17.仲が悪いから喧嘩する
ホプキンス領
「なんだ、イリーナさんが言ってたのってエレノアさんのことだったんですね。」レオンが納得したように言う。
「そう。仕方ないからエレノアに寄生するのよ。」
「情けなくないの?」竜太郎がゴミを見るような目で見てくる。
「うるさい!っていうかなんであんた来てんの!」私は怒鳴る。
「なんだかんだ大切に思ってるんですよね。リュウ?」ソフィーは愉快そうに言う。
「別にそんなんじゃねえよ!」竜太郎は早歩きになる。
「デレツーンだな。」マグネスがニヤリとする。
「なんだよデレツーンって!」竜太郎はマグネスの尻を叩く。
「リュウも大切に思ってるんですよ?喧嘩するほど仲がいいって。」ソフィーは笑顔で言う。
「でもそれ以上の関係になったら…殺しますよ?」ソフィーは底のない孔のような瞳で私に小声で揺さぶりをかける。
初めて命の危険を感じたし湿度の高さにビビった。
ということで、私はホプキンス家の使用人から仕事をもらうことになったのだが、その使用人はなぜか私を睨んでくる。どこかで会ったことがあるだろうか。
ホプキンス家は有力な貴族であり、運河や肥沃な農地を抑えている。簡単に言うと金がある。
実力派冒険者の仕事など山ほどあるはずだ。
そして、現在の迷宮都市の状況に心を痛めたエレノアがいくつか仕事を斡旋してくれた。
「で、どんな仕事があったんですか?」レオンが私に尋ねる。
「うーん…これは。」私は唸る。
「それは良い意味での唸りか?それとも…」マグネスは緊張した表情になる。
「徴税?」レオンはええ?と言う顔をする。
「税金を滞納している農民からの取り立てだってさ。」
「主人公陣営のやることじゃねえ!」竜太郎が叫ぶ、
「私はやったことあるぞ!」マグネスが得意げに言う。
「知らねえよ!」竜太郎は突っ込んだ。
「それにしても、エレノアってお嬢さんもなかなかエグい仕事持ってくるな。」竜太郎は不満そうに言う。
「あくまでエレノアは私たちに仕事を紹介してほしいと頼んでくれただけよ。この仕事をくれたのは別の人よ。」エレノアを悪く言われるのは釈然としないでちゃんと説明する。
「で、どこから徴税するんだ?貧しい無辜の民から搾り取るんじゃないだろうな?」竜太郎は睨んでくる。
「さあ。なんか税金を滞納している地域があるらしいわ。そこから税を取り立てるんだってさ。」
「まあ、よくわかりませんが行ってみましょう。」レオンは先頭に立って歩き出した。
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「そういえば、迷宮都市からの出稼ぎに来てた奴らに仕事与えるって言ってましたけど結局どうしたんです?」ホプキンス領の役人が上司に尋ねる。
「ああ、あれね。面倒臭いから山賊の拠点に行かせたよ。」
「え?行かせたんですか?何やってるんですか!」役人は笑いながら言う。
「出稼ぎ労働者なんて来られても邪魔だから襲われて死んでくれた方がこっちとしては楽じゃん。」上司は悪い顔をする。
「間違いありませんね。お主も悪よのぅ。」役人はニヤニヤする。
「なんだお前?上司に向かって?」
「いや、ノリじゃないですか。」
「ノリ?ノリだったら上司に悪って言うの?」
「いや…」
「いや…じゃないのよ?上司に言っていいことと悪いことが…
突如険悪になった役人二人は置いておいてイリーナたちを見てみよう。
「また山?」私は心底嫌な顔で言う。
「山に愛されてるな。熊含めて。」竜太郎は先々進みながら安全圏から煽ってくる。
その傍らバテたソフィーを気遣ったりしている。
竜太郎は私を煽るのとソフィーを気遣うのを器用に同時並行しながら山を登る。
捕まえて顔を1.5倍くらいにしてやりたいが貴重な戦力なので辞めておこうと思った。竜太郎は鬱陶しいとはいえ戦力としては頼もしいことこの上ない。マグネスもいるしアタッカー戦力は十分だ。
竜太郎とマグネスは同じくらい強いし、レオンだって比較対象が狂っているだけで十分な実力者だ。ソフィーも戦っているところは見たことがないが、補助魔術のスキルが高いのは明らかだ。
ふとタンクという不遇職について思いを巡らす。前のパーティーをクビになったのだって、アタッカー勢が強くなりわざわざタンクが注意を引く必要が無くなったのも原因の一つだ。
もしかしたらとという嫌な想像をしてしまう。
いやいや、レオンだよ?レオンが他人にクビ宣告なんてできるわけがない。人間関係最悪なパーティーでも畳む勇気が出ないままずるずる続けてある日突然爆発、ダンジョンの中で仲間割れを起こして壊滅するタイプだ。クビなんて杞憂だ杞憂。私は必死で自分に言い聞かせる。
いや、でも私は今までレオンに同じパーティーとしてやってきたことに対する礼をしたことがあったか?いや、ない。よく考えたらない。そもそも人に礼をしたこと自体が数えるほどしかない。
まずい。こういうところからパーティーの崩壊は始まって行くのだ。よしよし、次に何かしてもらったらお礼の気持ちを伝えよう。
いや、そんな人任せでいいのか?自分からそういうことをやらないからダメなんじゃないのか?
何かのタイミング関係なく日頃の感謝を伝えることは重要だ。言うなら今だ。
いや、でもいきなり「レオン、ありがとう。」なんて変じゃないか?突然すぎる。脈絡もクソもない。
「うわ、いきなりなんですか気持ち悪い。」とか言われたら私は飛び降りてしまう。まあ死ねないんだけど。
レオンは人に気持ち悪いなんて言わない!
「ねえレオン!」私は勇気を出してレオンに声をかける。だが返事がない。
不思議に思いあたりを見回すが誰もいない。大声で皆を呼ぶが誰も返事をしない。
「まずい。はぐれた。」私は冷や汗をかく。迷子になった焦りは防御力では防げないのだ。考え事をしている間にはぐれたのだろう。
「あ〜迷った!」私は頭を抱えて叫ぶ。
「やーい、迷ってやんのざまあw」すかさず竜太郎が煽りに来る。
「煽りに対する余念がないわね。まあいいや、みんなどこ?」私は竜太郎に尋ねる。
「え?お前マジで迷ってんの?」竜太郎が不思議そうに言う。
「そうよ!だから言ってるじゃない!」
「はぁ?俺はお前がちゃんと道知ってると思ってお前の後ろついていって煽ってたんだぞ!何迷ってんだよ!」竜太郎が半ギレで言う。
「とんだ言いがかりね…地図はレオンに渡してるから私は道知らないわよ。
「…」
「やーい、迷ってやんの。」私は竜太郎を指差して笑う。
「なあ、遭難ってマジで不安になるな。」
「わかる。」
「一旦降りるか。変に攻めるとダメなんだこういう時はな。」竜太郎は冷静に対応する。
「そうね。一旦降りましょう。ちょうどいいわ。あそこに沢がある。伝っていけば降りれるんじゃない?」私は沢を指差す。
「そうだな。今だけは休戦だ。」竜太郎は沢へと駆けてゆく。
「別にこっちから宣戦布告した覚えないんだけど。」私はそう言うと一緒に沢を下っていった。




