13.ギルド再建案のコンペの会場はこちらです。
「うーん、このまま放っておくのも危ないし、一旦解体するしかないよね。」
「そんな。修繕はできないのか?」
「できるように見えますか?」
「無理無理。あそこの人が動いたら倒壊するよ。」
「このまま支えられてる内にできる限り解体してしまうか。」偉い人の一人が真っ当なことを言う。
「たしかに、その方がいいかもね。」他の人も同調する。
そうそう、その調子。早くなんとかして! 私は心の中で叫ぶ。
「いや、待ちたまえ。」解体がほぼ決まりかけた時、鶴の一声が響く。
その男、みたことがある。迷宮都市自治会の副市長だ。ふんぞり帰っている割に迷宮都市にいるところは見たことがない。基本的に王都にいるのだが、今日はなんらかの理由で帰ってきているようだった。
「君たちねえ。すぐ解体解体と言うが、それは軽率すぎないか?え?」男は偉い人たちを怒鳴りつける。
「も、申し訳ありません副市長。」幹部たちは謝罪する。
「あのねえ。危ないから解体しようじゃないんだよ。わかる?解体するにしても、ギルドは大事な建物なんだよ。ね?潰すにしてもその前に再建案を決めてから議論すべきじゃないかね?」
んなわけねーだろハゲ!先に解体しろ。
「それに、このギルドは皆にとって思い出深い建物だ。それを少し崩れたからといって解体してしまうのは、それは人としてどうなのかね?」副市長は解体論者に詰め寄る。
「はい。我々の認識不足でした。申し訳ありません。」副市長の説教により解体論者たちは引き下がってしまった。
ということで、私救出計画は立ち消えとなり早速ギルド再建計画の議論が始まった。
副市長以下十数名の偉い人たちの前でギルド再建案が次々と発表される。
「ギルドはいっそこのまま補強して残しましょう。そして別のところにギルドを建て直します。」
「だが、どうやって補強するんだ?あと、この過密な迷宮都市のどこにギルドを作るのだ?」偉い人が文句を言う。
「たしかに、ギルドは街の中心部にあるべきです。移設となると利便性が損なわれます。」
「では、この崩れたギルドを別のところに移しましょう。」
「その金を君が出すなら賛成だ。」
「え…」
「更地にして公園にしましょう。市民の憩いの場にしない?子育てしやすい迷宮都市にしまし
「ギルドはどうするんだ?」
「ギルド?」
「帰れ。」
・・・・・・・・
「ねえ、マグネス。あの話し合いはいつになったら終わると思う?」
「うむ、王の護衛としてああいう議場に何度もご一緒した経験上、ああいう話し合いは二、三年かかるな。」マグネスは懐かしそうに言う。
「二、三年?嘘でしょ…」私は絶望する。
・・・・・・・・
「君たち、今ギルドは崩壊しようとしているのだぞ?のんびりしている場合か?」元凶の副市長が声を荒らげる。お前のせいだろう?
「副市長はどうされたいのですか?」偉い人が尋ねる。
「うむ。今回ギルド再建案を建築家たちにプレゼンしてもらう。」副市長はそう言って目配せする。
すると、奇抜な服装の3人の建築家たちが前に出てきた。
「では、再建案のプレゼンを頼んで良いか?」副市長が言うと建築家の一人が前に出てきた。
女性建築家がプレゼンを始める。
「今回私が提示する案がこれです。」建築家はフリップを見せる。
2本のアーチのような形状の柱を中心に青いガラスがドーム状に貼られている。
「地球と海を進む船をイメージしました。この建築のメインはこの2本の竜骨アーチと呼ばれる部分です。」建築家は得意げに語る。旧ギルドとは似ても似つかない形状だ。
副市長はしきりに絶賛する。女性幹部も子育てがしやすそうだと満足げに言う。
「言うほど子育て要素ある?」私が尋ねるとレオンは不思議そうな顔をする。
「なんかあのアーチどっかで見たことあるな。」竜太郎が考え込む。
「いいね。いい案だ。綺麗だし、船の竜骨のようなアーチも美しい。」副市長はもう大絶賛だ。
「私もこれを推します。そこのアーチのところとか子育てしやすそうですし。」女性の偉い人が言う。
「どういうこと?」横の偉い人が不思議そうに言う。
「はぁ…男性は子育てしないからわからないんでしょうね。口を挟まないでいただけます?」女性の偉い人が睨む。
「いや、私妻が子供産んですぐ死んだので子育て全部やったんですが?」
「…」
「反論がないなら俺の勝ちだが?」
「ハラスメントよ!」
「ええ?!」
「まあまあ二人とも。喧嘩しないで。」副市長が止める。
「で、この新ギルドの工費はどのくらいになりますか?」偉い人が尋ねる。
「…」
「いくらになりそうですか?」副市長が尋ねる。
「金貨130000000枚くらいです。」(本作品では金貨一枚が日本円にして1000円というレートを採用しております。) 建築家は小声で言う。
「…」
「…」
「…」
偉い人たちが固まる。
「それは…高すぎるな。」
「そうですね…子育て予算がなくなりますね。」
「アーチ部分が高すぎる…。」偉い人たちは金額を聞いて完全に熱が冷めてしまったようだ。
「そうですね。先ほどの案については前向きに検討したいと思います。では次。」
副市長の言葉に意識が高そうな男が出てくる。雰囲気だけなら前の記者に似ている。
「次に私が提案するのは、低価格なプランです。」建築家は前の建築家をチラチラみながら言う。
「ほとんどを木材で構築されており、天窓や大きな窓をつけることで日光を取り入れ明るく開放的な空間を実現できます。自由な迷宮都市の雰囲気にマッチしていますね。」
木材そのままの風合いを出しあちらこちらをガラス張りにし開放感があり、外観も木材の端材で作った不規則に見えて規則的な木材の端材によって飾られた装飾がシンプルな外観に彩りを与えている。
ロビーもガラス張りで前よりも広く明るくなっている。
当然ロビーにいる受付や冒険者たちが直射日光で丸焼きになるのはご愛嬌である。建設の意思決定に関わる立場の人間にとっておしゃれと低価格は正義である。
「おお!低予算かつこのおしゃれさはいいね。」副市長も満足げだ。
「いいですね。子育てしやすそう。」
「まあ、子供も喜ぶかな?でもガラスは危ないかな?」
概ね好評である。
「昔我が王の妃が全面ガラス張りの部屋を作って熱中症になったことがあったな。」マグネスがぼそっと呟く。
「怖いこと言わないでくださいよ!」レオンが青ざめる。
「ビニールハウスかな?」竜太郎が呟いた。
「なかなかいいですね。では次の案をお願いします。」副市長は機嫌を直して言う。
中年で真面目そうなベテラン建築家が出てくる。
「はい。私は迷宮都市出身です。ギルドの建物にも思い入れがあります。私の案はあえて旧ギルドのデザインを踏襲します。」
出てきたフリップには少々改変は見られるものの、ほとんど旧ギルドと似たようなデザインだった。
偉い人や見にきた冒険者たちも歓喜のざわつきを見せる。
「やっぱりこれだよ。」
「そうだよね。古くて建て増しされて雑多なのがやっぱりギルドだよね。」皆口々の感想を言う。
「うーん、やっぱりここにあるべきものって感じだな。一番収まりがいいというか。」副市長もやっぱりこれだよという顔をする。
「子育てしにくそう。」
「どういう基準?」
やはり、旧ギルドの踏襲案が優勢だ。
「いいじゃないか。で、中はどうなってるんだ?」副市長は興味津々だ。
「確かに、キッズスペースとかがあると嬉しいわ。」
「あんな血の気の多い場所に子供なんか預けるな。」二人は言い合う。
「ええ、キッズスペースも託児所もありますよ。子育て支援は王都のトレンドですからね。」建築家は得意げに言う。
「そうなんだ…」副市長は困惑している。
「さらに従来のせまっ苦しい内装もかなり変えています。」建築家は得意げに次のフリップを見せる。
旧ギルドの特徴であった大量の邪魔な太い柱が取り払われ広々とした空間のイメージ図が描かれていた。
「おお!これは良い!」
「柱邪魔だったもんね。」
「そうそう、柱を避けようとして誰かの武器がぶつかって痣だらけになるんだよ。」
「子供が走り回れそうね!」
「ダメだよ?危ないから。みんな武器持ってるからね。」
「そうやって子供の遊び場を奪うから迷宮都市で子供を産む人がいなくなるんじゃないの?」
「今そんな話してないだろ。」
「まあまあ二人とも。」副市長は二人をなだめる。
「では採決を始める。」副市長は周りを見回す。
かっこいいが高すぎる第一案
おしゃれだが機能性皆無の第二案
今まで通りだが耐久性皆無の第三案
新ギルドはどうなるのか!乞うご期待。




