25.どう足掻いても絶望
数分間私は一方的に殴られる。先に接近戦を挑んだのは私だが、当然だが、未来が見える上に体格も力も上の男に勝てるわけがないのだ。私は普通にボコボコにされ地面とキスをすることになった。私は起きあがろうとしたところで首筋を踏まれ地面に押しつけられる。
「弱すぎる。話にならん。よし、首を折ろう。早く他のやつの援護に向かわねば…」シェリングは足に力を込める。
私は苦し紛れに男の脚を掴む。
「無理だ。貴様の力ではどうにもならない。どうにも…」言いかけたところでシェリングはハッとする。
「あら?見えた?」私は顔を上げてニコリとする。
「あ…」シェリングは青ざめる。
「あなた、5秒先までしか見えないのよね。だから5秒待った。手の硬化が終わるまで5秒待ったの。」
「どうしてそれを?」シェリングは声を荒げる。
「私がフェイントで撃った魔術、あなたが本当に先まで見えているなら、私が途中で火球を消すことが見えていたはず。つまり、変に避けて体力を消耗する必要はないの。でも、あなたは避けた。そして、避け始めてから火球が消えるのを見て動きを止めた。つまり、あなたはたった5秒程度先の未来しか見ることができない。」私は彼の脚を掴んだまま言う。
「だが、私の回避行動がブラフであった可能性もあるだろう?」シェリングは震える声で反論してくる。
「まあ、そうね。でも、そのへんは読み違えてもなんとかなるわ。だってあなたの攻撃効かないし。」私は笑顔で煽る。
「くそっ!放せ!」シェリングは脚を振り回す。
「それに、あんたがさらに先の未来を見通せるなら、まず間違いなく私には挑まない。」私はそう言ってシェリングに殴りかかる。
最初は私の攻撃を防いでいたシェリングだが、突然諦めの表情と共に防御を辞めてしまった。未来が読めるというのはつくづく難儀な能力である。
・・・・・・・・・
気絶したシェリングを縛って動けなくすると、私は仲間の元へ向かうべく入ってきた扉に近寄る。
シェリングの話によるとマグネスがピンチらしい。なんとか助けに行かなくては。ベルのことも助けに行かなくてはならない。
使命を背負い私はシェリングが曲げたドアノブに力を込める。
びくともしない。
私は再び仲間の顔を思い浮かべてから全力でドアノブを元に戻すため力を込める。
動かない。
まだ焦る時間ではない。腕を硬化させてこの原理でドアノブを曲げようとする。
無理だ。まず、ドアノブが滑らかな曲がり方をしており、硬化した腕が簡単に滑ってしまい力を掛けられない。さらに悪いことに、なんとか引っかかって力を入れてもびくともしない。
そう。私の力ではどうしようもないのだ。
私は大きなため息をついて座り込む。
「どうしよ。」私は脚を掴まれたシェリングも親近感を覚えるほどの絶望顔で座り込んだ。
仕方がないので私は何か使えそうなものを探すため部屋の中を歩き回った。
しかし、自分の硬化した腕すら使えないのだから、使えるものが落ちているはずもなかった。
時間を止める能力を使ったところでどうしようもない。
もし未来が見えたらここには来なかったのに。私はそう思った。