19.一件落着…だといいんだけど。
「くそ!嗅ぎつけられたか!ずらかるぞ!」スキンヘッドは部下たちに憲兵を食い止めるよう指示すると一目散に逃げ出す。
外周からもどこかに潜んでいた憲兵たちがわらわらと会場に突入してくる。当然、旧王都では奴隷の売買は禁止されている。奴隷商人も客も区別なく制圧され拘束される。
そして、憲兵たちと武装した奴隷商人たちが舞台の周りで衝突する。奴隷商人たちは舞台の上で高所をとっているが、本業の憲兵たちの方が当然強く簡単に守りを崩される。
スキンヘッドはその状況を背に走り出す。
もう疲れたので休んでいたいが、こいつに逃げられるのは癪だ。
「逃すか!」私はそう言ってスキンヘッドの腕を掴みそのまま硬化する。
スキンヘッドは急いで振り払おうとするが離れない。急いで腰の剣で私の腕を切断しようとするが剣の方がポキンと折れる。
そう。これは私のシンプルながら最強の拘束技。「掴んで硬化する」だ。一度掴んで硬化させれば自分の腕でも切断しない限りは絶対に脱出不可能なのだ。そのまま引きずって逃げるにしても人間一人分の重さの物体を持って走る羽目になるので当然逃げきれない。
それに、奴隷商人なんてセコイ商売をしている奴が自分の腕を切断するなんてこともないだろう。
それでも引きずって逃げようとしたので私は近くにあった木を掴んで硬化する。
これにて拘束が完了した。
「おい!取れねえ!早くこいつを引き剥がせ!」スキンヘッドが焦る。部下たちが急いで私の指を持ち上げて放させようするが、そんなことで離すわけがない。
「早くしろ!この女の腕を斬れ!」スキンヘッドは金切り声をあげる。
急いで部下が斧で私の腕を斬ろうと何度も斧を振り下ろす。ゴォン!ゴン!と音がなるが効果はなく商人は手が痛そうにうずくまる。
「こいつを叩くな!俺も痛い!はやく!早くしろ!木を切るんだ!」スキンヘッドは涙目で喚き散らす。
商人は急いで二、三度斧を木に叩きつけるが、三度目で周りを見て絶望したように斧から手を離し座り込んだ。
「何やってる!早くしろ!」商人は半泣きで怒鳴る。
「自分の腕を切断すればいい。まあ、手遅れだろうがな。」そう言ってミスターベイカーが私たちの前に現れる。
皆は知らないと思うので、一応言っておくと、このミスターベイカーと名乗る男は例のアレックスの側近だ。実はこの辺りはわりと計画通りなのだ。
「イリーナ、よくやってくれた。そして、君たちは完全に包囲されている。武器を捨てて投降しろ。」ベイカーは呼びかける。
「誰が投降なんかするか!政府の犬!」スキンヘッドが怒鳴る。
「言っておくが、貴様らの捕獲命令は出ていない。この場で殺して埋めてもいいんだぞ?」ベイカーは氷のような目でスキンヘッドを脅す。
スキンヘッドは沈黙した。
・・・・・・・・・・・
「いやあ、お疲れ。」ベイカーは私に差し入れをくれる。久々の飯がうまい。
「よくこちらの意図に気づいてくれた。」ベイカーは嬉しそうに言う。
「冒険者はそういう技能も求められるからね。」私は得意げに言う。我ながらよく反応できたと感心する。
次々と保護された奴隷や捕まった奴隷商人、客が馬車に詰め込まれ走り去る。
「いやぁ。一網打尽。嬉しいねえ。」ベイカーは本気で嬉しそうだ。
「大変だったけどね。」私はため息をつく。
「帰ったら報酬を出そう。それと、またどこかで協力してくれるか?」ベイカーは尋ねる。
「今回の報酬次第ね。」私は素っ気なく返事をする。
「そうかそうか。じゃあ残業手当も含めとかないとな。 じゃあ、私はここで。早く帰って報告しなければ。」ベイカーはそう言うと馬車に乗って去っていった。




