30.反発
魔王は考えた。いま、自分の周りには謎の光の筋が張り巡らされている。
だが、一見その光の筋には何も術式効果がついてなどいないのだ。そんなはずはない。
この状況でハリボテの魔術を使う意味がない。
これはまさか、自分の位置を特定するためのトラップではないか。魔王はそう判断した。
もしかすると、今の外界からの干渉を受け付けない状態への対抗策なのかと魔王は勘繰る。
「もしかすると、消えたままだと危ないのでは?」魔王はそう考えた。
そもそも、生身を晒したところで彼らには私をどうこうすることは不可能なのだ。
ならば、奴らの計画を潰してやろう。
そして何より、挑戦者を煽ってやりたい。そんなことを考えた魔王が能力を解いた。
同時に硬化したイリーナが同じ場所に着弾する。
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「皆は同じ場所に二つのものが同時に存在する状態を考えたことがあるかな?」
王都大学の講義室ではジュリーマン教授が講義を行っていた。
一人の生徒が不思議そうに教本を重ねて見せた。
「違う。それは重ねただけだ。私が言っているのは、その本がある場所にもう一つ本が存在している。そうだな。要は、存在が重なるということだ。」
学生たちは首を傾げる。
「かつて、存在が重なるとどうなるか実験した魔術師がいた。詳細な実験結果が残ることはなかったが、その結末はとても有名なものだ。ゼクタの惨劇。旧王都の4分の1が灰燼と化した痛ましい事故だ。」
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二つのものが同時に存在する時、二つの物は空間の主導権をめぐり激しく反発し会う。
魔王自身はその能力の都合上、能力を解除した先で何かと重なることは珍しいことではなかた。
だが、魔王ゆえの強大な存在により空間の主導権を握ることができていたため問題を認識したこてゃなかった。
だが、今回彼が重なったのはイカれた防御力を持つタンクだった。
現れた魔王と硬化したイリーナがぶつかり合い火花が散る。
「そういえば、昔同じことやって王都の半分近く消し飛ばしたバカがいたな。」
マグネスがぼそっと呟いた。
レオンとソフィーは青い顔になる。
「え?何か起こるんですか?」レオンが焦る。
「いや、魔術詳しくないけど、爆発するよあれ。」マグネスが真面目な顔で言った。
「退避!」竜太郎が叫ぶ。
同時に、イリーナと魔王の周囲の空間がぐにゃりと歪む。そして、周囲に満ちていた魔力も圧縮され、圧縮された魔力は加熱し、元に戻ろうと発散される。
「うわ!」レオンたちを閃光が包む。
爆音と共に魔王教団の基地は跡形もなく消し飛んだ。