29.魔王復活!しかし…
「こうなったら仕方ない。時間を稼いで…」ガレットが能力を発動しようとした瞬間、死角から飛んできた硬化イリーナが頭に直撃し力無くその場に倒れ込んだ。
「やったのか?」竜太郎がちらりとマグネスの方を見る。
「全員の報告を合わせればこれで四人目だ。四天王とか言ってたからこれで終わりだろう。」マグネスは得意げに言う。
「よかった。じゃあ早速帰りましょう。」レオンが食い気味に提案する。
「そうね。最後の一撃を主人公である私が務められたのは最終章に相応しいわね。」私も頷いた。
「投げたのは私だが。」マグネスは不満げに言う。
「ともあれ終わりってことですね。完ですよ完。」ソフィーも感慨深げに言う。
「なんで勝手に締めてるんですか!」レオンが反論する。
「おい待て。違うぞ。四天王はあくまで四人の幹部だ。天王とか名乗ってるけど、あくまで部下なんだよ。四天王がいればそれを束ねるボスがいるんだ。まだ完じゃない!」竜太郎が怒鳴る。
「へ?」私が返事した瞬間、後ろから禍々しい気配を感じる。
「もう、あんたがフラグ立てるから。」
「俺のせいじゃねえ!」そう言いながら皆で振り向く。
振り向くと、倒したはずのガレットの兵士が眠っているベルに何やら光る石を入れているところだった。
「これは、まずい!」ソフィーは何かを察したのか防御魔術の詠唱を始める。
「俺の…俺たちの勝ちだ!」薄れゆく意識の中でガレットは高らかに勝利宣言を行った。
謎の石を入れられたベルを中心に邪悪さに満ちた魔力が周囲に広がっている。近くにいたガレットの兵士は黒い砂になり分解されてしまった。
私たちにも邪悪な魔力が襲いかかるが、ソフィーの防御魔術が間に合いなんとか難を逃れる。
私だけ守って貰えなかったが私も大丈夫だ。どうも釈然としないが仕方ない。
魔力を放出し終わり黒い霧を纏ったベルがのそりと立ち上がる。
途端に彼の肉体は変質し、長髪の青年のような姿になる。
「ほう…これは。受肉とは久しいな。」青年は不気味に笑う。
「蘇ることができたか。いいねぇ。手始めにこの国を乗っ取ろうか?」青年は私たちなど眼中にないといった様子で呟く。
「ベル…」私は呟く。すると青年は私に人差し指を向ける。同時に私の身体に何かがぶつかる。思わずよろめく。
「人間風情が、喋っていいと誰が言った?」青年はこちらを睨む。
「ご、ごめんなさい。」私は肩をさすりながら反射的に謝る。
だが、謝ってはみたものの腹が立ってきた。いきなり現れてちょっと喋っただけで何かをぶつけてきたのだ。悪いのは向こうだ。どうして私が謝らないといけないのか。私はあのいけすかない青年をどうにか懲らしめることができないか考え始めた。
だが、青年の方も困惑していたのだ。彼は正真正銘完全復活した魔王である。彼は無駄口を叩く無礼な人間の上半身を吹き飛ばすつもりで攻撃したのだが、どうやら少しよろけさせる程度の威力しか出ていなかったように見えたのだ。そこから魔王が導き出した結論。それは、自分はまだ完全復活していないということであった。
見た限り周りにいるのはどいつも手練れの戦士たちに見える。万全でない今戦うと返り討ちに会うかもしれない。ここは敵対せずに乗り切るか、油断させたところを不意打ちで潰すのが良いだろう。そのためには彼らを油断させる必要がある。そして、その解決策を彼は知っている。
彼は、数百年に渡り人類を恐怖のどん底に叩き落とした魔王だ。人間が恐れるもの、そして人間が欲するものを誰よりも知っていた。
そんな魔王が導き出した解決策。
それは猫の鳴き真似であった。
「うわ、きっしょ。ここで叩き潰してベルを救出するわよ!」私はドン引きする。
「おう。慈悲はいらないな。」竜太郎も剣を構える。
「変な人ですね。」レオンやマグネスも戦闘体制となる。
「うーん、ダメか。」魔王は無念そうに呟いた。