24.棺桶を担架の代わりに使うな!
「最悪…全然終わらないじゃない!」ニーハは相変わらずキレていた。
「まあいいだろ。最悪時間さえ稼げば任務完了だ。」エトは後ろから声をかける。
「あんたはそうやって後ろからバフかけてるだけだろうが!」ニーハがさらにキレる。
「エトとやら、こんな幼い少女に戦闘を任せて恥ずかしくないのか?」マグネスがエトを挑発する。
「そうよ!情けない!最悪!」ニーハもなぜかマグネス側に立つ。
「全然?俺は価値観がアップデートされた新しい人間だからな。みんなに活躍の機会を与えてるんだぜ。」エトはおどける仕草をする。
ニーハが何か言おうとした時後ろから声がする。
「あら、まだやってたの?」皆がそちらを見るとイリーナが何かを持って立っていた。
「イリーナ?」マグネスが驚く。
「さっき埋めたのに…」ニーハは顔をしかめる。
「まだ戦うならさらに二人が加勢するけど、今退くならこっちも急いでるから見逃すわ。」私は交渉に入る。
「は?」ニーハが突っかかる。
「それに、あんたたちの依頼者はこれになったけどまだやりたい?」私は二人の前にさっきの男の腕を放り投げる。
「「ええ?」」エトとニーハは驚く。
その瞬間いきなり背後の建物が真っ二つに斬れる。
「おっと悪い。交渉中か。」建物の奥から竜太郎が顔を出す。
ニーハは現状の戦力差から自分たちが不利になったと悟り唇を噛む。
「まあ、死んじまったら報酬の意味もねえもんな。帰るとしよう。」エトは笑う。
「はあ?エト!このまま引き下がる気か?」ニーハはキレる。
「ああ。そうだ。そう怒るな、クライアントには俺のせいにすりゃいい。」エトは軽く言う。
「それに、お前も限界だろ?」エトは真顔でニーハを見る。
「…」ニーハは舌打ちをする。
「ってことで俺たちは帰る。じゃあな。」エトはそう言うとニーハを抱えて去っていった。
「死ね!覚えてろ!」とニーハは怒鳴り散らしていた。
「元気な娘だったな。」マグネスはつぶやいた。
「さあ、早くレオンたちを援護しに行こう!」私の言葉にマグネスと竜太郎は頷いた。
援護に向かった私たちは唖然とする。
物陰でソフィーが深手を負ったレオンを半泣きで治療している。
「ちょっと!レオン?!」私は動揺しつつ駆け寄る。
「ごめんなさい…力不足…で…」レオンは絞り出すように言う。
「ダメ。下手に喋っちゃダメだからね。」私はすぐにレオンの止血を手伝う。
「ソフィー!何があった?ベルは?」竜太郎はソフィーに詰め寄る。
「ごめん…ごめん…」ソフィーは泣きながら呟く。
「何があった?詳しく説明してくれ。」マグネスは少し強い口調で語りかける。竜太郎は少しマグネスを睨んだ。
「別れた後、しばらくしたところで二人組の相手をすることになって…そこでレオンがやられて…かなり深い傷で。それにベルも攫われて私どうしていいかわからなくて…」
レオンはなんとも言えない顔をする。
「ありがとう。」マグネスは優しく呟く。
「え?」ソフィーはチラリとマグネスを見る。
「ソフィー、君の選択がどういう結果につながるかはわからない。だが、レオンを助けてくれてありがとう。」マグネスは優しくソフィーに感謝の気持ちを伝える。
「でも…」ソフィーは俯く。
「失った命は戻らない。でも、攫われたなら取り戻せばいい。罪悪感なんて持たなくていい。あなたは少なくとも私にとっては正しいことをした。」私はそう言ってソフィーの頭を撫でる。
「取り戻すのか?」マグネスは私を見る。
「ええ。当然。」私は頷く。
「ああ。仲間をやられてベルも奪われて引き下がるなどできないからな。」マグネスは頼もしく笑う。
「留太郎はどうするの?」私は尋ねる。
「取り返すに決まってるだろ!当然ベルは取り戻す。それにソフィーがつまらん罪悪感を持たないようにしないと。部下のメンタルケアも勇者の勤めだ!」竜太郎はそう言って立ち上がる。
私とマグネス、竜太郎の三人は頷きあった。
「まずレオンを病院に運ぼう。」私は呼びかける。
「そうだな。こいつが死んだらソフィーがまた病んじまう。」竜太郎が同意する。
「よし、ではこの棺桶にレオンを入れて私と竜太郎で担いで行こう。」
「「却下!!」」マグネスの提案を私と竜太郎は光の速度で却下した。
「え〜」マグネスは口を尖らせた。