30.スーサイドスクワット
レオンの合図と共にソフィーの攻撃魔法が飛び出す。4本の光の筋が放物線を描いて魔王に襲いかかる。
魔王は少し体を捻ってかわそうとするが、魔王の目の前で拡散し広範囲に高密度の魔力を撒き散らす。
魔王は大きく後ろに下がり攻撃をかわした。同時に後方からマグネスと竜太郎が切り掛かる。完全に後ろを取られた魔王だったが、さすがと言うべきか、すぐにマグネスを蹴り飛ばし竜太郎から距離を取る。
体勢を崩したマグネスに魔王が指から光弾を発射するが、咄嗟にイリーナが割って入りガードしことなきを得た。
「感謝する。あとイリーナ、意外と動けるんだな。」マグネスは意外そうに言う。
「褒めてくれてもいいのよ。」
「何がやりたい。このまま戦っても消耗するだけだろう。そうやって意地を張るのが人間の悪いところだ。」魔王は呆れたように言う。
「それはどうか、な!」竜太郎の背後からの斬撃を姿を消してすり抜けると、彼の脇腹に蹴りを入れ吹き飛ばす。
「ふっ、ざまあないわね。」
「今煽ってる状況じゃないと思うんだが?」竜太郎は脇腹をさすりながら立ち上がる。
「喧嘩しないでくださいよ!」レオンが遠くから注意する。
「こいつら、余裕があるな。」魔王は訝しむ。集まって何やら話した後から急に動きに統率が取れ始めたのだ。これは何か自分に対抗するための秘策があるのだと彼は確信した。
だが、その秘策ごと打ち砕いてやろうとかれはほくそ笑んだ。
「少し本気を出そうか。」魔王はそう言うと邪悪な黒い魔力を纏う。
黒い魔力が晴れると、そこには先程までの人の姿はどこえやら、黒く翼の生えた異形の姿に変化した。
「どうだ?この鎧は過去の人類の力では傷一つつけることは叶わなかった最強の鎧だ。貴様らの希望が虚構であるということを教えてやろう。」魔王はそう言って笑う。
竜太郎とマグネスが間髪入れず両側から切り掛かるが、鈍い音が響くだけで、マグネスの剣は刃こぼれし、竜太郎の剣も弾かれるだけだった。
「わかっただろう。剣などでこの鎧を砕くことはできない。諦めろ。」魔王は勝ち誇ったように笑った。
「いままで誰も破れなかった鎧ですよね。これならどうですか?」魔王は背後から声が聞こえたので驚いて振り向いた。そこにはいつの間にか、硬化したイリーナを振りかぶったレオンが立っていた。
「私の魔術で二人の気配を隠していました。もう通じないと思うんでこれで決めてくださいね。」ソフィーが叫ぶ。
「わかりました!」レオンはそう言うと、力一杯イリーナを振り下ろした。
バキンと今まで聞いたこともない音が鳴り響き魔王が後ずさる。
「驚いたな。」魔王は自身の鎧の断面を撫でた。
「今までこの鎧を破った者は存在しなかった。やはり、人類の進歩は凄まじいな。」魔王は少し考え込んだ。
「仕方ない。力を完全に取り戻していない故分が悪い。一旦退かせてもらうぞ。」魔王の意外な撤退宣言に五人は動揺する。
「逃げるのか卑怯者!」マグネスが怒鳴るが、魔王は反応すら示さず姿を消してしまった。
「まずい!これじゃあ作戦が!」竜太郎が怒鳴る。
「まだいける!ソフィー、あいつの脱出経路を絞って!」私は隅で隠れているソフィーに声をかける。
「要求が抽象的すぎますよ!」ソフィーは怒りながらも魔術を発動する。
彼女の杖から光の筋が伸びる。そのまま光の筋が彼らのいる空間全体に張り巡らされる。
だが、現在魔王は外界からの干渉を一切受けないまさに無敵状態であった。それにソフィーの魔術では対応できるはずもなかった。
しかし、実際のところこの魔術には何も効果が付与されていなかった。ただの部屋中に張り巡らされた光の筋だったのだ。
「ナイスねソフィー!」私は親指を立てる。
「一か八かやりましょう!マグネスさん!私が指定する場所にイリーナさんを投げてください!」レオンはマグネスに頼む。
「ああ、任せろ。私はかつて槍投げ大会で一位を取って我が王より直々に…」
「後で聞くんで!」
「お、俺はなにすればいいんだ!」竜太郎が自身を指差す。
「えっと、スクワットでもしててください!」
「1、2、3、4…」竜太郎がスクワットを始める。
「マグネスさん、あそこに投げてくださいね。」
「任せろ。私が投げ槍で何人討ち取ったと思ってる。いや、ウォーミングアップしたいかも。」
「はい今です投げて!」レオンに急かされマグネスは思いっきり私を投げ飛ばした。