19.買われない主人公。買え。
やめときゃよかった。もう三日目だ。待てど暮らせど応援の憲兵は来ない。さらに存在を察知され奴隷商人に先手を取られるという失態も演じている。一応ヒントは残しておいたがあの無能憲兵たちが気づいてくれているかもわからない。
もしかして私、本当に奴隷にされる? そんな不安が脳裏をよぎる。
私鈍器にされました。と嘆いているのはまだマシだった。私奴隷にされましたなんて笑えない。
「顔色が悪いぞ?さっきまで太々しかったのにどうした?やっと現実が飲み込めたのか?」商人は勝ち誇ったように笑う。
バカかお前は。私はお前などに怯えているわけではない。
ここまで来ると憲兵がくるかもわからない。そうなれば自力で脱出するしかない。
私はしばらく考え解決策を思いつく。誰かに買われてそのままそのままこの場を離れる。そして人気がなくなったところでお得意の防御力にものを言わせたゴリ押しで購入者を殴り倒して脱出する。これしかない。さあ、だれか私を買いたまえ。
自分で言うのもなんだが、私容姿は良い方だしすぐに売れるだろう。何も心配することはない。
「…」
「……」
「………」
普通に売れ残ってる!なんてことだ信じられない。あれ?もしかして私ってそれほど容姿が良くない?捕らえられている間にやつれた?いや、ちょっと体重が増えたから?いやいや、そこまで外見に影響を与える太り方をしたわけじゃない。少し頬がふっくらしただけだ。それだけでそんな全く売れない。見向きもされないなんてことはないはずだ。
何か理由があるはず。いや、何か理由がないと困る。そう思って足元を見ると足元に何かある。拾い上げてよく見てみる。値札だ。クソ高い。つまり、私は魅力がないから売れていないのではなく高すぎて売れていないのだ。安心した。
いや、安心している場合ではない。売れない限り脱出は不可能だ。それから数時間私はその場に座り込んで時が経つのを待っていた。
「よし、来い。」商人が私を引っ張って人が集まったステージに連れていく。
ステージの側にはガタイの良い男、男前な男。女は若かったり容姿の良い者が集められていた。
そう。今からオークションが始まるのだ。こうやって高い値がつきそうな奴隷はオークションで売り捌かれる。
私はこっち側に来れたのかと少し安心する。いや、安心するな。
オークションが始まる。最初に力仕事が得意そうなガタイの良い男がオークションにかけられる。
しばらく競った後に剣闘士と思わしき人物が落札した。
別のガタイの良い男性は農家の経営者が落札した。
可愛らしい少女も怪しい男が高値で落札した。
…
しばらくして私の番が回ってくる。私はスキンヘッドに掴まれ舞台に登らされる。抵抗するが力の差がありすぎて意味がなかった。
「さて、次はこの女性。旧王都出身です。健康ですし色々と使えますよ?」スキンヘッドが商品説明をする。色々使えるってなんだよと思う。
次々と値段が上がっていく。しかも、買い手は明らかにヤバそうなやつばかりだ。もし落札されればどんなことをさせられるのか余裕で想像がつく。
いきなり攫われてこんなところに連れてこられるなんて地獄だ。
綺麗な服に身を包んだ高貴ながらも怪しい男が恐ろしいほどの高値をつける。あまりの高値に他の参加者たちは黙り込む。
「では、ミスターベイカーが落札ということでよろしいですかな?」スキンヘッドがその男性の方をみる。
参加者たちは意義なしという顔をする。
「では、ありがとうございます。」スキンヘッドは笑顔で言う。
ミスターベイカーは立ち上がる。
「急いでいるのでこの場で引き渡していただいてよろしいでしょうか?」彼はそう申し出る。
彼の申し出をスキンヘッドは快く了承する。
「今私の部下が対価の金を持って参ります。彼女の拘束を解いてもらって構いませんか?」ミスターベイカーの言葉にスキンヘッドは私を縛っていた縄を切る。
しばらくすると、3台の馬車が会場に入ってくる。
「この中に金が入っておりますお受け取りください。」ミスターベイカーはにこやかに言う。
商人十数名が馬車に駆け寄り馬車の扉を開けた。
その瞬間、3台の馬車から憲兵の制服を着た屈強な憲兵たちが勢いよく飛び出してくる。その場で近寄ってきた愚かな商人たちは制圧された。
一気にオークション会場は阿鼻叫喚となる。
憲兵たちは手際よく商人たちを武装解除し慣れた手つきで拘束したり囲んで棒で殴り無力化する。やっと助けが来たかと私は安堵する。
あとは彼らに任せよう。私はそう思いその場に座り込んだ。




