

 私は目の前に置かれていた先端に針の着いた小さい筒状の魔道具を手に取る。そしてそれの針を自身に刺し、魔力を込めていく。この動作を全部で六本分繰り返す。

 今から使うこの棺桶型の魔道具は、中に入った者の体の状態を完璧に保ちながら、指定した時間分眠らせるといった物だ。だが俺がそれを使うには、俺の魔力量が多すぎるらしく、こういった形で魔力を分散させ、棺桶が使えるレベルまで俺の魔力を落としておき、眠りから覚めた後にその魔力を回収するというわけだ。

 つまり今の俺は先ほどの俺の七分の一の魔力量という訳だ。

 「調整終わりました。魔力筒をこちらに」

 そう言われ、魔力筒を差し出すとゴーレムがそれを棺桶に刺していく。

 魔力筒の中の魔力は俺が眠っている間、この棺桶の維持に使われるらしい。そこまでの魔力をこの棺桶は使わんらしいが、筒をその辺にほったらかしておく訳にはいかないだろうという理由でこうする事となった。

 筒を全て刺し終わると俺は棺桶の中へ入った。

 「なぁ、お前に名前を付けたい」

 ゴーレムはしばらくキョトンとし、少し笑った。

 「今更ですか」

 「あぁ、今更な。お前がこれから一人で自由に旅をするなら必要かと思ったが、自分で付けるか?」

 「いえいえ、貴方に付けてもらえるなら、どんな名前でま嬉しいです」

 「そうか。では”ローズ”というのはどうだ?」

 「ローズ?バラという事ですか」

 「あぁ、お前の髪には赤い毛もあるし丁度いいかと思う。あっ、くれぐれも花言葉は調べるな。よいな」

 「では、これからはローズと名乗る事にします。千年後もそう名乗って起きますので、もし私が迎えに来なかったら。その名前の墓を探して墓参りにでもいらっしゃってください」

 そう言いながら、ローズは棺桶の蓋を閉めていく。

 「お休みなさい。ソロモン様」

 「お休み。ローズ」

 蓋が完全に閉められ、棺桶の中が完璧な暗闇となる。

 棺桶の効果なのだろう。意識が少しずつ闇に呑まれていくのを感じ、俺はまぶたを閉じた。

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