19.功労者を置き去りにするな!
「いやあ、お疲れ。」ベイカーは私に差し入れをくれる。久々の飯がうまい。
「よくこちらの意図に気づいてくれた。」ベイカーは嬉しそうに言う。
「冒険者はそういう技能も求められるからね。」私は得意げに言う。我ながらよく反応できたと感心する。
次々と保護された奴隷や捕まった奴隷商人、客が馬車に詰め込まれ走り去る。
「いやぁ。一網打尽。嬉しいねえ。」ベイカーは本気で嬉しそうだ。
「大変だったけどね。」私はため息をつく。
「帰ったら報酬を出そう。それと、またどこかで協力してくれるか?」ベイカーは尋ねる。
「今回の報酬次第ね。」私は素っ気なく返事をする。
「そうかそうか。じゃあ残業手当も含めとかないとな。 じゃあ、私はここで。早く帰って報告しなければ。」ベイカーはそう言うと馬車に乗って去っていった。
一通り逮捕者と奴隷を運び終わった。
「早く乗ってください。」憲兵が手招きする。
やっと帰れると安堵する。
「お前で最後だな。」憲兵はそう言って私を馬車に乗せようとする。
私は馬車に乗ろうとした瞬間、舞台の陰で震えている少女を見つける。
「ちょっと待って!」私はそう言うと少女の元に駆け寄る。よくみると同じ馬車で連れてこられていた少女だ。奴隷の中でも一番最年少のようだ。相当怖かっただろう。
私は少女の手を引いて馬車に連れていく。
「まだ残ってたのか。」憲兵は意外そうに言う。
「あなた名前は?」私は少女に尋ねる。
「名前は…ケイト。」少女は怯えながら言う。
「ケイトね。大丈夫。悪い奴らはまとめて捕まえたからね。」私は少女を撫でる。
ケイトは泣きながら頷く。
「さあ、この子を先に乗せてあげて。」私は彼女を憲兵に引き渡す。
憲兵は彼女を馬車に乗せる。
「じゃあ、私も…」私も馬車に乗ろうとした瞬間、憲兵に制止される。
「何?」私は尋ねる。
「悪いな。定員オーバーだ。」憲兵は冷たく言う。
「え〝?」変な声が出る。
「だから、定員オーバー。お前が最後って言ったろ?」憲兵は呆れ顔で言う。
「そう言う意味だったの?いやでも…」私はさっきの少女を助けた強くて優しいお姉さんキャラはどこへやら。冷や汗をかきながら食い下がる。
「だから。もう乗れない。」
「一人くらいさ?」
「無理だ。」
「いや、私今回の功労者だし…」
「じゃあ、この子降ろすか?」
「いや、それは…」
・・・・・・・・・
日が落ちかけた頃、最後の馬車が走り出す。
私を置いて。
・・・・・・・・・
大丈夫。大丈夫。自己犠牲がタンクの本懐だから。うん、そうよ。犯罪者を置いていくわけにはいかないし、それを見張る兵士も必要。あの女の子を置いていくわけにはいかないよね。じゃあ、当然私が歩いて帰ることになるよね?
いや、まあ仕方ないよね。、そうよ。他の人が一人で歩くと魔獣の襲撃とかがあって危ないし?でも私なら大丈夫。最強タンクだからね!
それに、長い距離を歩けばダイエットにもなる。一石二鳥。うん、一石二鳥だ。そうなのだ。
そう呟きながら私は憲兵に教えられた通り馬車の轍を辿る。
ポタ…地面に水滴が落ちる。
ポタポタと地面を濡らす。
惨めすぎて涙が出てきた。防御力が高くても心は守れない。なんでこんな仕打ちを受けなければならないのだ。私は悔しくてそのまま座り込んで声を上げて泣いた。
「あ、あの。大丈夫ですか?」聞き覚えのある声がして急いで振り返る。
そこにいたのはいつかのジュリーマン教授だ。
「教授?」私は涙を拭く。
「イリーナさん?どうしてこんなところに?道に迷ったんですか?」教授は首を傾げる。
「迷ったわ。人生という名の道にね。」私は項垂れたが少し安心した。
・・・・・・・・・・
「なるほど。災難でしたね。」教授はおいたわしやという顔をする。
「そうよ。ひどいでしょ?」私は静かにキレる。
「ね。じゃあ、そんなに遠くはないので迷宮都市に送り届けましょうか?」教授は尋ねる。
「いや、私は旧王都に用があるの。報酬絶対にもらわないとだからね。」私は憤りながら言う。
「ちょうどよかった。私も旧王都に行くんです。」教授は驚いたような顔をする。
「本当?よかった。これぞ渡りに船ね。ありがとう教授!」私は頭を下げる。
「そんな!頭を上げてください!こっちも夜の移動は怖かったのでちょうどいいですよ。」教授は焦る。
「護衛なら任せといて!」私は得意げに言う。
「ねえ、あとどれくらいで旧王都に着く?」私は教授に尋ねる。
「あとどれくらいって言うか、ちょっと遺跡を調査してから旧王都に向かうので一週間後ですかね。」
「いっしゅうかん…ご?」私は状況が飲み込めずポカーンとする。
「はい。一週間後です。」
「…」
教授はニコリと微笑んだ。
そんなあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
私の叫び声が夜の平原に響き渡った。




