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26.呪いの子

お前のせいで婆さんが死んだ。


あんたがいるからうちの子が…

まあまあ、お産の後だ。身体に障る。

あんたに何がわかるの!


お前がいるとみんなが不幸になるんだ。


今でも耳に残る言葉だ。

私が生まれてすぐ、私は魔術が使えることがわかった。村などの小さなコミュニティで魔術を使える者は貴重であり、幼い頃から大切に育てられる。その点で私も例外ではなかった。

だが、私が魔術の腕を上げて村の人々を助けると同時に不思議なことが起こり始めた。

老人や幼い子供が次々と死に始めたのだ。最初は皆そんなものだろうと考えていたのだが、だんだん私が魔術を上達させるにつれ異常が増えるという法則が周知のものとなった。

私は村のみんなを助けるために私は回復魔術を学んだ。

だが、それでも村の状況は悪化していった。

そして、ある日両親が死んだ。私は唯一の味方を失った。


皆が私への不満を募らせていた。これ幸いと私に罵詈雑言を浴びせ、私を地下牢に幽閉してしまったのだ。

それから何年経ったかはわからない。何年も経ったのかもしれないし、案外短い時間だったかもしれない。だが、私は暗く狭い地下牢の中で私は果てしなく長い時を過ごしたのだ。


そんなある日、誰かが近づいてくる音がした。

地下牢に続く扉が開き光が差し込む。私はあまりの眩しさに目を閉じる。

恐る恐る目を開けると、逆光に浮かぶ人影が見えた。

「こいつが…厄災?」その人物は怪訝そうに呟いていた。



「どういうことだ?この女の子が厄災?」

「そうだ。こいつのせいで大勢死んだ。俺たちじゃ近づけない。」

「いや、だがあれはどう見てもただの…」

「お願いだ、頼むよ。勇者様なんだろ?」

「…わかった。危険だから離れていてくれ。」

外から会話が聞こえる。


しばらくすると、剣を手に持った何者かが私の目の前に立つ。珍しい顔立ちをしている。外国の人間だろう。

男は無言で剣を私に突きつける。

やっと死ねるんだと私はホッとしていた。


・・・・・・・・・


「殺して来たぞ。これでいいか?」

「おお!勇者様、ありがとうございます!」村人たちはぺこぺこと頭を下げる。

「約束通り報酬は貰うぞ。」

「ええ。どうぞ、お納めください。」村人は貨幣の入った袋を渡す。

「まあ、これでしばらくは困らんな。じゃあ、俺はこれで。」

「待ってください、この村に泊まるのでは?」村人は首を傾げる。

「気が変わった。忘れてくれ。」困惑する村人を背に彼は村を去った。



「ほら、出てこいよ。行くぞ。」ぶっきらぼうに話しかけられる。

私は木の影から顔を出す。

「金ももらったしとっとと離れよう。バレたら面倒だからな。」彼は私を手招きする。

「でも、私が近くにいるとあなたにも呪いが。」私は弱々しく呟く。

「大丈夫だ。呪い耐性がある。あるはずだ。」彼は少し自身なさげに宣言する。

彼が不安げな私の手を引く。

「どうしてここまでしてくれるんですか?」私は恐る恐る尋ねる。

「なんでって、俺は勇者だからな!」彼はにこりとする。


・・・・・・・・・


しばらく歩くと街が見えた。

「さあ、行けよ。」彼はそう言うと村でもらった報酬の袋を丸ごと私に渡そうとした。

流石にもらえないと断ろうとしたが、彼はいいからと私に押し付けようとする。

「ダメなんです。私はいるだけで周りに呪いを振り撒くんです。街に行くなんてできません。」私がそう言うが、彼はそんなものは気のせいだ。の一点張りだ。

どうしてわかってくれないのかと軽く絶望する。

「呪いなんて迷信だ。いや、でもこの世界って魔法とかあるしあるのかな。いや、でもそんな呪いとか大丈夫だろ。たまたま偶然とかそんなあれだろ。」彼は極めて楽観的な分析をする。

「いえ、でも、私の周りの人が次々と倒れていってしまって!」私は食い下がる。全力で自分をネガキャンするのも変な感じだ。

「たまたまだろ。流行病とかじゃねえの?いや、待てよ。流行病かもしれない奴を街に放ったらやばくね?俺の責任になったら勇者どころじゃねえ…」彼は固まる。

「だから私は街になんて…」私は俯く。

「よし!わかったそうしよう!しばらく俺と一緒に旅をしよう。そうすればこう、医者とかに会えたりしてなんかこううまく行くかも。」彼はふわっとしたことを言う。

私はついに主張が通り目を輝かす。

「まあいいや。俺この世界の文字とか読めないし、食えるものとかもわからないから飯とか作ってくれるなら一緒に来てもいいぞ。」彼は仕方なさそうに言う。

「作ります!得意ですよ。」私は全力で頷く。

「ああ、それならいいが。」彼は小さく頷く。

「あと魔術使えますよ!」

「初手魔術師キタ!」彼は急に興奮気味に私の手を握る。

「俺はリュウタロウだ。これからもこの先もよろしくな!」彼は急に上機嫌になる。

「ソフィーです。こちらこそよろしくお願いします。」私は少し驚きながらも自己紹介をする。

そんな彼の興奮具合が私はとても可笑しかった。

私はあの時久しぶりに心の底から笑えた気がした。


そんなことがあって私はリュウと旅をすることになった。彼は優しかった。困っている人がいれば迷わず手を差し伸べる。そして女の子に感謝されるとデレデレになる。そしてなまじ強いせいで調子に乗る。それを繰り返し最終的にはハーレムを築くという迷走を見せたが、突然現れたカチカチ女にボコボコにされハーレムを瓦解させられ、それからはかなり落ち着いた。


ハーレム絶頂期は一回刺してやろうかと思ったこともあったが、今こうして彼に背中を預けられてる。私は彼の相棒だ。これからもこの先も。

だから当然ここで死ぬつもりなど毛頭ない。


村を苦しめた私の呪い。私が押さえ込んでも漏れ出した力。


私は目を開ける。


同時に私に襲いかかって来た雑兵たちの前列が昏倒する。

もう遠慮することはない。呪いを最大出力で振り撒く。私は常に自身を覆う水の結界を解く。

その瞬間、私に近い雑兵から放射状にバタバタと倒れていく。


あたりが静まり返ったのを確認して私は再び自分の周りに薄い水の結界を張る。

嫌な力だが、魔術で生み出された雑兵相手なら心が痛むこともない。私は相棒を援護するため走り出した。


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