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6.硬ければ 滑落しても 大丈夫

「いないね。」

「いないですね。」

「いないな。」


「他のパーティーに倒されたのでは?」レオンが疲れた顔で言う。

「それはあるかも。でも、依頼書も貼ってあったし。」私も心底萎えた顔で言う。

「すでに終わった依頼を受けて無駄骨なんてことはよくあるのか?」マグネスが不思議そうに言う。

「よくはないけど、気をつけないとたまにやってしまうわ。」

「それはそれは…」マグネスはおいたわしやという顔をする。


「もういい。私降りる。」私は心が折れた。

「そうですね。夜になったら危ないですもんね。」レオンも同意する。

「そうか。そういえば夜の山は危険だって我が王も言ってたな。」マグネスも思い出したように言う。

「我が王以外とアウトドア派だったの?」私の質問にマグネスはそうだったかもという顔をする。

「ああ。月に一度、ソロキャーンという山の上で一人神に祈りを捧げ一晩を過ごす仕事をしていたな。」

「めちゃめちゃアウトドア趣味じゃないですか。それに月一って!」

「私はその護衛も任されていた。我が王の神聖なソロキャーンに参加することができた。」

「それはもうソロじゃないのよ。」


「とにかく降りない?私高いところ苦手なの。私はそう言って下を見て絶句する。

「え?私たち今からここ降りるの?」

「そうですね。」レオンも嫌そうに言う。かなり急で足を滑らせれば滑落してしまうだろう。

「これは夜になる前に降りたほうがいいわね。」私は呟くとそっと降り始める。

服が汚れるがそんなこと気にしている場合ではない。

「イリーナさん大丈夫ですか?」レオンは度々声をかけてくる。

「だ、だだだだだ大丈夫よ。問題ないわ。」」」

「大丈夫じゃないでしょ!鉤括弧が増えるほど動揺してますよ!」

「言うほどキツイかこの斜面。」マグネスは棺桶を担ぎながらひょいひょいと斜面を降りていく。

「くっそ、あいつソロキャーンで鍛えてるから!」


・・・・・・・・・・

「イリーナさん、そこの木の根を持ってゆっくり、そう、その石に足をかけてこっちに。」レオンが手を差し伸べる。

私は言われた通りにレオンの手を掴もうとする。

しかし少し届かない。レオンはかなり端の方にいるので私が手を伸ばすしかない。私が小柄なせいでこう言う時に困る。

仕方がない。今足をかけている石の横に太くて頑丈そうな木の根があった。のでそこに足をかけてレオンの手を握ろうとする。

木の根が急にグルンと動き私は体勢を崩した。

「あっ、これ木の根じゃなくて半分埋まってた枝だ。」私はそのままずっこけた。それに、私の貧弱な握力では木の根にぶら下がることもできない。私はなすすべなく下に転げ落ちていった。


「イリーナさん!」

「あっ!」レオンとマグネスの声が上から聞こえる。


「私先行ってるから気をつけて降りてね!」私はそう叫ぶと目を閉じて瞬時に体を硬化させた。

私はそのまま斜面や木々にぶつかりながらしばらく滑落したがなんとか止まったようだ。


「怖かった…」私は硬化を解いて周りを見渡す。

目の前は崖だ。もう少し飛んでいたらここに落ちていた。出るのが大変だっただろう。

私が転がってきた山頂の方は…何こいつ?

なぜか私の後ろで魔物が死んでいた。結構大きな魔物だ。これはもしや?私は依頼書の絵と見比べる。

「あっ!」私は素っ頓狂な声を出した。




「なるほど。転げ落ちてきたカチカチイリーナさんに当たったんですね。」魔物の遺体を見てレオンが呟く。

「運が悪かったな。」マグネスは俯く。

「ともあれ、こいつのおかげで崖から落ちずに済んだし依頼も達成できた。ありがとう。」私はそう言って魔物の遺体を撫でる。


私たちは魔物のツノを戦利品として証拠品として取るとマグネスの力を使い丁重に埋葬した。

魔物にも感謝を忘れない。それが迷宮都市の流儀だ。


「さようなら。名も知らぬ魔物。」私は墓標を見ながら呟く。

「さあ、イリーナさん。降りましょう。ここからは斜面も緩やかなので滑落したりはしないですから。」レオンは私に手を差し伸べる。

「いや…」私はレオンから目を逸らす。

「え?」レオンは困惑した。



「こっちの方が楽だから私このまま滑り落ちるね。」私はそう言って斜面からダイブした。

「い、イリーナさーん!」レオンは顔を真っ青にして叫んでいる。

マグネスは愉快そうだ。

こうして私たちの登山任務は幕を閉じた。


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