16.あなたは絶対死なせない。私の責任になるから。
「ん?」
「なんか…」マグネスと竜太郎がギルドを指差した瞬間、ギルドは派手に大爆発した。
ギルドが爆炎に包まれ破片が頭上に降り注ぐ。野次馬たちは逃げ惑う。
「あーあ、クマがやりやがった!」そう言った竜太郎の頭に木片が直撃し白目を剥いて失神した。
「リュウ!」ソフィーが叫ぶ。
「崩れてきた!逃げないと!」レオンが叫ぶ。
「ダメ!間に合わない!」失神した竜太郎を抱えたソフィーが泣きそうな声で言う。
周りの野次馬たちも逃げ惑う。 前回はただ崩れてきただけだったが、今回は爆発で破片が飛んでくる上燃えた建材が降ってくる。今回ばかりはまずいかとレオンは考えた。
何者かが前に進み出る。
「ま、マグネスさん?」レオンが言う。
「退がっていろ。」マグネスは棺桶の中を物色する。
「何かあるんですか?」ソフィーが尋ねる。
「もちろん。ここに確か…あれ?おかしいな。えっと、これ?いや違う。…どれだ?」マグネスはブツブツ言っている。
「ま、マグネスさん大丈夫ですか?」レオンが不安そうに尋ねる。
「いや、待て。前にこの中に入れたはずなんだが…我が王?ちょっと失礼しますよ。おっ、あったあった。」マグネスは嬉しそうに小さな細長いものを取り出す。
こっちだったかな。いや、こっちだ。マグネスはそれを一度開こうとしたが開かず、反対側に引っ張ると簡単に開いた。 それは開くと扇形になっており白地に赤丸が書かれている。
「なんですか?それ。」ソフィーが尋ねる。
「我が王が異国の商人から買ったものだ。名前は確か…いいセンス。」マグネスはうろ覚えだ。
「イーセンス?ですか。」レオンが尋ねる。
「そうそう。我が王が異国からの来訪者から購入した神器で、なんでもこの扇は…」
「なんでもいいから早くなんとかしてください!」マグネスの解説をソフィーが遮る。
「うむ!」マグネスはそう言うと扇を一振りする。
途端にこちらに崩れてきていた瓦礫が遥か彼方へ吹っ飛ばされていった。
「す…すごい。」レオンが唖然とする。
「その行商人何者だったんですか?」ソフィーが半分引きながら尋ねる。
「行商人のことか?名前は確か…マグネスが言いかけたところで興奮した群衆が英雄マグネスに集まって行き次々に礼賛の言葉を浴びせる。
「それほどでもない。」
「礼なら我が王に…」
「いやいや、我が王のおかげで…」
マグネスは礼賛の言葉に対しひたすら我が王を崇めるよう言い聞かせていた。
「一件落着ですね。」ソフィーが安堵する。
「うーん…」竜太郎が意識を取り戻す。
「さて、イリーナさんも飛ばされたんで迎えに行きましょうか!」レオンが言った。
そう。だれもイリーナの心配をしていないのである。
・・・・・・・・・・・・
建築家は目を開ける。柱の妖精が眺めている。
「生きてる?」尋ねられる。
建築家はハッとして起き上がる。全身が痛いが命は助かったようだ。我ながら悪運が強い。これも柱の精霊の加護だろうか。
「助けていただけたのですか?」建築家は痛みに顔を歪めながら尋ねる。
「ええ。そうよ。だってあなたに死なれると困るから。」柱の精霊はニコリと笑う。
一度はギルドを爆破してしまった自分にこんなに慈悲深く接してくれるとは。建築家は涙ぐむ。
「まあいいわ。ゆっくり休んで怪我を治して。」柱の精霊はそう言うと部屋を出て行った。
建築家にはその後ろ姿が神々しく見えた。
「イリーナさん。建築家の人は大丈夫だったんですか?」部屋を出るとレオンが尋ねてきた。
「軽傷だったみたい。」
「良かったですね!」レオンは胸を撫で下ろす。
「そうね。彼に死んでもらっては困るからね。」私の言葉にレオンは感心する。
「流石です。自分の前では誰も死なせない。タンクの流儀ってやつですか?」レオンが尋ねる。
「いや、違うわ。」即否定する。
「え?じゃあ…」レオンが考え込んだその時、廊下の向こうから武装した10人ほどの兵士たちが現れる。
「通報を受けて参りました。迷宮都市保安部隊です。」リーダーっぽい男が背筋を伸ばして言う。
「い、イリーナさん?この人たちって…」レオンが驚く。
「ここにギルド爆破犯がいると伺ったのですが?」保安部隊の隊長が尋ねる。
「ええ。この部屋です。」私は建築家のいる部屋を指差す。
「ありがとうございます。」隊長がそう言うと保安部隊員たちはドタドタと病室に踏み込んでいく。
そして建築家の悲痛な叫び声が聞こえる。
「言ったでしょ?彼がちゃんと裁かれてくれないとギルド爆散が爆発物解除に失敗した私のせいになりかねない。犯人には死んでもらっては困るの。」
「あ〜そっち…」レオンが納得したように頷く。
ギルド爆破犯は無事捕まりギルドの再再建も始まった。迷宮都市には再び平和が訪れ人々は日々の営みを取り戻し始めた。
「はい、リュウ。あーん。」ソフィーは頭に包帯を巻いた竜太郎にお粥を食べさせる。
「もう一人で食べられるから。」竜太郎は恥ずかしそうに言う。
「もしもスプーンを持った衝撃で死んだらどうするんですか?!」
「俺はマンボウか!」
「それにしても、ギルド再建っていうけどさ。お金足りるのかな。」竜太郎が呟く。
ソフィーは安心しろという顔をする。
「お金なら大丈夫ですよ。ギルドが大量にお金を刷ったらしいので。」
「あっ…」竜太郎はスプーンを落とした。
「ほら!回復してないじゃないですか!はいあーんして!」ソフィーは竜太郎の口にお粥をぶち込んだ。
お粥を飲み込みながら竜太郎はワイマール共和国やジンバブエのことを思い起こしていた。
次回・迷宮都市ハイパーインフレ編




