第29話・復讐
「あっ!」
私がつまずいてしまった。悪魔はまだ結界から脱げだせないらしくずっと遠くにいるけど、ルークは諦めた顔をしていた。
「俺も・・・・・・やっとシノン以外に目がむいたのにな。スィルだから話しておくよ。いや、聞いてほしい。」
「な、何が?」
それより逃げようよ、ルーク。
「俺、記憶、本当は結構もどってたんだ。だから革命のことがわかったのも悪魔が来るのがわかったのも全部俺がどっかの騎士だったから。戦争の真っ只中、誰かをつれて逃げてたはずなのに何故か俺は一人あざつきとして生きてた。そのことを今まで言わなかったのは記憶が戻れば戻った分だけ契約期間が近くってことで、みんなに心配させたくなかった。」
遠くにいる三人はムダだと分かり切っていてもすこしでも時間を稼げるように、その場を動かずに守護印をはり続けていた。
「スィル、俺も気付いたよ。」
その瞬間、結界から這い出してきた悪魔はルークの後ろにいた。
すごい早さの移動だ。
私が見てる目の前でルークの血が飛び散った。
「ルーク・・・・・・?」
「俺も、スィルのこと、好きだと・・・・・・思う。」
目の前が真っ白になった。
私が見てる目の前で、一瞬のうちに悪魔はルークの心臓だけをえぐり、掴み取っていた。
そしてそれを食べてから笑いだした。
「俺、人間の言葉知ってる、こゆーの、こうゆーんだ!deletion!!ヒャハハハハハハハ!こいつを助けた姫様とやらもバカだよな!期限やっても意味ないのに自分じゃなくてこいつを助けたいなんて言うなんて!自分の命は俺にやるっていってさぁ、こいつは他の悪魔が契約する予定だったのによぉ!ヒャハハハハハハハ!」
そして口にまだたくさんの血をつけたまま飛び去った。
「う、そ・・・・・・だよ。ねえっ!」
でもルークの亡骸はまだほのかに熱を残したまま目をつぶり、動かない。
「うそ・・・・・・こんなの・・・・・・イヤァァァァアアアアアアア!!」
顔を覆い、目を見開いて叫びわめいた。
あまりにも唐突すぎて涙さえもうでない。
そのころようやくシノンも仲間も合流を果たし、私達のところに走って来た。
「ルーク!おみずっ!・・・・・・え?」
シノンの声がかすかに聞こえてその後はよくわからなくなった。
たぶん、泣いてたと思う。
それと、私は多分慰めてくれようとしたナツハの手を振り払ったと思う。
でもそれ以外は何もわからなくなった。
気が付けばすべてが無になり、木によりかかりながら泣いていた。
ルークの亡骸は冷たくなってきてて、死後硬直を起こし、ずっしりとただそこにある錘のようになっていた。
「ルーク・・・・・・。」
今、ある記憶のなかではルークが私の初恋だったのに・・・・・・。
許さない。
許さない・・・・・・。
許さない!
「絶対に許さないっ!」
さよならルーク、私、絶対にルークの仇をうつからね!
うってうってうちまくって悪魔なんてありえない世界にしてやるからね!
復讐という名の怨みに燃えた私はすくりと立ち上がり、誰よりも勇ましくルークを土に返した。
自分の顔や手、服にルークの血がついているのを最後のルークの遺品として。
ルークの血はすでに茶色っぽく変色していたけど、この血に誓う。
私は絶対に悪魔を許さない。
そしてもう一つ誓う。
私は絶対にルークの仇をうつ。
絶対に!
もう心の強さなんてどうでもいい。
強くなりたい。悪魔を倒したい。
それだけだから。
「あ、スィル、血・・・・・・かな?何かついてるよ。」
そういって拭おうと近づいてきたシノンを私は払い除けた。
「拭かないで。私はこれに誓ってるの。ルークの仇をうつっ。絶対にっ!」
「え、あ、そう・・・・・・なんだ?ごめんなさい。」
「仇をとって・・・・・・どうするつもりだ。」
シュウナンが私を見た。
「うつものはうつわ。絶対に悪魔を許さない。文句があるなら言えばいいわ!笑いたければ笑いなさいよ。私は悪魔をたおしにいく。今すぐにでもあいつを殺してやりたい。憎い!今すぐにでも強くなりたい!そう思うことがいけないことだとは私は思わないから!」
そして明かりから背をむけ、遠ざかっていった瞬間、私は・・・・・・倒れた。
「スィル!」
かすかにセーナの声を聞いた気がする。




