31.おしまい?
「出てこないですね。」レオンがうなだれる。
爆発に巻き込まれ瓦礫に埋もれてしまったイリーナを皆で探しているのだ。
命に別状はないだろうと皆わかっているのだが、流石に瓦礫に埋もれて身動きが取れないとなると話は別である。
攻撃は通らなくても食べるものがなければ餓死するし病気にだってなる。
「でも、まだ半日だ。」竜太郎は言う。
「と言うと?」レオンが首を傾げる。
「いいか?こう言う状況で救出のリミットは72時間だ。それでまだ半日しかたっていない。わかるか?」竜太郎がレオンを見据える。
レオンは分かりませんと首を横に振る。
「ちょっと休憩してもまだ大丈夫ってことだ。」竜太郎は名案だろうという顔をする。
ソフィーがため息をついた。
「大丈夫だ。後三日もあれば俺の魔力も回復するからこの辺り一帯を熱で吹き飛ばす。その跡地にイリーナの奴だけが残るって寸法だ。名案だろう?」竜太郎は鼻を鳴らした。
「ダメだぞ。イリーナの他にも大勢埋まっている。そいつら全員吹き飛ばすわけにも行かんだろう。」マグネスは呆れる。
「そんな、これで生き残りなんているわけ…」竜太郎が言いかけたところで瓦礫の下から見覚えのある掃除のおじさんが這い出してきた。
「あっ。」
「あっ。」
「フイテルさん、さっきはどうも。」
「いえいえ。」二人は会釈する。
「フイテルさん、この下で変な女見ませんでした?」竜太郎は尋ねる。
「変な女はいっぱいいるからわからないねえ。」清掃員のフイテルは申し訳なさそうにぺこりとすると立ち去っていった。
「ほら、まだ生存者はいる。」
「別に良くない?」
「よくないぞ!」竜太郎とマグネスがワーワー言っている間にレオンは作業に戻った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…キ…ロ…
オ……ロ…
声が聞こえる。
「誰?」私は辺りを見回す。
しかしあたりは真っ暗で何も見えない。身体も全く動かせない。
「私は死んだの…かな?」私は考える。
無理も無い。神話に出てくるような存在である魔王とやり合ったのだ。
たしか、レオンの作戦はこうだった。防御力の高い私と魔王が同じ空間上に重なれば魔王の方の存在が消えてしまうのでは無いかという内容だった。
だが、今の状況を見る限りどうやら作戦は失敗したようだ。
無念だが人生とはこういうものなのかもしれない。
レオンたちは逃げ仰たのだろうか。巻き込まれた二人の殺し屋はどこにいったのだろうか。
そんなことを考える。
「起きろって言ってるだろこの!」突如大声が響き心臓が萎縮するのを感じた。一応私は生きているるようだ。
「誰?」私は周囲を見回そうとするが周りには誰もいない。
「俺が誰かなんてどうでもいいだろ?とにかく、早くここから脱出するんだ!なんとかしないと二人ともここで飢え死にだ!」焦っている男の声が響く。
「脱出っていってもどうやって?動けないんだけど。」私は謎の声に嫌味ったらしく反応する。
「仕方ないな。力を貸してやろう。俺…、いや、私に身を委ねるのだ。さあ早く。」
「嫌なんだけど。」
「助かりたいだろ?早くしろ!」知らない男の怒鳴り声が響く。
もう疲れたので私は静かに目を閉じた……。
「みんな!地底から巨大な魔力反応!」ソフィーが叫ぶ。
「ダメ…嘘…あれでも倒し切れないなんて…」ソフィーが足をガタガタと震わせて呟いている。
ガタガタと地面が揺れ始める。
レオンたち三人は周囲を警戒する。
「もうダメだ…もうおしまいなんだ。」ソフィーは力無くへたり込む。
「まさか、まだ?」竜太郎は身構える。遥か地下深くからの邪悪な魔力が彼の背中を撫でた。
「そんな。」レオンは剣を握りしめる。
「全員伏せろ!」マグネスが叫ぶ。
清掃員のフイテルは誰よりも早く伏せた。
ソフィーは顔面蒼白でガタガタと震えている。竜太郎が彼女を庇うように覆い被さる。
「来る…3…2…1…」
爆発音と共に瓦礫が舞い上がる。
レオンは枯葉のように吹き飛ばされ、その手をかろうじてマグネスが掴む。
爆風がおさまるとレオンは恐る恐る顔を上げた。
「嘘だ…」レオンは呟いた。
マグネスもそれを見て静かに息を大きく吐いた。
「あれで私に勝てると思っていたのか?ここまで愚かとは、一周回って可愛らしいな。」聞き覚えのある女性の声だ。
その人物から発せられている邪悪な魔力は正真正銘魔王のものだ。魔術の心得のないレオンでも簡単に理解できる。
だが、その声と姿形は紛れもなく彼女だったのだ。
「イリーナさんが…乗っ取られた。」