16.芸術家ってこんなかんじでしょ(偏見)
慎重にかつ雑に爆発物を外す。もしこれが爆発しても私はなんともない。だから雑にやる。
だが、ギルドが吹っ飛んだ場合、周りの人からの目線は私の防御を容易く貫通する。流石に耐えられないので丁寧にやる。
二つ目の爆発物を剥ぎ取る。
爆発物の処理に防御力の高い私に任せるのは合理的だと言える。だが、もし失敗したら私の責任になる。おかしい。勝手に任せておいて私のせいにされる。理不尽だ。
そもそも爆発物がどれだけあるかもわからない。私はだんだん腹が立ってきた。
三つ目の爆発物を雑に剥ぎ取る。
どうして私だけがこんなことをしないといけないのだろう。おそらくこの爆発物を仕掛けた人物は接着剤か何かでペタペタと気軽に貼り付けたのだろう。それに対し私はこうやって接着剤を慎重に剥がしている。だんだん惨めになってきた。
どうしてこんなことになったのか。政治が悪いおじさんが脳裏に浮かんだので殴って掻き消す。そうだ、犯人だ。犯人がこんなことをしなければ私はこんな惨めな作業をせずに済んだのだ。
犯人を見つけて脅しながら爆弾を解除させればいい。場所もわかっているから効率もいいだろう。
爆弾解除よりもまずは犯人を探すべきだ。私はそう考えた。
犯人は現場に戻ってくる。有名な言葉だ。つまり今回の犯人もここに戻ってくるはず。せっかく仕掛けた爆発物だ。ギルドの爆破を間近で眺めたいだろう。私は犯人がいそうなところを考えた。
・・・・・・・・・
「こんなところにいたなんて。危ないわよ?」私はギルドの屋上でそこにいた男に声をかける。
「…」男は喋らない。
「こう言ったほうがわかりやすいんじゃない?爆破騒ぎの犯人さん?」
「…なぜわかったんだ?」男は落ち着いてこちらを見る。
「ふふっ。お見通しよ。」私は笑う。見かけたやつ全員に同じことを言ったなんて言えない。
「どうしてこんなことを?」私は外した爆発物を見せながら言う。
男はしばらく沈黙する。
「納得できなかったのだ。この建築に。」男は静かに言う。
「満足?」
「そうだ。私の設計したこのギルド。思い通りにはならなかった。しがらみが多くあった。だから納得のいく出来ではなかったのだ。」男の顔をよく見るとこの前の建築家だ。柱のあるなしで揉めていた男だ。
「だから爆破してしまおうと?」私が尋ねる。
「そうだ。無かったことにしたい。君も分かるだろう?」建築家は尋ねる。
「ごめん。全くわからない…」
「あっそ。」建築家は機嫌が悪くなる。
「いや、でも分かるよ?私も鈍器になったりしたこと無かったことにしたいから!」機嫌を悪くしてはいけないので精一杯共感する。
「何言ってんだお前?」建築家は首を傾げたので私の機嫌が悪くなる。
「何が気に入らなかったの?自分の案が採用されてお金ももらって順風満帆じゃない。何が不満だったの?」私は尋ねる。
「柱だよ。」
「え?」
「柱を生やされたんだ!不細工な柱を!柱がある建物なんて私の理想とする建築ではないのだ!」建築家はものすごい剣幕で詰め寄ってくる。
「おっ…おん。」私は引きながら返事をする。
「お前も見ただろう?あの柱。不細工だろ?」建築家は悲しそうに言う。
「いや、別にそうは思わないけど。」
「…やはり後進地域の人間は芸術がわからんのだ。」建築家は顔をしかめる。
なんだと?と思ったが我慢する。
「私の建築に柱など必要ないのだ!」建築家は爆発物を起動する魔導具を懐から取り出す。
「待って!」私は止める。
「待たない!」建築家は魔導具を起動させようとする。
「柱は…必要よ!」私は大声で建築家に言う。
「何?そんなわけない!床面積を減らすだけの邪魔な物体に過ぎないのだあんなものは!」建築家は声を荒らげる。
「でも柱がなければもっと早く崩れてたくさん死人が出るかも。」
「ええい!煩い!なぜそこまで柱を擁護する!お前は柱か!」建築家はボタンを押そうとする。
「そうです。私は柱です。」私は穏やかに言う。
「は?」
「私はこの前崩れた旧ギルドの柱に宿る精霊なのです。私は柱だったのです。」半分真実である。
「柱…柱が人間の形に?そんなことはありえない。 いや、聞いたことがある。旧ギルドが崩れた時、たまたま一本の柱が持ち堪えたおかげで中にいる人たちが避難するための時間ができたと…そもそも、人払いがされているはずでここに私以外の人間がいることはありえないのだ。そういえばさっき鈍器にされたと…わかった!木には精霊が宿ることがある。このギルドの支柱になるほどの大木であれば尚更だろう。あなたはかつてどこかにあった大木に宿った精霊なのですか?」建築家は震えながら私を指差す。
腐ってもアーティストである。抜群の想像力だ。都合よく解釈してくれて助かる。
「そうです。私は大木の精霊です。枝を鈍器にされたことがあります。」私は神々しい雰囲気で話しかける。
「あなたがこのギルドの守護神でしたか。一人も死者が出なかった奇跡を起こした精霊なのですね。」建築家は跪く。
「いかにも。私がこのギルドを最期まで支えた柱なのです。あの時怪我はありませんでしたか?」
「は、はい。私はありませんでした。」
「ならば良かったです。最期まで頑張った甲斐がありました。」私は慈愛に満ちた声で言う。
建築家は平伏した。
「なぜあなたはそうまでして柱を嫌悪するのですか?」私は尋ねる。
「邪魔じゃないですか!美しくない!狭くなる!これだけで理由としては十分でしょう?」建築家は力説する。
「確かにそうかもしれません。しかし、あなたが選んだ柱にあなたが魂を懸けた建築を支えることを任せる。建築物はあなたの子供。そうすれば柱はその親。つまりあなた自身なのです。」
「私が…柱?」建築家は首を傾げる。
「そうです。あなたの代わりである柱があなたの息子である建物を支え続けるのです。あなたの命が尽き何年、何十年、何百年経とうとも。美しいことだとは思いませんか?」
私のてきとうに言った言葉に建築家の目に光が戻る。
「私が…この建物を…支え続けると?」
「そうです。あなたが死んでもあなたの心はここに残り続けるのです。」
「いいですね。柱って。」建築家は憑き物が落ちたように言う。
「申し訳ありません精霊様。私は間違えていました。柱は素晴らしいものだとこの愚かな私めに教えていただき感謝いたします。せめて残りの人生はしっかりと頑丈な建造物を設計しようと思います。」建築家は涙ながらに言う。
「わかれば良いのです。爆破などおやめなさい。爆発物を全て片付けるのです。」私は優しく言う。
「承知いたしました。今すぐに!」建築家は元気よく立ち上がる。
その拍子に指に力がこもる。魔導具のスイッチを押してしまった。
「精霊様…申し訳ありません。ボタンを…」建築家は泣き出しそうな顔で言う。
「何やってんだクソボケ!」私はキャラ崩壊する。




