13.建設費400億の柱
当然と言うべきか第三案に決定になった。第二案とはそこそこ接戦になったものの、やはり迷宮都市民の魂が昔ながらの第三案を選んだと言える。
「うーん、やっぱりこれか。」私も遠くから眺めながら言う。
「まあ、なんだかんだ慣れてますからね。」レオンが言う。
「ところでさ。ちょっといい?」竜太郎が無謀にも前に進み出る。
「だ、誰だお前は?」副市長が動揺する。
だが、竜太郎は構わず続ける。
「その建物って耐震性は大丈夫なんですか?」
「タイシンセイ?何それ?」
「タイシンセイ?子供手当的な?」
「いや、地震とかきたら絶対崩れるでしょ?」竜太郎はバカを見る目で副市長たちを見る。
「何それ?ジシン?」
「ジシン?親権みたいな?」
「ああ、地面が揺れるやつでしょ。そんなの南部の神話の話でしょ?起こるはずないよ。」副市長たちは鼻で笑う。
「くそっ!土地ガチャSSRめ!」
なにいってんだこいつという目で見られた竜太郎は引き下がる。
「いいか?ソフィー、絶対ギルドに近寄るなよ?」竜太郎は何やらソフィーに話している。
「君は確か噂の天才冒険者だね?君は異国の人間のようだ。何か案があるなら言ってみなさい。」副市長は竜太郎に歩み寄る。
「えっ…」いきなり話を振られ竜太郎は黙る。
「何か案があるのではないかね?」副市長は竜太郎を見る。
「うーん…そうだ!」竜太郎は手を叩く。
「あの女を人柱にして頑丈なギルドを建てましょう!」竜太郎は私を指差す。
「え?」私は困惑する。それをみたソフィーが少し悲しそうな顔で竜太郎に歩み寄る。
「リュウ…勝てないからって埋めてしまうのは流石に…流石リュウ!いい考えね!」このイエスウーマンめ!
「でも、支柱としては小さいのでは?」副市長はわりと真面目に検討し始める。
「人が埋まってるところで子供を遊ばせるの?」
「じゃあ、イリーナちゃんを量産して組み立てれば最強のギルドができるんじゃないですか?」顔見知りの偉い人がニヤニヤしながら言う。
「ジェンガ?」私は困惑する。
「また崩れたら幾千万のイリーナさんが降ってくるとか災害ですよ?」レオンが力説する。誰が災害だ!
「確かに。街が更地になるな。」マグネスが真面目そうに頷く。
(建造物の中にいた奴が出てきて街を破壊する…どっかでみた展開だな…)竜太郎はそんなことを考えた。
「でも、実際ギルドって建て増ししまくった違法建築なのでちゃんと柱は残しておいた方がいいですよね。」別の偉い人が言う。
「そう?わかってくれた?」竜太郎は目をキラキラさせて偉い人に近寄る。偉い人は少し引いていた。
「そこであのイリーナさんを柱として引き続き再利用しましょう。エコってやつですね!」ソフィーが満面の笑みで言う。
「なんで私が柱になることは確定なんだよ!」
「クソ硬女、俺のいた世界では柱は名誉職だぞ?400億稼いだ柱だっている。だから頑張れ鈍器柱。」
「そんなこと知るか!ってか誰が鈍器柱だ!」
「その400億で竜骨アーチ作れないですか?」第一案の建築家が懲りもせず自身の案を推す。
「いや、余裕で足りないから。」偉い人が反論する。
「せっかくなので一本だけでも?」
「つくらないからね。っていうかそれでも足りないから。」
「じゃあ土台だけでも…」
「だれか、こいつの口にテープ貼っといてくれ。」
建築家と偉い人のレスバも始まる。
「ねえ、再建案も決まったなら私もう動いていい?喉乾いたんだけど。」私は副市長に呼びかける。
「うーん、そうだな。確かにずっとそうしているのも可哀想だ。そろそろ避難準備を…」副市長が言い始めた時、向こうから大勢の足音が聞こえる。
「今度はなに?」レオンは焦る。
「私たちのギルドを解体するなー!」
「するなー!」
「私たちのギルドを守れー!」
「守れ!」
「解体反対!」
「解体反対!」
「絶対反対!」
「絶対反対!」
デモ隊だ。ギルド解体反対派の市民や冒険者たちがプラカードや横断幕を持ってギルドの前に集まってくる。
副市長たちは露骨に嫌そうな顔をする。
「みなさん!いいんですか?我々の象徴であるギルドが、少し古くなったからと言って解体されてしまうんですよ?こんなの許していいんですか?」主催者らしい女が涙ながらに訴える。
少し古くなったというレベルではないのだが。
「ソーダ!」
「ソーダ!」参加者たちが同意する。
「今日は特別ゲストの長有名芸人の踊り子のオード・リコさんが来てくれています。」
「皆さんこんにちは。リコです。私は、このギルドにすごく思い入れがあります。最初に私がデビューしたのはこのギルドの前でした…(中略)そして、今この瞬間ギルドが解体されようとしているんです!グスッ…こんな横暴許していいんですか?私はそんなの嫌です!」
踊り子のお涙頂戴演説に参加者たちは感涙に咽ぶ。
「次に王立大学教授の…」
デモではさまざまな肩書きの人間が解体反対の演説をする。
「署名も集めてきました。副市長はこの200筆の署名を無視するんですか?」参加者が困惑する副市長に紙束を突き出す。
「微妙に少ねえ!」竜太郎が苦笑いする。
「解体反対!」ドンドンドドドン!
「解体反対!」ドンドンドドドン!
「副市長は辞めろ!」ドンドンドン!
「副市長は辞めろ!」ドンドンドン!
「なんで私が?!」唐突に矛先を向けられた副市長が驚く。
デモはどんどん盛り上がる。踊り子が踊り始めるしデモというよりお祭りになってきた。
・・・・・・・・・・・・・
「…」
「……」
「………」
「ねえレオン、マグネス。」私はレオンとマグネスを呼ぶ。
「どうしました?」レオンが尋ねる。
「何か甘いもの食べたいな。」私は言う。
「わかりました!僕だけ行ってきます!」レオンが走り出そうとする。
「いや、マグネスも行って。」私がそう言うとマグネスは不思議そうな顔をしたが了承した。
二人が離れたのを確認する。
次にデモ隊と建築案についてごちゃごちゃ議論している副市長たちを見る。
「私性格悪いの。」私はそう呟くと、脚の硬化を解いて一歩進んだ。
「解体やめろ!」
「解体やめろ!」
「いやいや、ガラス張りは流石に…」
「柱はいるでしょ!」
「いらないって!」
「竜骨アーチ、土台だけでも。」
「つくらないって!」
「キッズスペース!」
「わかったから!」
そう言い合っていると、突然空が暗くなる。皆異変を感じ空を見上げる。
五階建ての違法建築であるギルドがまるで振り下ろされる鈍器のように彼らの上にのしかかった。
・・・・・・・・
私は瓦礫の隙間からマグネスに引っ張り出される。
「大丈夫でしたか?」
「うん。」
「流石にずっと支えるのは無理か。」レオンとマグネスは残念そうに言う。
「っ…」
「大丈夫かソフィー?」
「リュウ?」死を覚悟したソフィーが周りを見回す。リュウを頂点とした二等辺三角形状の空間にだけ瓦礫が落ちていない。
「助かったの?」ソフィーが恐る恐る尋ねる。
「ああ、この前一緒に考えた防御技、岐阜・斬雪白川郷(アンチブリザード・DMZ)で瓦礫を防いだ。怪我がなかったなら本当によかった。」竜太郎はソフィーに手を差し伸べる。
「リュウ…ありがとう。」ソフィーは竜太郎に抱きついた。
他に下敷きになった人たちも悲鳴を上げながら逃げ惑う者、瓦礫から這い出る者、血まみれの状態で掘り出される者で溢れかえり阿鼻叫喚となっていた。
「レオン、甘いものある?」私が尋ねると、マグネスが棺桶から砂糖菓子を取り出す。なぜそこに入れた。
だが、空腹だった私はそれを迷わず食べた。
数時間ぶりの糖分が五臓六腑に染み渡る。
「ふふっ、愚か者を見ながら食べるお菓子は美味しいわ。」私は眼下に広がる光景を見ながら呟く。
マグネスとレオンも同じように砂糖菓子を食べてみる。
「いつもより甘いでしょ?」私の質問に二人は苦笑いで返した。
異世界民は頑丈なので死者は出なかった。めでたしめでたし。
ギルド倒壊編・完




