28.清掃員はだいたい社長
「この先にベルが…。」竜太郎は大きく深呼吸する。しかし、少し悩む。このまま一人で突入すべきか。それとも仲間と足並みを揃えるか。
しかし、もたもたしていれば取り返しがつかないかもしれない。
「俺ならいける。よし!」彼はそう行って自分を奮い立たせるとドアを蹴破る。
「…」
「おっ、こんにちは。」気の良さそうなおじさんが床を掃除していた。
「え?」竜太郎は困惑する。
「もうちょっとしたら掃除終わるからね。はい、おまたせ。」おじさんはゴミ袋を持って竜太郎の脇をすり抜けて部屋を出ていく。
「だれだお前!」竜太郎は怒鳴る。
「わし?魔王教団清掃係、水拭きのフイテルだ!」おじさんは決めポーズにドヤ顔で名乗る。
「うるせえ!どっか行け!」竜太郎はフイテルを外へ追いやる。
「清掃員に態度悪い奴はモテないぞ!」
「だまれよ!」
竜太郎は誰もいなくなった寝室で考え込む。おそらく嘘を教えられた。あの清掃員は魔力も無くどうみてもただのおじさんだった。
今考えれば疑ってかかるべきだった。しかし、焦っていたこともありまんまと騙されてしまった。急いで戻らなければと彼が部屋を出た瞬間、フイテルがバケツやゴミ袋をガチャガチャ鳴らしながらこっちへ走ってくる。
「なんだ。失せろって言ったろ!」竜太郎は怒鳴る。
「違うんだって!なんかいっぱい人来たんだって!」フイテルはそう言いながら竜太郎の脇をすり抜けて逃げていく。
「いっぱい人が?」竜太郎が首をかしげた途端、向こうの角から大勢の兵士が飛び出してくる。
「くそっ!」竜太郎はつぶやく。
竜太郎は落ち着いて深呼吸をする。
「おじさん。いつも部屋綺麗にしてくれてありがとうございます。ここの一番偉い人はどこにいますか?」竜太郎は笑顔で礼を言ってから質問する。
「あぁ、いやいや、これも仕事だから。あと、教祖様ならあのいっぱい人がいる方の階段上に上がって右に隠し通路があるから、そこをぐわ〜っと行ってキュッと曲がると大きい廊下があるからそこバーって行けばいるよ。」フイテルはうれしそうに質問に答える。
「そうですか。ありがとうございまーす!」竜太郎はそういうと行く手を阻む兵士たちを切り伏せながら階段を駆け上がっていった。
「いい子♡」一人残されたフイテルはほっこりしていたのだった。
ちなみにこのおじさんは正真正銘ただの清掃係のおじさんである。
「なんだよ!こんなところに隠し扉なんてわかるわけないだろ!」竜太郎はぐちぐち言いながら隠し扉を開けて中に入っていく。
数分後。
「なんかここえらいことになってますね。」レオンはそこらじゅうに散らばる兵士の死体を見て引いている。
「戦争でもあったのかしら?」私もマグネスを引きずりながら返事をする。
「リュウの魔力の痕跡です。きっとここで戦ってたんですよ!」ソフィーが嬉しそうに言う。
「っていうか、ソフィーあんたあいつと一緒だったんでしょ?なんで別行動してんのよ?」私は尋ねる。
「いや、ちょっと別行動してすぐ追いかけたんですけど足が遅くて。」ソフィーが残念そうに言う。
「あそこにわかりやすい隠し扉がありますよ!」レオンが例の隠し扉を指差す。
「本当だ。わかりやすい隠し扉ね。」私は鼻で笑う。
「わかるんですか?」ソフィーが不思議そうに尋ねる。
「ダンジョンに潜ってるとああいうのすぐわかるのよ。ね、レオン。」私の言葉にレオンも頷く。ソフィーは納得できない様子だ。
「よし、じゃあ追いましょう!」ソフィーはすぐに隠し扉に向かう。
「待って。タンクが先頭行くから。あとマグネスは早く起きて。」私は面倒くさくなってマグネスを二人に押し付けると隠し扉を開ける。
なんとなく罠があるのではないかという期待をしていたがそんなものはなかった。
罠があるのを期待してしまうとは、私も頭がタンクになってしまったのだと少し自分が怖くなった。
次回、魔王教団との最終決戦