25.いざ尋常にカードゲーム
「さあ、マグネス、もうお手上げか?もうすぐ10分経つ。」オルテスがニヤリとする。
「いいや、思慮深いだけだ。」マグネスはそう言ってカードを置く。
「ほう。面白い。」
このカードゲームの初動は基本的に雑兵カードを出してお互いの戦力を削り合う。その後強力なカードを切っていくのだ。だが、この段階でマグネスは押されていた。
「どうした?ブランクがあるからと言い訳するか?」オルテスは煽る。
「どうかな?」マグネスは鼻で笑う。
「お前はもう俺に勝つことはできん。」オルテスはカードを置く。
「神兵か…クソ…」マグネスは前衛が全滅して唇を噛む。
「さあ、前衛がいなくなったぞ?どうする?降参してもいいんだぞ?」オルテスはニヤニヤする。
「降参などするか!これでどうだ!」マグネスも負けじとカードを切る。
「おっと、後衛を狙うか。しまったな、1ターン前衛の支援が滞る。これでは十分な攻撃ができない。」オルテスは項垂れる。
「降参するか?早く連れ去った子供を返せ。」マグネスは相手を睨む。
「それはできない。それに、戦況は私有利。1ターンスタンしたところで私の優位は覆らん。」オルテスは笑う。
・・・・・・・・・
「くそ…」今度はオルテスが唇を噛む。今度は一転してマグネス有利な戦況になっていた。
「私もやられっぱなしではない。いままでのやられ方はこの状況に持っていくための芝居だったのだ。後衛の輸送船団に大魔術師アラス。前衛の神兵ファランクス、アイギスドラゴンの守りを崩せるかな?」マグネスはついに完成した耐久最強パーティーを見せてドヤ顔をする。
「むむ…物量攻撃はファランクスに弾かれ、それを抜けても攻防一体のアイギスドラゴンに阻まれ倒しきれない。それに輸送船団が常に体力を回復させ、大魔術師アラスの攻撃バフで攻撃もかなり痛い。このままではジリ貧だな。」オルテスは頭を抱える。
「そろそろ手持ちも少なくなっただろう?降伏しろ。今ならまだ寛大な処置で済ませてやる。」頭を抱えるオルテスにマグネスは語りかける。
だが、オルテスはいきなり顔を上げて笑い出した。マグネスは困惑する。
「なんてな。」オルテスはそう言ってカードを一枚置く。
補足情報として、このカードゲームのレアカードには魔力が込められており、使用した際にエフェクトが出るのだ。
雷のエフェクトが現れマグネスの編成の前衛と後衛が入れ替わる。
「これは…神の鞭?」マグネスは冷や汗をかく。
「ははは!この時を待っていたんだ!お前は終わりだ!」オルテスは立ち上がって絶叫する。
「しまった…このままでは!」マグネスが呟くと同時に前衛に出てしまった輸送船団と大魔術師が倒されてしまう。
マグネスの苦し紛れの反撃も大した効果はない。
「お前は死ぬんだよ!」オルテスは絶叫し後衛に置かれ役立たずになった神兵とアイギスドラゴンを倒す。
マグネスはなんとか大魔女エーナのカードを出す。この大魔女は先ほどの大魔術師の妻であり、大魔術師アラスが倒された後に出すと、問答無用で相手のカード一枚と共倒れするという強力なカードだった。だが、たった一枚のカードを落としたところでもはや勝ち目などなかった。
勝つビジョンが見えなくなったマグネスは項垂れる。
「すまないイリーナ、レオン、ベル。私はここまでだ。」マグネスは眼を閉じる。
「終わりだ!お前は死ぬ!死ね死ね死ね!」オルテスは勝ちを確信しとっておきを出す。
そう。彼の推しである魔王だ。カードに描かれた魔王は美しい女性の姿で、オルテスの心を奪ったキャラクターだ。魔王は2ターン行動不能になり全ての攻撃を受ける縛りがあるが、3ターン目に問答無用で相手の前衛と後衛を吹き飛ばす強力な攻撃ができるカードだ。
本来であれば2ターン目に落とされてしまうためデスビームを撃つことはできないが、今のマグネスのデッキは崩壊しており、防御バフのかかった魔王を落とすことはできない。
今のデッキを落とされれば彼の手札には雑魚カードしか残っていない。つまり、すでにマグネスの敗北は確定したのだった。
2ターン後、マグネスは奮戦し魔王の体力を八割削ることに成功したが、倒すことはできなかった。
マグネスに残されたのはあと2手。それが終わるとデスビームが全てを消し飛ばす。
オセロで言うと四つの角全てを取られたようなものだ。
マグネスは眼を閉じる。
声が聞こえる。
誰の声だ?
「タンクは仲間のために攻撃を引き受ける。仲間を守るためなら犠牲を厭わない。それがタンクの役目だから。」
イリーナの声だ。彼女にはタンクとしての美学があった。
そうだ。マグネスは思いだす。
あったはずだ。ここで使えるカードが。
マグネスは一枚カードを裏返して置く。このゲームでは、2手消費してカードを裏返して出すことができるのだ。相手の意表をつくことができるルールだ。
「それで終わりか?」オルテスはニヤつく。
「ああ。終わりだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。」マグネスは落ち着いて言う。
「そうか。じゃあな、マグネス。」オルテスは魔王のカードを前に出す。
同時に禍々しい色の光線のエフェクトがマグネスのデッキを貫いた。
「勝ったぞ!」オルテスは勝ち誇る。そして、彼のデッキを見たオルテスは自分の目を疑う。
「何?残っている?誰も死んでいない?」オルテスは動揺する。
動揺するオルテスにマグネスは一枚の低レアカードを見せる。
「それは…」オルテスは呆然とする。
「カスタンク。と呼ばれていたな。このカードは、相手の攻撃を受けて自分は落ちる代わりに味方全員の体力を1残すことができる。このゲームにおいて一度攻撃を耐えても次の攻撃で落とされるからこのスキルは無意味だった。だからカスタンクと呼ばれていた。」マグネスは淡々と説明する。
オルテスは状況を察し顔を歪める。
「だが、魔王の攻撃の後貴様は1ターン動けない。カスタンクも使えるところはあるんだ。」マグネスはタンクの低レアカードを優しく倒れたカードたちの束に積み上げる。
「まずい!」オルテスは青ざめる。
「私の勝ちだオルテス。お前ならこの1ターンスタンの重みがわかるだろう?」
「クソ…こんな…こんなっ!」オルテスは喚く。
「お前の敗因は二つ。一つは、推しでとどめをさすことに拘ったこと。もう一つは低レアを軽視したことだ!」マグネスは叫んだ。
・・・・・・・
オルテスは呻き声をあげ白目を剥いて倒れる。
「私の…負けだ。」オルテスは気の抜けた声で言う。
「ああ。だが、良い戦いだった。」マグネスは深々と頭を下げる。
「悔しいなぁ…」オルテスは呟く。
「約束通りこの教団からは抜けろ。」マグネスはオルテスの目を見て言う。
「…。そうだな。俺は魔王を使いこなせなかった。今の俺に魔王と謁見する資格はない。」オルテスはそう呟いて気絶してしまった。
「なんとか勝ったか。だが、私も…」マグネスはふらつく。
「こんなところで倒れるわけには…仲間を援護しなければ…」マグネスはそう自分に言い聞かせながら先に進もうとするが、先ほどの熱い戦いで精魂尽き果て眠ってしまった。
激戦の後には二人の闘士の身体が転がるだけだった。