7.あなたは不幸体質なんかじゃないわ。多分。
「ここが迷宮ウサギの素揚げですよ。」レオンがエレノアに料理を渡す。
「すごい!シンプルで美味しい!」エレノアは嬉しそうに食べる。
「まずい!熱した油が入った大釜が!」
「もー!ヌルヌルじゃない!」
「そっち?」
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「ヒトクイウオの刺身ですよ。」
「赤身がプリプリでおいしい!」
「しまった!水槽からヒトクイウオが逃げて通行人の首に!頸動脈を噛み切られる!」
「うわ、生臭い。」
「ヒトクイウオの鉄より硬い牙が折れてる?」
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「イワウガチヒツジのステーキですよ。火をバーってやるパフォーマンスがすごいんです。」
「きゃあ!凄い火!」エレノアはレオンに抱きつく。
「あはは、大丈夫だよ。あれで焼け死んだりはしないよ。」
「あの、相方に引火してますよ。」エレノアは震える手で私を指差す。
「さっき油かぶってたからかな?」
「かな?じゃないのでは?」
「もう!服が焦げた。気に入ってたのに。」
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「名物の殺陣ですよ。冒険者が後輩に戦いの方法を教えるために発展した文化なんですよ。東の王国の王族もこの殺陣が好きでよく見に来ていたらしいですよ。」
「すごい!かっこいい!圧巻です!どっちが勝つんですか?」
「それはその日によるんだよ。どっちが勝つか予想するのも楽しいんですよ。」
「じゃあ赤い方じゃないですか?」
「じゃあ僕は青い方で。」
「まずい!劇場の老朽化で梁が折れて観客に当たる!」
「女性に当たったぞ!助けないと!」
「意識がないぞ?」
「い、いや、寝てる?!」
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夕方
「アーウアウアウ…」
「あくびしながら喋っても何言ってるかわからないですよ?」
「ふぁあ…エレノア、今日は楽しかった?」私は尋ねる。
「はい!とっても!」エレノアは心の底から笑う。
「ならよかった。」
「はい!まだまだ行けてないところもあるのでまた来たいです。その時も、案内してくれ…ますか?」エレノアはこちらの顔色を伺う。
「はい。いつでも歓迎しますよ!」レオンは笑顔で言う。
「レオンさん…」エレノアは目を細める。
「それにエレノア。」私は彼女の目を見る。
「あなた不幸体質なんかじゃないわ。だって私なんともないもの。だから自信持ちなさい。」私は優しく微笑む。
「は、そうですね。ありがとうございます?」エレノアはどうも釈然としない顔をする。
「お嬢様。そろそろ戻ります。お乗りください。」用心棒が馬車の扉を開ける。
「はい。では戻りましょう。」エレノアはスカートを持ち上げて馬車に乗り込む。
用心棒は馬車の扉を閉める。エレノアはそれでも窓を開けて手を振っている。
「では、今回の報酬です。お嬢様が楽しんでおられたので少し多めに。」用心棒は報酬を渡すと一礼して馬車に乗る。
「じゃあね!レオン!イリーナ!私また来るから!」エレノアは満面の笑みで手を振る。
来た時よりも何かが吹っ切れたように見える。
馬車が動き出す。エレノアは窓から身を乗り出して手を振っていた。
私たちは馬車が見えなくなるまで見送った。
「じゃあ、戻りますか。」レオンが言う。
「そうね。」私も頷く。
「今日は遊べて報酬ももらえて一石二鳥でしたね。討伐任務とかより気が楽でした。」レオンが嬉しそうに言う。
「言うほど気が楽だったかしら。なんかすごく疲れたんだけど…」
私の言葉にレオンはおいたわいしやという顔をした。




