番外編1-4.vs過去
「さあ、まずはこの鎧だが結構硬い。」アレンが呟く。
「そうみたいね。」私は頷く。
「ああ。凹ませることはできるが、それ以上はなかなか壊れない。脱出しようにも真っ二つにしようにもお前が邪魔で斬れない。」
「硬くて悪かったわね。」
「別にそう言う意味じゃ無い。」
「刃先でうまく鎧だけ斬れないの?」私は尋ねる。
「無理だ…俺はそこまで精密な技術を持つ剣士では無いんだ…」アレンは申し訳なさそうだ。
そうだ。彼はパワーゴリ押し型の剣士なのだ。鎧だけうまく切断なんて離れ技はできない。そもそも彼の剣は斬るより叩くことに重点が置かれており切れ味の方はあまりよく無いのだ。
「アレン?なんで他の冒険者帰したの?」
「あぁ…すまん。なんか全員の前で恥かかせるのもなと思ってな?」
「気遣いは嬉しいけど…やっぱり浅慮ね。あなた。」私は呆れた。
・・・・・
「ダメだな。壊れん。」アレンは笑顔で言う。
「笑顔で言うことじゃ無いでしょ?」
「そうだな。わかった。このままもう少し下に降りよう。10層越えればこの鎧を破る魔物がいるかもしれない。」アレンが提案した。背に腹は変えられないので私はその提案に乗ることにした。
「最近どうだ?」道中にアレンが気まずそうに話しかけてきた。
「思ったよりはどうにかなったかな。仲間も見つけたし生活も安定してきたしね。」私も鎧をガシャガシャ鳴らしながら返答する。
「それは…よかったな。」彼自身私をクビにした手前踏み込みづらい話題だったのだ。
「いいじゃない。私が辞めてそっちはダンジョン攻略の効率が良くなった。私もあんまり役に立ててなくて居辛かったところもあるから、それに今は新しい仲間に必要とされてこっちはこっちで楽しいし。」ごつい鎧のおかげで表情が読まれないから気が楽だ。
「この層の魔物は強い。鎧くらい簡単に壊してくれるだろう。俺は魔物をこう…うまく、いいかんじにコントロールする!」アレンは自信満々に曖昧なことを言う。
「俺が魔物を追い立ててそこに立っているお前に誘導する。そしてお前は魔物に袋叩きにされて鎧が壊れる。どうだ?」
「うん。まあいいわ。魔物は容赦ないからね。」私は同意する。
まずは二人で魔物が出るのを待つことにした。
「なんか不思議ね。」私は呟く。
「何がだ?」アレンが首を傾げる。
「最初ダンジョンに潜った時、防具が壊れないかヒヤヒヤしてたのに、今では積極的に壊そうとしてるなんて。」私は小さく笑う。
「確かに。逆だな。」アレンも笑った。
「成長したのね。」私は昔のことを色々思い出す。
「お前は育ちすぎたのでは?」
「うるさいわよ。」
しばらくの静寂が続く。
「その…ごめんな。いきなりパーティークビにして。お前を戦術に組み込むのが難しくなって、ただ無駄にタンクの役割を強いるのは申し訳なかった。それで、お前があとぐされなく次の仲間を探せるように、その、全員で結託して一芝居打ったんだ。」アレンは申し訳なさそうに言う。
「おかげさまであとぐされなく次の仲間を探せたわ。それに、実際動けない前衛なんて使い道ないしね。でも、なんでわざわざそんなこと教えてくれたの?」私は彼の言葉を理解しつつも不思議に思う。
「いや、その…良心の呵責がさ?」アレンがしょんぼりとした顔をする。
「あははっ、何それ。リーダーならそういうのは胸の内にしまってなさい。」私は笑いながら呆れ返った。
「そうだな。返す言葉もない。自分だけ楽になろうなんて、やっぱりまだ成長してないな。」アレンはしんみりとした顔で自嘲の笑みを浮かべた。
そう話していると魔物の気配を感じた。
「来たな。」アレンが険しい表情になる。
「始めようか。」私は鎧の下で笑う。
私が魔術で明かりを灯す。すでに私たちは魔物に囲まれていた。
「この魔物は?」見慣れないシルエットに私は困惑する。
「なに?もうこんなところまで?」アレンは意外そうに言う。
「何か知ってるの?」私は尋ねる。
「ああ。あれはビターオクトパス。下の層で大量発生していてな、繁殖力が強くてとうとうここまで上がってきたらしい。」アレンは剣を構える。
「うわあ…触手だ。気持ち悪い…」私は嫌な顔になる。
「ともかくあいつと戦うぞ。よし、じゃあ前みたいに相手を引きつけてくれ。」アレンがこちらをみて微笑む。
「わかった。一時共闘といきましょう。」私はそう言ってタンクスキルを発動。七色に発光することでモンスターたちの注意を引く。
鎧の目の穴から七色の光が漏れる。
「あんま目立ってないぞ?」アレンが申し訳なさそうに言う。
「誤算ね。」私は唸った。
「でも面白いぞ。」
「そのフォローはいらないかも…」