11.飲酒の有害性を示す作品
マグネスは棺桶の中身を見せないということを約束させて屋敷の中に入っていった。
私はまだ少し気持ち悪かったので外で休んでいた。
「この蜂蜜酒っていうお酒おいしいな。」私はくすねてきた酒瓶を眺めながら呟く。
「迷宮都市に売ってるかな?でも見たことないな。売ってたら箱買いしたい。いや、でもレオンの家にそんなもの置くスペースはないし、置いたら怒るだろうな…」ゴクゴク
蜂蜜酒うま!
「というか…なんかめっちゃ未成年飲酒疑われたじゃん。リョカーンの時といい、私犯罪者と間違われすぎじゃない?そんなに私って怪しいかな?」そういいながら酒瓶に写って輪郭の歪んだ自分の顔を見て大笑いする。
そう。この女もうダメなのだ。
「あはは!私こんな顔してるんだ!そりゃあ疑われるわ〜ははは!」
某男爵家から政敵の娘の抹殺という依頼を受けた殺し屋であるナイフ使いのNは屋敷の敷地に忍び込んだ。建物に侵入しようとしていたが、なぜか一人で大笑いしている変な女が出入り口の前に陣取っていた。
「うわぁ。酔っ払い怖。これだから酒は有害なんだ。」下戸のNは女を軽蔑する。ともかく絡まれたら面倒なのでそーっと横を通り抜ける。
(よし!絡まれなかった。ふ〜)Nは心の中でガッツポーズする。このまま屋敷の中に行って…
Nは入り口の前でポケットに入った偽装招待券を探す。しかし、それに少し手間取ってしまったのがいけなかった。
「ねえねえ、お兄さん。」いきなり肩を組まれてNは驚く。
「な、なんだよ。」Nは嫌そうに返事をする。
(なんだよ〜絡まれたじゃねえか!)Nはゲンナリする。
「私いくつに見える?」
(知らねえよ。)
「あ〜、18くらい?」適当に返事する。
「そう〜?おじさん面白いね。でもさ、私すっごい疑われてさぁ…」
(おいおい、なんか人生相談してきたぞ?知らねえよお前のことなんか。あーもう、しょうがねえ。やっちまうか。誰もいないな。やっちまうか。邪魔だもんな。)
Nは心の中で納得すると、よく研いだナイフで女の腹部を刺す。
「でさ?お酒飲んだらお前何歳なの?って言われるの。そもそも、私たちの業界は潜る時に保存が効くし、傷口の消毒にも使える酒はよく使うんだから何を今更っていうかさ…」女はずっと話し続けている。
(あれ?効いてない?俺刺したよね?腹刺したよね? あ、そうか。酒飲んだら痛みに鈍感になるよな。 っていうか、血も出てなくね? うーん、わかったぞ。酒を飲むと血がドロドロになって出血しにくくなるのか。)Nは無理やり納得する。
「それでさ、この前も高級な宿に泊ったのにさ?…」女は喋り続ける。
(仕方ない。関係ないが本当に邪魔なので死んでもらうしかないな。)Nはナイフで女の首の血管を切る。
切る。
あれ?切る!
(切れないじゃん!なんで切れないの?めっっっっっっちゃ研いだんだよこのナイフ!っていうか、なんか刃こぼれしてない?なんで?この女鋼より硬いの?)Nは青ざめる。
「でさ、結局私何歳に見える?」女は厄介な質問をしてくる。
「知らねえよ。」Nは素っ気なく答える。
「知らねえ?なんだその態度は!」女はいきなりブチギレて酒瓶で頭を殴打してきた。瓶が割れて酒が飛び散る。
「いってえぇ!」Nは絶叫する。
「知らねえとはなんだ!質問してるんだから質問に答えやがれ!わかりませんじゃないんだよ!小学生じゃないんだから!教授ならもっと怒るよ!」女は割れた酒瓶を振り回しながら怒鳴り散らす。
(くっそ、なんだよ。いってえな!やっぱり酒はクソだ。)Nは頭をさすりながら呻く。
(だが、今のうちだ。今のうちに中に入るぞ。)Nは柱に向けて怒鳴り散らす頭のおかしい女の脇をすり抜けて館に潜入した。
Nは洗面所で額の血を洗い流し身なりを整える。なんとか潜入できたか最悪だ。なんなんだあの頭のおかしい女。Nは憤りながら洗面所を出て会場に向かう。
だが、途中で視界が歪み始めた。Nは絶望的に酒に弱い。嗅いだだけでもダメなのだ。それが酒瓶を頭に叩きつけられ酒を浴びた。当然無事で済むわけがない。
もちろん頭を殴られたのも原因だ。
息を切らせ壁に寄りかかりながらヨタヨタと歩く。
全部あの女のせいだ。Nは悪態をつく。しかしだんだん足元がふわふわしてくる。
視界もグニャグニャと歪む。そうしてフラフラになりながらパーティー会場にたどり着いた。
(よし、これで任務を完了すれば帰れる。帰って寝よう。マジで…っていうか、任務ってなんだっけ?ダメだ、意識が朦朧として…なんだったか。確かこの家の娘を…えっと?)
Nはポケットに入ったメモを見る。
(そうだ。エレノアだ。あそこにいる娘だ。)Nは遠くで若い男と楽しそうに喋っている少女を見る。
(これで計画通りあのエレノアとかいう女を……あの女を…どうするんだっけ?)
しばらく考えたが思い出せない。焦りつつも辺りを見回す。すると横断幕が目に入る。
”エレノアお嬢様、誕生日おめでとう。”
(あっ、そうだ。祝えばいいのか。そういえばなんとか男爵から頼まれたな。間違いない。祝えばいいんだ!)Nは少し頭の中の靄が晴れた気がした。




