24.この腕どうする?
男は竜太郎の攻撃を喰らい高く吹っ飛ぶが、そのまま上手く着地する。
「今気づいた。誰もいないな。一人残ってるがな。つまりお前はその一人に傷を押し付ける気だ。大勢に押し付けるよりまだ良心が痛まないとかか?外道だねぇ。」男は竜太郎を指差し煽る。
「…」
「おっと図星かい?でも参ったね。お前の狙いがわかった今俺は人の多いところへ移動するだけでお前は動きづらくなる。困るよなぁ?じゃあ、俺はこれで…」男はそう言って屋根の上を軽く飛び越え人通りの多いところに行こうとする。
「待て!」竜太郎は急いで呼び止める。
「なんだ?まだ何かあるのか?」男は一旦立ち止まる。
「……。し、しりとりしようぜ!」竜太郎は苦し紛れに意味のわからない提案をする。
「引き留めるの下手かお前…」男は唖然とする。ここまで酷い引き止めは流石に予想外だった。
だが、男は気を取り直して再び逃げようとする。 が、何かに腕を掴まれ動けない。
「いいわよ。”ぜ”ね… 絶対逃さない。」男はいきなり知らない女に腕を掴まれ困惑する。
振り解こうとしたら簡単に振り回せるので力が強いわけではない。握力が強いわけでもないが、どういうわけか掴んだ手が離れない。
「おっさん、”い”よ。」女はそう言いながら腹を殴ってくる。
「いや!なんだお前は!」男は焦る。
「待てイリーナ!そいつは今全てのダメージをお前に押し付けてる!」竜太郎は急いで止める。
「じゃあ好都合じゃない?」そう言って私は顔面を殴ろうとするが避けられる。格闘戦は弱いから仕方ない。
「そうだな!お前なら気にせず切り刻める!」竜太郎は拘束された男目掛けて大きく剣を振りかぶって襲いかかる。
「ちょっとは気にしてくれてもいいのよ?」私は微笑んだ。
数分後、男はもうぐったりしていた。傷はつかないにしても数分間の一方的な暴力により心身ともにダメージが蓄積していた。このままでは痛みで死んでしまう。何か次の手を打とうにも全身がもう音を上げている。どうにかしなければ…男は走馬灯をみつつ次の手を考えた。
「さあ!とどめだ!」竜太郎は大きく男の首に向けて剣を振りかぶる。特にこれといったとどめである根拠はない。
「待って!」突然のイリーナの妨害により剣が弾かれる。
「何すんだ!」竜太郎は怒鳴る。
「こいつ今ダメージをあんたに移そうとしてた。自分で自分の首切り飛ばす気?」
「お…おう、すまん。」竜太郎は急に素直になる。
「全く、油断ならんな。」私はそう言って男の腕を持ち上げる。だが、異変に気づく。やけに軽い。
「おい!それ!」竜太郎は私の手元を指差す。
「え?」私は手に持ったものを見る。 腕だ。腕だけになっている。驚くべきことに男は今の一瞬で自分の腕を切り落とし逃げたのだ。
「クソ!トカゲ野郎!」竜太郎は辺りを探すがもうどこにもいない。
「くそ!早く探し出さないと。」竜太郎は辺りを見回す。
「待って!優先順位を見誤らないで。まず他のみんなを援護する。OK?」私は竜太郎を引き止める。
「わかった…」竜太郎は素直に従うと大きく深呼吸する。
「まずはマグネスに加勢して3対2で相手を潰してその勢いでレオンたちに追いつく。いい?」
「ああ。時間がない!俺に掴まれ。」竜太郎は私に手招きする。
「あと、この腕どうしたらいい?」私はぶらんとした腕を持ち上げる。
「知らねえ…」竜太郎は冷たくあしらった。