17.頭イリーナかお前
私はそのまま穴の底に突き刺される。竜太郎は上手く着地したが私に対しての気遣いなどない。あとでどうしてやろうかと考えた。そうしているといきなり引き抜かれる。文句を言ってやるより早く竜太郎は口を開く。
「なあ、お前タンクだし光れるよな?」なんで知ってるんだよ殺すぞ。
だが、もうここまで来たら仕方ない。彼もタンクに光スキルがあることを知っているので大丈夫だろう。そう考え発光したら爆笑された。殺す。
「やっぱり変な地下空間があるな。」
「そうね。また熊に会わないことを祈るけど。」
「おい、なんか向こう光ってないか?」
「じゃあ光ってる方に向けてもらっていいかしら?」私は文句を言う。
竜太郎は私が光っているところが見えるように私の向きを変える。
「あ〜、なんか光ってるね。」
「あっちから俺の剣の気配がするんだ!」竜太郎はそう言って走り出す。
「この先に!」竜太郎は指を指す。 巨大な地下空間の中央に神殿がある。
「あら。お客さん?」神殿の向こうに立っている女が不敵な笑みを浮かべ声をかけてくる。
「俺の剣持ってないか?返してくれ!」竜太郎は女に向かって言う。
「あなた…私を邪魔しに来たのね?剣は渡さないわ。」女は竜太郎を睨む。
「いや、別に邪魔しないから。剣返してくれたら帰るからさ。」竜太郎は女をなだめる。
「これ以上私の計画の邪魔はさせないわ!返り討ちにしてやる!」女は怒りの形相でこちらを睨む。
「いや、邪魔しないから?剣返してくれたら帰るって言ってるじゃん!」竜太郎も怒鳴る。
「いいわ。ちょうど完成したところなの。力を見せてあげるわ。」女は高笑いする。
「なあ、あの女何言ってんの?」竜太郎は困惑しつつ尋ねる。
「さあ。」私も首を傾げたかったが硬化していて無理だった。
話していると神殿の柱の影から黒いマントを着た長髪で長身の男が現れる。
「なにあいつ?」私が言う。
「あいつの中に俺の剣がある!まさか俺の剣を燃料にしてんのか?」竜太郎が女に向けて怒鳴る。
「よくわかったわね。彼を倒したら剣を返してあげるわ。まあ、倒せたらだけど。」女は不敵に笑う。
「はっ!そんなもんボコボコにしてやるぜ!」竜太郎は言い終わった瞬間頬に温かい何かが走るのがわかった。
恐る恐る触ってみると血がついている。それに、さっき目の前にいたはずの長髪の男がいなくなっている。
後ろをみると長髪の男が立っていた。
見逃したのか?と竜太郎は考える。いや、転生して女神からギフトまで貰った俺が動きを追えないわけがない。だが、実際こうして知らぬ間に攻撃を受けている。
「私で受ければよかったのに。」私は頬の傷を見て苦言を呈す。
「受けれるなら受けてたよ!動きを捉えられなかったんだ!」竜太郎が焦りながら言う。
「雑魚ね。」私は鼻で笑う。
「うるせ〜」
「死に直面してもなお緊張感がないわね。」女は愉快そうに笑う。
「直面してないけど?」「まだ始まったばっかだし?」私と竜太郎はすかさず煽りに反応する。煽り耐性0なのだ。
「まあいいわ。殺す前にあなたたちを殺す者の名前を教えてあげるわ。彼こそが私の研究成果。私が作り出した完璧な人類。アダムよ。」女は嬉しそうに言う。
「なんて?マダム?」
「アダムだよアダム!鼓膜まで硬くなってんのか?」
「なってるけど?」
「なってんのかよ!」
「そう。硬化すると音が聞こえにくくなるの。
魔女はこっちを無視して言い争っている二人にイライラし始める。
「アダム。あの邪魔な二人を殺しなさい。手加減しなくていいわ。」魔女が命令するとアダムはゆっくりと頷く。
「来るか?」竜太郎は私を構える。 同時に腹に打撃をくらい後ろまで吹っ飛ぶ。
「?」私は何が起こったかわからなかった。
竜太郎は腹をさすりながらうめく。
「何が起こったの?」私は全く状況を理解できていなかった。
「あいつ…」竜太郎は息を整える。
「時間止めてるな?」竜太郎は魔女に向かって言う。
「時間?どういうこと?」私はよくわからない。
「………。どうしてそう思ったの?」魔女は二発目でアダムの能力を看破され焦る。なんでこいつわかったんだ?普通わからないだろうと憤る。
「なんでって、俺の元いた世界では時止め能力は結構カジュアルなんだよ!ありがちなんだよありがち!」竜太郎は正体を見破ってやったと得意げに言う。
「だから時間を止めるってどういうこと?」私はわからない。
「見破ったからってなんだって言うの?時止めに対応できないわよね?」魔女は得意げに言う。
「ああ。できない。」竜太郎はキッパリと言う。
「じゃあ大人しく死んでもらうわ。」魔女は微笑む。
「わかった。」竜太郎も自信ありげに返事をする。
「勝算があるの?」魔女は不思議そうに尋ねる。
「ああ、あるさ。イリーナ。アダムは任せた。」彼はそう言うと私を地面に置く。
「えぇ…」私は嫌々硬化を解く。
「ええじゃない!俺はあっちの女をやる。」竜太郎は私を強引に起き上がらせると魔女を指差す。
「え?私も巻き込まれるの?女性を巻き込むなんて最低なの?」魔女はかなり本気でビビり始める。
「最低もクソもあるか。剣盗んで命狙ってきたくせに狙うなってか?頭イリーナなのか?」竜太郎は自分のこめかみを突きながら言う。
私は鼓膜の硬化を解いていなかったのでとんでもない悪口は聞こえなかった。
「短剣貸せ。」竜太郎が言うので短剣をあげる。
「まあいいわ。アパムは任せて。」
「ちょっと違う!まあいいや。」竜太郎は諦める。こいつマジでリスニング力ないな。彼はそう思った。




